REX5期 大阪の 谷井隆夫です。

3年前の11月、当時の大阪府知事 橋下徹氏に同行して韓国に行きました。日本以上にダイナミックな教育改革を進めているアジア諸国の教育事情を、大阪府の現場教員に見聞させることが知事の目的でした。その第一団が橋下知事ご自身と、教育委員長、教育長をはじめ事務局幹部全員が参加したこの 韓国視察 でした。 私は四條畷高校の教頭をしていましたが、現場教頭代表としてこの視察に参加しました。

 
ソウル目抜き通り(世宋路)にある 李氏朝鮮第4代国王の世宗(在位1418~1450年)の像

※ 今回掲載する文章と写真は、帰国後全府立高校あてのメールマガジンに掲載されたもので、すでに一度公開されているものをブログ用に調整したものなのです。写真は全て私自身がiPhone撮影したものですし、公開後3年の時間を経ていますので、著作権等を含めて、ブログ掲載に問題ないと思いますが、何かお気づきの点があればお知らせください。

 
朝、ロッテホテルロビーで スタッフに挨拶をする橋下徹知事

 韓国は日本以上の学歴社会で受験競争が過熱しており、子どもたちは夜遅くまで塾通いをしていると聞いていました。その競争を勝ち抜いてきたトップレベルの生徒たちは、学校5日制で育った日本の生徒たちよりずっと優秀であることも予想していました。ところが、この先入観と現実の間には根本的なところで大きなズレがありました。韓国の教育状況は、学習一辺倒という一面的なものではなく、その教育政策には二つの柱があったのです。

 
中谷小学校 所得層の低い地域につくられた超豪華小学校

一つは「平準化政策」と当地で呼ばれているものです。これは親の収入差や地域差による教育格差を解消するための政策です。例えば、ソウル市北部の低所得者の多い地域に新築された小学校は、大きな予算を投じて設備が整えられた学校でした。この小学校には、人工芝のグラウンド、3Dシアター、テーマパークのような英語教室がありました。さらには教育相談室や複数の体育館や図書館なども整備されており、都心の5つ星ホテルよりも豪華な印象をもつ施設でした。この小学校の校長先生は、「多くの機能を持った学校が、地域の協力を得て地域コミュニティの核として活動している」と話してくれました。

 
 
中谷小学校 英語教室
また、教育庁での説明やバスガイドさんの解説から、高校入試は地域の高校のどこかに振り分けて入るという選抜方法になっていることがわかりました。大学入試の競争は完全には解消されていないけれど、「不平等をなくす」という姿勢がハッキリわかる制度になっていました。これが「平準化政策」です。

 
ソウル科学英才高校  選抜された理系高校生が学ぶ公立高校


 もう一つの柱が「英才学校と特性化学校」という文字通りの内容の学校です。今回の私たちは、こちらの方に重点を置いて視察を行いました。ソウル科学英才学校は、学区にかかわらず生徒を募集できる学校で、2200名の志願者から120名の合格者を選抜します。一学年には8クラスあり、1クラスの定員は15名と非常に少ない人数です。ここを訪問した際には、科学の自由研究、英語スピーキング、西洋思想史についての生徒発表を見学することができました。一方的な講義形式の授業は一切なく、発表、討論、質疑応答など、生徒主体の授業がほとんどで、そのレベルの高さに驚きました。


 
科学英才高校の校長と挨拶を交わす 橋下徹前知事

大元外国語高校は、早くから進学校として知られた私立高校です。ここの生徒は、韓国語と英語の他に専門言語を中、仏、日、西、独から一つ選び、大学の授業を聞いてスピーチできるレベルまで学習しています。さらに、ほとんどの生徒が自由意志で4カ国語目の勉強も終えて卒業するとのことでした。卒業生は外交官、企業マン、弁護士、会計士などとして活躍しています。これらの英才学校は大学入試に際して、一般入試ではなく随時入試で受験するということです。つまり、大学側が特別な試験で競って取ってくれるので、高校生側の大学入試の負担はないそうです。


 
大元外国語学校 卒業時には最低3ヶ国語 平均4ヶ国語を話せるようになっている

この文章に記したように、韓国の教育事情を見聞して、決して驚かなかった部分と、予想を越えた部分との両方がありました。国ごとに文化が異なるわけですから、隣国の取組に慌てることなく、しかしじっくり参考にして、自分たちの方向を考えていけばいいのではないかとこの時思いました。 あと何回か続けます。

 

 台湾との交流に先だって、生徒たちにいくつか事前学習しておいてもらわなければならないことがあります。一つは歴史的なことです。1895年から1945年まで日本が台湾を統治したこと、その後中国国内の内戦の結果
敗れた国民党軍が台湾に渡って今の政府をつくったこと、1972年に日本は中国と国交を結び 台湾との正式な国交を断絶したことなどです。

 

実は歴史的な事実よりも最近の出来事の中で、ぜひ知っておかなければならないことがあるのです。2年前の東日本大震災の際、日本は世界各国から様々な援助をしていただきました。その中で200億円の義捐金を送ってくれたのが台湾なのです。この額はアメリカを越えて世界で最高額でした。これは、政府、企業、個人、全ての規模で募金活動が展開された結果です。様々な歴史的経緯の中で台湾人が日本人に示してくれた率直な好意だったのです。今回の鹿港高校訪問での挨拶の際、私はこの支援に対するお礼を全校生徒に一言いいました。その瞬間すごく大きな拍手が返ってきました。交流の際、地震被害への援助に一言お礼を言うことは重要です。

