被告 山下一郎は、無罪っ!
大阪高等裁判所の裁判官が言い放った。
どよめく法廷。
傍聴人席から飛び出して行く者は、多分記者達であろう。
高裁正面玄関前では、無罪!の垂れ幕が誰が用意したのか、掲げる支援者達の笑顔が溢れ落ちている。
バンザイの声が沸き起こった。
山下一郎は、法廷で泣き崩れた。
勿論、玉子も弟山下健二も立ち上がれない。
康三は相変わらずのポーカーフェイスで弁護団席の前に座る検察官を見据えている。
筆頭副主任の戸田勝弁護士は、小さく拳を上げ、傍聴人がすわる席に向かって小さなアクションで応えた。
長い二審であった。
現場に何度出向き調査、実験をしたか。
裁判長の「被告人は、無罪っ!」
の一言が、こんなにも重く、暖かく一瞬で人を歓喜させるのかと、次生は痺れた。
幸せに酔いしれたのだ。
カッチョイイっ!
戸田先生!おめでとうございます。
良かったーーーー。ホンマに良かったっ。
溢れ出る涙を拭くハンカチを次生は持ってこなかった。