「今日はもう遅い。とりあえずアゼクに戻ろう」
空は赤みを帯び始めている。
様子を見ていたシドが言う。
そんなシドを無視して、ディエマが言う。
「なあ、ハージン」
「こら、リーダーの言う…」
「いいから、シドは黙ってろ」
「なんだと…」
怒りかけるが、続くディエマの言葉に、止まる。
「シドの…この右足…もしかして治せたりしない…よな?」
「おま…何を…そんなの」
言いながらも、期待と希望のこもったまなざしを向けるシド…
引きずるような歩き方に気付いてから、ハージンも気にはなっていた。
しかし…
険しさ増す表情のハージンに、及び腰になるディエマ。
だが、
「やってみよう…」
ハージンは、半信半疑の人間がよくする表情になりながらも応じた。
「いいか?」
シドが頷くのを見て、しゃがむとシドの右足に手をかざし、集中を高めるハージン。
やがて、緑色に輝き始めるハージンの体。
「温かいな…」
思わぬ変化にびくりとしながら行方を見守るシド。
まじまじと見るシレイスとディエマ。
ハージンの手から、うねうねと水しぶきがほとばしるようにウワッと広がる光。
俗にいうオーラとでもいうのか?
最初に感じた緑だけではない不思議な光がシドの右足を包む。
「どうだ?シド?」
ディエマが聞く。
「あぁ、なんだかポカポカして、今まで痺れた様な感覚があったんだが、それが無くなった」
「本当か?」
満面の笑顔でお互いを確認するディエマとシレイス。
「まだだ…」
黙ってろと言うように、空いている左手で制するハージン。
固唾を飲んで見守るシレイス。
「ここだ!!」
言うが早いかシドの右足を掴むと、
ハァアアアッ!!!!!
気合一閃、力を込める。
「うおっ!!」
まるで力が入らないとでもいうように膝から崩れ、転ぶシド。
支えようと手を放すハージン。
「大丈夫か!!」
駆け寄るのはディエマ。
「だ、大丈夫だ」
ディエマを制するシド。
その表情は固い。
「駄目か…」
言うディエマと同じ事を思っているのだろう、俯くシレイス。
「あ??」
拍子抜けする声はシド。
恐る恐る足を持ち上げている。
踏みしめる。
「信じられない…」
ゆっくり立ち上がるシド。
何度か持ち上げては地面を踏みしめるを繰り返す。
「痛くない…」
ぎこちなく走り出すシド。
自信が持てない…
そんな動き…
トントン…トン
トットットン
タッタッタ…
違和感なく踏みしめられる足…
普通に走れている。
引きずるような動きは、もはや微塵も感じられない。
「マジか!!」
ディエマの驚く声。
「神殺し…か…」
言いながらハージンの前で立ち止まるシド。
息を整えるように一息つき言う。
「こんな奇跡連発されちゃ、もはや神殺しではなく、神と呼んで差し支えない…」
「よせ!!!!!!!!!!!!!!」
シドとシレイス、ディエマまで驚くほどの声量で叫ぶハージン…
場が固まるとはこの事だ。
「俺は…神なんかじゃない…神なら完璧に、思いを具現化できなくちゃ…」
シドを治した光が消える…
辛そうに背を向けるハージン。
広がる静寂…
そんな場を場違いな声が駆け抜ける。
「おい~!なあに暗くなってんだってぇの!!俺様は悲劇の主人公ってか?ダッせぇ!ダッせぇ!!」
ディエマだ。
険しい顔を向けるハージンに言う。
「神だろうと人間だろうと完璧は無いと俺は思うぜ。だって、俺たち人間を作ったのが神だって言うなら、こんな不完全で、罪深い、どうしょうもない存在を作った時点で、完璧とは言えないんじゃねぇの?それによ、悪魔を作ったのは誰って話も出てくる気がするんだけど、どうだよ?」
「ど、どうって…」
言葉に詰まるハージン。
そんなハージンの一瞬のスキをついて、背中をドンっと叩くディエマ。
「ほぉら、真面目に答えようとするから、わかんなくなるんだって…とにかく、あんたはシドの右足を治した!!もっと自慢していいんだ。どうだ凄いだろうって!!俺なら、こう言うね~」
シドを指さし、
「そうだろう。そうだろう。神さまぁ~?チッチ…」
舌を鳴らす。
「神の中の神!!スーパーウルトラゴッドと呼びな!!」
頭を抱えるシレイス。
「なあにがスーパーだ!!てめぇはカゴでもかかえて買い物でもしてやがれ!!」
一発こづいてやろうと、拳を固め走り出すシド、逃げ出すディエマ…
何だこの不毛な争いは…
てか、カゴに買い物って…
あきれ顔のハージン。
その横で頭を抱えていたはずのシレイスを見てギョッとする。
シレイスが見ているのは不毛な追いかけっこを延々続けそうな二人のいい年こいた戦士二人。
何でもない下らない光景…
しかし、それを見ていたシレイスの目からは涙がこぼれた…
ハージンに近づくシレイス。
「一生を賭けても償いきれない…そう思っていました」
笑顔が、その涙が悲しみからでは無い事を物語っている。
「シドから足の自由を奪ったあの日から…」
深く刻まれた心の傷…
それは過去になろうとしている。
(俺たちならいけるって!!絶対無敵!!どうだ!村一番の英雄になろうぜ)
蘇る若かりし頃のディエマの声。
応える敬語ではないシレイス。
(そうだな!!行ってみるか!!)
師匠に黙って開いた戦士の門…
修業を終えるまで絶対に行ってはならないと言われていた。
(なあにが魔力が足りないだよ!!簡単じゃん!!)
ラリスに、門を開くには魔力が必要だと教えられてきた。
しかし、魔力が足りないのでは無い…
意味をはき違えていた。
巨大な敵…
山のような大きさの化け物を前に、嫌でも思い知らされることになった…
何と言う速さ!!
圧倒的腕力…
二人とも、一瞬にして血だらけになる。
出会ってはならない、実力が違いすぎる相手だった。
~続く~