 
震災のときに 台湾全土で日本への支援活動が起こりました
台湾の映画を2つ紹介します。
どちらもウェイ・ダーション(魏徳聖)という同じ監督がつくった最近の映画です。1つは「海角七号」という2008年の映画で、台湾の歴史上最大数の観客を動員したものです。このタイトルの意味は、岬七番地という住所を表しています。日本統治時代の住所で現在の台湾では使われていないため、60年前にこの住所あてに書かれた7通のラブレターが届かないままになっているのです。主人公は、台北で成功できなかった台湾人男性ミュージシャンのアガと、やはり売れない日本人女性モデルの友子です。このカップルが、台湾南端の地で再度バンドを結成し前座の演奏を成功させるとともに、60年前の日本人男性教師が台湾人女性の恋人に書いたラブレターを届けるというストーリーです。日台間の歴史と、台湾社会の現状がよくわかる映画です。

 
「海角七号」 現在と60年前の二組のカップルのラブストーリーです

もう一つは、2011年の「セデック・バレ(賽德克·巴萊)」という映画です。タイトルの意味は「真実の人」です。日本統治下の1930年、台湾で起きた先住民族・セデック族による抗日暴動「霧社事件」を描く歴史超大作です。とても悪い日本人が出てきて先住民族を弾圧するので、日本人として心が痛みます。また、最終的にこの反乱軍は日本軍によって完全に鎮圧され、あるものは戦死しあるものは自殺していきます。しかし、この映画は、日本を非難するために撮られたのではなく、見過ごすことのできない歴史的事実を率直に描いたものであることが感じられます。「自分たちの民族の生き方を全うするために、勝てないことがわかっている相手に立ち向かう」ということを頭目のモナ・ルーダオが言っています。
 
「セデック・バレ(賽德克·巴萊)」 台湾で起きた先住民族・セデック族による日本に対する反乱を描いています。


REXでオーストラリアへの派遣を経験させていただいた私が、台湾や中国のことを多く語るのには違和感を感じる方がいるかもしれません。「生徒たちに世界を見せたい」という思いは同じです。この思いを共有することで、気持ちを一つにできるのではないかと思います。

  
 
 
海外研修に参加する際、生徒たちの最大の楽しみは「人との出会い」にあると私は考えています。言葉はなかなか通じなくても同世代の人と友だちになれたり、町で出会った人に親切に道を教えてもらったり、そういう暖かいふれあいが何よりの思い出になるからです。ですから今回鹿港高校(ルーガン高校)で、陳校長先生と相互交流の計画を話し合い、密接な交流の機会を約束できたことは大変有意義だったと考えています。

交流を担当してくださる 鹿港高校の曾教頭先生と日本語のチャン先生

 
鹿港高校の合唱コンクールで、校長先生に日本語で解説をしてくれる3年生の鄭仲庭さん

 では「人との出会い」の次に楽しいことは何でしょうか?おそらくそれは様々な異文化体験だと思います。特に食べる物の美味しい台湾では「食文化体験」は非常に大きな楽しみとなるに違いありません。岬高校の海外研修では、旅行社を通じてレストランを予約し高級料理を食べるより、夜市、朝市、大衆食堂で、安くて庶民的な料理を食べることをたくさん経験してほしいと私は思っています。屋台のおばちゃんとのふれあいや、英会話の練習の機会にもなります。今回の出張でも、ほとんどホテルの外の屋台や町食堂で安くておいしい料理を私は楽しんでいました。そんな台湾の庶民料理を紹介しましょう。

 
台中最大の逢甲夜市です
 
串焼き屋さん  好きな食材をかごに入れてさしだすと 炭火焼にしてタレをつけて調理してくれます。
 
台北で食べた牛肉麺  煮込み牛肉の入った醤油ラーメンです 

  
台北で食べた水餃子  ミンチとニラが中につまっています
 
蚵仔煎(オアチェン)  屋台料理の定番の牡蠣オムレツです
 
 臭豆腐  においが強烈なので日本人ははじめは敬遠しますが  食べてみると全然臭くなくてとてもおいしいです

たくさんの庶民の食べ物が安い値段で売られているので、12月の台湾研修では色々試してみるといいでしょう。大体朝ごはんは200円くらい、晩ごはんでも500円もあれば十分です。私は中国語が少し話せるので、中国語で注文しますが「唐辛子はいるのか」「中で食べるのかテイクアウトするのか」「大か小か、熱いのか冷たいのか」とどんどん質問されると聞きとれなくなります。そんな時は、私は日本人なので、今言ってくれたことが聞き取れなかったのです。もう一回言って」ください」と頼むと、日本語や英語を使って一層親切に教えてくれます。

修学旅行などの大人数の学生旅行では、大きなホテルに泊まり、バスで移動し、そこそこ名の通ったレストランで食事をすることになります。でも私の私見では、自分で切符を買って移動し、自分で欲しいものを注文して食べることの方が楽しくて、得るものも多いと思っています。今年の岬高校の台湾研修は小グループです。できれば自由度の多い研修旅行にしてもらえたらと願っています。