演出面を深く考え過ぎずに観れば、月組の生徒一人一人の芝居は今回も流石だなと思いました。
最初から「カンパニー」ありき、出来上がっているのではなく、個がしっかりしていて互いに主張し、ぶつかり合いながらゴールに向かって1つになっていく。
作品と同時進行で月組というカンパニーが完成するプロセスを観ました。
ほどほどにしない。
場当たり的に丸く収めない。
とことん突き詰める。
互いの「違い」を認め、受け入れ、その上で共に創る。
そのプロセスから新たな輝きが生まれ始めるのです。
青柳誠二@珠城りょうはただの優しい人ではなく、何事にも常に真摯に向き合う姿勢が「誠実」なのだと思います。
人にも、トラブルにも。
適当に済ませれば気まずい思いに苦しむことなく、面倒をかけずにやり過ごせますが、青柳は真正面から取り組みます。
私は角を立てないことだけが優しさだとは思いません。
青柳はたとえぶつかったとしても、それがあまりにも素直で正直で真摯だから、相手に伝わるのです。
そして珠城りょうが演じると外連味がなく、観ていて非常に心地よく映ります。
ヒーローの才能と青柳のような地道な努力の積み重ねによるものではないでしょうか。
愛希れいかの高崎美波を観ていると、この作品が宝塚の「バレエごっこ」ではないことがはっきり分かります。
役を全うする実力と表現力。
ただ、踊っている時も確かに凄いのですが、普段の何気ない仕草の中に「バレリーナ」が垣間見えるとことに愛希れいかの「本物」を感じます。
たとえば、
お辞儀をした時の上半身と下半身の直線の美しさ、しなやかさ、折った腰の鋭角、折る時のキレ。
コンビニのお弁当ケースをさり気なく後ろ手で持ち替える時の動き。
(お弁当ケースを持ちながらの銀橋ソロ、彼女だから普通にできるのであってあれは振り、歌唱共に凄い技術だと思います)
など。
身体能力は「それそのものを魅せる場面」だけでなく「自然に現れてしまった瞬間」にも見所があると思います。
醸し出すオーラ、台詞の行間、目で感じ、目で語る姿。
美弥るりかが高野悠である理由はダンスだけでなく、「誇り高き、悩める世界的プリンシパル」という人物を余すところなく表現できる点にありました。
変わり者というより自分の筋を通す人、曲げない人なのでしょう、高野悠は。
だから媚びる人には流れませんが、同じように自分の筋を通す人には心を開くのです。
青柳誠二しかり、瀬川由衣しかり。
そういう意味ではバレエ硬派なのかもしれません。
そして硬派でストイックな高野悠@美弥るりかだからこそ色気が映えるのであり、軟弱な表現力とは比べ物になりません。
美弥るりかの役作りは地に足がついており、非常に冷静だったと思います。
この役は踊ることはもちろんですが、ダンスコンシャスになると作品の本質から外れてしまいます。
高野悠という人物、気持ちの変化を追求した彼女のアプローチは的確でした。
個人的に好きなのは祝賀パーティー冒頭の銀橋ソロ。
銀橋の使い方、銀橋に立った時の魅せ方を心得ながら高野悠として歌い、踊る姿は見事としか言いようがありません。
(稀に「それ本舞台で良いのでは?」「せっかくのチャンスなのに銀橋に飲み込まれてどうする?」という演出、スターのパフォーマンスもありますよね・・・)
ガツガツ攻める。
自分達のチーム、メンバーへの押しは強いが、理知的で気が利き、相手の立場に立った提案ができるので聴いてもらえる。
宇月颯が演じた阿久津仁はしたたかですが、策士ではありません。
「人たらし」に近い存在で、ピンスポが当たらないシーンでも必ずキーマンの側で何か交渉、提案している姿が光りました。
細かいですが、極めて正しい芝居、役作りです。
バーバリアンのダンスで目を惹いたのは下半身の粘り。
彼女はどんなダンスにも挑戦できる心意気と身体能力、柔軟性があるのだと感動しました。
飛べば空中で時間が止まり、着地してからも息が切れることなく豊かな歌声で劇場を酔わせる。
幕間のミニライブ、「ミニ」ではもったいなさ過ぎです。
また、バーバリアンのメンバーをはじめ組子、特に下級生を盛り立てようとする姿勢が随所に見られました。
これから「宇月颯になりたい」という下級生が続々と現れることを期待します。
月城かなとの水上那由多は終盤、有明紗良@早乙女わかばを怪我させてショックで落ち込み、ボロボロになってから(紗良や高野に)魂を再注入され復活する芝居が素晴らしかったです。
本人なりに努力し、自信を持って臨んだ舞台である程度の成功を収め、さらなる高みを求めたところでの挫折。
役を深く掘り下げないとできない演技だと思います。
特に東京公演、それも千秋楽での心をさらけ出す芝居は理屈を超えた説得力がありました。
愛希れいかだけでなく敷島バレエ団をバレエ団たらしめたもう1人は暁千星の長谷山蒼太だと思います。
彼女もまた踊っている時はもちろんのこと、ストレッチの時、座りながら脚を垂直に上げていたのには驚きました。
会話のやり取りは別の人物達がメインだったのですが、あの柔らかさには目が釘付けにならざるを得ません。
芝居にも遊びが出るようになって、充実しているのが全身から伝わってきます。
愛嬌と頼もしさ、両方を感じる舞台でした。
憧花ゆりの組長は田中乃亜という役も活かし、芝居全体を見事にコントロールしていました。
空気の作り方が上手いですよね、彼女は。
ただ、芝居の方向性はきちんと示しますが、強引にリードするタイプではないと思います。
皆が力を出した結果起こる様々な化学反応に対して寛容で、予想外の出来事も楽しんでしまうところが素敵です。
月組の組子達に緊張感と想像力溢れる奔放さあるのは組長のキャラクターのおかげかもしれません。
書けばきりがないにしても凄いなと感心したので1つだけ。
山田正芳@輝月ゆうまと大塚三朗@紫門ゆりやのランチシーン。
今回山田は原作と異なり青柳の後輩、柔道家。
ラーメンであろうどんぶりのスープを最後まで豪快に飲み干す演技。
大塚部長は味噌汁付きの定食をお上品に食べる演技。
これだけで説明せずとも「人となり」が伝わってきます。
当たり前の演技かもしれません。
でも、当たり前を続けることが一番難しいと思います。
この1シーン、この2人だけの話ではありません。
そんな当たり前を全員で、全場面で丁寧に積み重ねて、月組の「カンパニー」が完成しているということです。
組が3つの公演に分かれても、不安どころか新たなスター、個性に目を奪われるのではないか、3つの「カンパニー」の魅力をそれぞれ楽しめるのではないかと期待しかありません。
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