戸田弁護士と弁護団は2年間、幾度も綾部市の現場国道に向かっては実験を繰り返した。
豚の背中部分を買って来ては棒に縛り付け、被害者に見立てて、山下一郎の軽トラック荷台に草刈機を乗せて走るのだ。
荷台からはみ出た草刈機の刃が国道を歩く被害者の首筋に当たるように何回も何回も、検証実験を繰り返した結果、弁護団は山下一郎が加害者犯人にはなり得ない!
この実験をもって確信を得たのだ。
実験の結果、山下一郎の軽トラックの草刈機の刃が被害者の首筋に物理的に絶対に当たらないのだ。
このような実証検分を警察もしている。
いかに杜撰な実験であったかを戸田は高裁にて立証した。
次に必要なのは真犯人の特定である。
弁護団は、綾部市国道死亡事故現場での真犯人を見つけなければならない。
まず、実験の結果山下一郎の軽トラックからはみ出た草刈機では被害者のおばあさんの首筋には草刈機の刃がどのように荷台に置いても当たらない。
何故なら、おばあさんの背中は曲がっており、首筋が地上から約1メートルと低いためであった。
この状況を警察は無視し、山下一郎の拷問による自白強要を唯一拠り所として犯人に仕立てあげたのである。
戸田は考えた。
あんなにも低い位置の首を切断寸前まで出来うるものは何か?
現場に簡易チェアを運び、道行く車両を何気に見ていた時である。
うわっーーーー!!!
アレやーーーーー!
戸田は発見したのだ、凶器を!
山下一郎の草刈機の刃が凶器ではない。
凶器はーーーーー!
大型トラックの荷台に付いているJ型の金属の荷台シート止めに違いない!
またもや、実験した戸田弁護団。
実験の結果は言うまでもない。
被害者の首筋にピッタリとJ型の金属フックは引っかかった。
次に戸田はバイトを雇い、行く日も行く日も現場で死亡事故時間に通行するトラックをチェックしたのだ。
同時刻帯に通行する複数台の大型トラックを又は会社を炙りだした戸田。
ピックアップした大型トラックを使用している会社に赴き一台一台トラック荷台のJ型の金属フックを丹念に調べ続けた結果。
一台見つける事が出来たのだ!
この容疑者トラックは九州の配送会社のトラックであった。
J型の金属フックも1箇所曲がっていた。
被害者の首筋に当たる部分であった。
トラックの勤務表にも死亡事故当時、綾部市に配送していた。
戸田弁護団は地道に証拠を積み重ねていったのである。
山下一郎が大阪高等裁判所で無罪を勝ち取った後、検察は最高裁に上告せずに結審した。
警察は戸田弁護団の示した真犯人の容疑者の大型トラックの運転手を逮捕した。
山下一郎は警察の真犯人検挙で晴れて無罪を獲得したのであるが、一度犯人の烙印を押されると二度と戻らないのだ。
戸田弁護団と康三は、山下一郎の名誉回復と同時に国家賠償法による申し立てを国に求めた。
国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
警察による冤罪事件であった。
山下一郎は失ったものは、とてつもなく大きく次生はいたたまれなかった。
山下一郎が国から受けた賠償金は当時3000万円。今なら1億5000万円になろうか。
山下一郎は、先祖代々の土地を手放し村から出て行った・・・