約35年前のファイル | 音楽すること・生きること

音楽すること・生きること

フランスに住んでいます。結婚、出産、国を超えての度重なる引っ越しを経てフランスに在住、長男が小学校5年生の時から仕事を
再開。その1年後にジャズピアノを始めました。
音楽・その他、日々の出来事を綴っています。

楽譜を探していて、見慣れない薄手のファイルケースを見つけた。
わたしの好きな色 ――マゼンタ――のファイルケースだった。

開けた瞬間、35年前の時間がどっとあふれ出してきた。

わたしがついていたピアニストが校長をしていた音楽学校で、試験の審査員を

したときの給料明細。
ピアノ教師向けの講座の資料。
留学先の学校で受けていた音楽分析の授業メモ。

そのメモを見返して、今になって思う。
当時わたしは、知っているフランス語の動詞が50個くらいしかないような状態で、

先生の話を音だけで聞き取りながら必死に分析の講座を書き留めていた。
よく頑張っていたなあと、感心する。

それから、夏休みの音楽講習会に通っていた頃のこと。
毎日、当時付き合っていた彼――今の夫――から受付にメッセージが届いていた。

まだ携帯電話が普及していなかった時代。
紙に印刷されたメッセージのインクは、もう薄くなって、ところどころ読めなくなっている。

そして、夫の手作りのしおりもファイルケースの中に入っていた。
小さな写真と日付、そして寡黙な夫らしい短い言葉。

“A ma petite chérie”

「ぼくのかわいい恋人へ」
「愛しい小さな君へ」
「大好きなかわいいあなたへ」

そんな意味だ。

フランス語の “petite” は、体が小さいというより、「かわいい」という愛称に近い意味らしい。
とはいえ35年の間に、わたしは10キロ以上体重が増えた。

夫は健康のために10キロの重りをつけてウォーキングすることがある。

一緒にウォーキングをしたことがあった。その時、重り込みの夫より。

わたしのほうが体重が重かったという事実を、改めて重く受け止めようと思った(笑)。

35年。
女性は子どもを産み、生活を重ねれば、体形だって変わる。

でも、このしおりと、もうひとつ出てきた昔の自分のメモ――文字や小さな絵――

 

 

を見ていると、学生結婚後の大変な生活に飲み込まれる前の、自分のみずみずしい感性が

確かにそこに残っていた。

懐かしい、というだけではない。
あの頃の自分は、今の自分のルーツであり、アイデンティティなのだと思う。

だから、自分自身を取り戻したくなった。

……正直に言えば、増える前の体重も取り戻したい。