「なんだよジョー?」
いつの間にか近くに来ていたジョーに、やや困惑気味のディエマ。
キンデにシャムゥもいる。
皆、藪から棒なジョーの言葉の意図が理解できない。
そんな顔だったが、かまわず続けるジョー。
「ずっと考えてたんだがよ…あいつ…シドをやったのは、戦士の門の番人なんだろ?通常、封印された場所…そっから奴が出てきた」
「そうですね」
相変わらず意図のハッキリしないジョーの物言いだったが、辛抱強く相槌をうったのはシレイス。
「てことはだ。確かめなくちゃならないと思うんだ」
「何を?」
聞き返すディエマ。
それとは対照的に、ジョーの意図を理解したとでもいうようにハッとした表情のシレイス。
続くジョーの言葉は浮かんだ考えを肯定する。
「戦士の門…行こう」
「な、何を言って…」
反射的に出たと思われる声は二人分。
言ったのはキンデとシャムゥだ。
「死にかけたんだぞ。あの日以来禁忌とされてきた!!聖なる地への行き方がわかるまで絶対に手を出すべきではない。ラリスが言ってたではないか!入り口を湖に沈めたのだってそのためではなかったか?」
シャムゥが語気を荒げる。
…………!!!!
動きが止まる。
ジョーが制止の手を向けたからだ。
「解ってる。けど、門番だけじゃない…水の化け物だって襲ってきた。お前だって見ただろ?それにラリスを殺した魔導士だって……この数か月、謎の訪問者が多すぎる。すべての元凶があるとしたら戦士の門しか思い当たらない。封印を解かない限りつながるはずのない世界にいるはずの門番が現れたのが何よりの根拠だよ」
「だからって、進んで危険な場所に行くのは自殺行為だ。もう、ラリスはいない。帰還の魔法が使えない以上、俺は反対だ」
苦々しい表情はシャムゥ。
「で、でもよ…」
「おい、ジョーしっかりしてくれよ。お前、この村のリーダーになったんだぞ?みんなを裏切るのか?」
「そんな気持ちは更々無いが…」
シャムゥの厳しい目線を避けるジョー。
「ジョー!何度も言うが進んで危険を冒す必要はないだろう?」
畳み掛けようとしたシャムゥだったが、待ったがかかる。
「シャムゥそこまでだ」
「シレイス?」
「ジョーの言う通り戦士の門を調べるべきだと思う」
「おい、何言ってる?」
その場にいる誰よりも驚いた声を上げたのはディエマ。
「戦士の門の入り口に封印を施していたのは誰です?」
「あ!!!!」
その場で、唯一人何か思い当たったのか、声をあげたのはジョー。
かまうことなく続くシレイスの言葉。
「そうです。他ならないラリスです。その彼女が死んだ。死んだだけで封印が解けることは無いみたいですが、少なくとも効力が弱まった可能性はある。あれだけの爆発が起きたのです。なんの影響もなく無事だとは思えない」
夜空に向けてシレイスが指さすその先に、いまだ消えずにある例の土煙が見える。
ようやく夜の闇に眼が順応したのか、その巨大な影と湖の不気味なコントラストが月明かりによって浮かび上がってくる。
未だ大きさの変わらぬ巨影は、空へと伸びる。
しかし、意識を向ければ確かに下降するような動きを確認することができた。
その周りの削られた湖岸もはっきりとではないが、認識することができる。
封印はその湖の底にあるのだ。
これだけの破壊が起きて何らかの影響が起きないほうが不思議だといえた。
「封印を確認する必要を感じないか?ジョーはそれがいいたいのでしょう?」
うなづくジョー。
身を乗り出すディエマ。
「つまり、何か?封印にほころびが出来ている?」
「可能性は否定できません。それならば、門番がこちらの世界に現れることもあり得ない話ではない。いずれにせよ、封印が万全なのか確かめればわかる事。我々がここで安心して暮らしていくには必要なことです。そうは思いませんか?」
先ほどから苦虫を嚙み潰したような表情のシャムゥに同意を求めるシレイスだが、
「くっ……もしほころびとやらがあったとして、どうするんだ?あれは魔導士たる資格をもつラリスだからこそ出来た封印だ。」
「確かに今の私にできることは無い。また勝手に戦士の門をくぐれないようにと、師匠は呪文の種類すら教えてはくれませんでしたから」
「つまり、ほころびが出来ていたとして、修復は不可能に近い?」
いや、何か方法はあるのだろう?
期待をこめるジョーのまなざし。
即答はしないが、シレイスの表情はその期待に応える事は無かった。
「どっちにせよ、あっちの世界からまた刺客が来る可能性があるってこと?」
「そういうことになりますね…」
苦々しい表情を浮かべるシレイス。
皆一様に黙り込む。
重苦しい空気が流れる。
が、
一瞬にして終わる。
何かを振り払うかのように首をふったジョーが、軽い感じで沈黙を打ち破ったからだ。
「なぁ、シドだったらこう言うと思うんだ」
「なんだよ?」
「俺たちの村を終わらせていいのか?ってさ…」
「はぁ?」
言おうとしている意味が読み取れずあきれ顔のシャムゥ。
続く言葉に開いた口がふさがらなくなる。
「守るなら攻めろってさ…とりあえず行ってみないか?」
ギロリ…厳しい目がジョーに向けられた。
シャムゥにディエマだ。
しかし、二人の目に込めた意図は違っているようだ。
「こんの馬鹿リーダー!!状況見て言えってぇの!!!」
「シャムゥ!!」
制止する声はディエマ。
「なんだよ!!」
「俺たちがここにきてまず決めたことそれは何だ?」
「な、なんだよ!!」
「いいから、言ってみろ!!」
「あ?この村を守っていく」
「そうだ。だから戦士の門にいくんだよ」
「いや、どうして?どんな脅威があるかわかりもしない!!俺たちじゃ敵わないかもしれない化け物がいる。現に水の化け物に、ラリス以上の魔導士まで…」
「行くんだ!!!」
「馬鹿かって!!ここは王様に助けを求めるべきだ」
「馬鹿はおまえだ」
「なんだと!!」
「王国までどれだけ日数がかかる?」
!!!!!!
「そうだ。その間に戦士の門の封印を解かれたらそれこそこの村は終わる」
「村は再建できる。別にここである必要は…」
「村を守っていく!!誓った!!」
「か、確実に実力が足りない。ハージンがいなかったら、死んでるんだぞ!!この村はとっくに終わってた!!生きなきゃ!!死んじまったら村を守るもへったくれもあるかよ」
「シドの願いは!!!」
叫ぶディエマ。
瞬間、シャムゥの声がつまる。
動揺を見せるシャムゥに続けるディエマ。
「お前たちに第二の故郷をつくってやる!!それがシドの願い!!」
「俺が作ってやるから、お前ら、必死で強くなれ!!強くなってこの村を守れる力をつけろ。もう二度と故郷を失いたくなかったら自分で自分を守る力を身に着けろ…口癖でしたねシドの…」
「シレイス…お、俺は…」。
何か言いかけ、迷った表情で口を閉じたのはシャムゥ。
しかし、
迷いを振り払うように首を振り払うと、
「死にに行くようなもんだ!!お、俺はみ、認めねぇ」
吐き捨てて、闇の向こうへと走り去ってしまった。
~続く~