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アウトサイダーの本棚

活字メディアを中心としたレビュー


面白い本たち-消された一家
2009年、新潮文庫

2002年、北九州で発覚した連続監禁殺人事件のノンフィクション。犯罪ノンフィクションは世に多いが、これは事件自体が凄まじい。

事件を簡単に説明すれば、加害者が被害者家族を監禁し、通電などの拷問を定期的に行い、資産を巻き上げ、さらに言葉巧みに被害者家族同士を相互不信に陥らせ、被害者同士で殺し合わせ、死体処理もさせたという事件(詳細)

説明していても今ひとつ実感がわかないような内容だが、この本では公判から明らかになった事実に加え、周辺への取材を通して、事件の経緯が明らかにされている。極めて凄惨な事件が、冷静に整理されている。

読み返して改めて思うのは、人間は簡単にコントロールされ、躊躇無く残虐行為に走るということである。私たちが日常で自明視している「常識」は文脈依存的であり、代替可能である。巧妙にシステムを更新すれば、私たちはどこまでも暴走できる。システムの更新は、一般的に「洗脳」と呼ばれるが、何も特殊なことではない。新入社員の教育から、カルト宗教の修行、軍隊の訓練に至るまで、世の中では広く用いられている。

事件自体は、「洗脳」の技術を用いながら、監獄実験(参照 )的な環境をつくることで、徐々に舞台が整っていったといえる。

しかし著者も書いているように、主犯の男がなぜこのような行為に走ったのかが不明である。つまり一般的な意味で言う「動機」がよく分からない。金を巻き上げるだけだったら、わざわざ手間をかけて監禁したり殺したりする意味がない。被害者たちを完全に意のままに扱える状態を楽しんでいたのかもしれないが、断定はできない。

結局、「よく分からない」のである。それこそが、事件の不気味なところである。著者の豊田氏は、凄惨な事実関係につきまとう得体の知れない不気味さを手際よく「翻訳」しており、その手腕が光る。