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活字メディアを中心としたレビュー


面白い本たち-マイノリティの拳
2006年、新潮社

本書は、かつてボクシングのプロテストにも合格したライターによる、歴代世界チャンピオンたちの軌跡である。登場するボクサーは、ホセ・トーレス、マイク・タイソン、アイラン・バークレー、ティム・ウィザースプーン、ジョージ・フォアマンなどである。

私は格闘技全般が好きだ。その中でも特にボクシングが好きだ。ただのファンなので、ボクシングの魅力について明確に説明する言葉を持たないのだが、素人的な感覚としては、ある種の合理性に強く惹かれる。

無論、どんなスポーツでも合理性が重要なことは間違いないだろう。しかし特に格闘技の世界において、攻撃と防御の理論化や、ウェイト制をはじめとする精緻なルールなど、ボクシングの合理性には抜きん出たものを感じる。

しかし結局、リングで闘うのは生身の人間である。理論は武器になるが、それがあれば勝てるわけではない。「マーベラス」の名を持つマービン・ハグラー(伝説的な統一ミドル級チャンピオン)は言う。

ボクサーにとって一番大切なものは。ハートだな。それも、自信の含まれたハート。ロープに四方を囲まれたリングには、本当の人生があるからね。向かい合う相手と自分しかいない。決して逃げられはしない。外に出ることもできない。そういう場所なんだよ。自信が無ければリングでは勝てない。自信が無い、という時点で、そのファイターは敗者さ。人生も同じだろうね(214頁)。

合理的な練習を積み重ね、身体と理論を一体化させる。しかしどんなに練習を重ねても、防衛を続けても、リングに上がることの恐怖を口にするチャンピオンは少なくない。ハグラーは決して安易な精神論を語りたいのではなく、最後の最後で勝者と敗者を分ける非情な境界のことを言おうとしているのだと私は思う。

この作品に出てくる多くのボクサーは、マイナスから人生をスタートさせている。彼らはいずれも、自分の拳で人生を切り開いてきた。しかしチャンピオンとなった後も人生は続く。45歳になっても、ブロンクスのプロジェクトで困窮した暮らしを続けるアイラン・バークレーのエピソードなど、読み返す度に不条理を感じる。

チャンピオンといえども人気不人気があり、興行という側面からすればそれは「使い勝手」になる。ボクサーの力を超えたところにある力が、大きくはたらく。その力に翻弄される人、利用する人がいる。ハッピーエンドを望み、バッドエンドに落ちる。「敗者には何も与えるな」という言葉があるが、勝者であったはずの者も、気づけばすべてを失っている。

仏教的に言えば「無常」ということなのかもしれないが、普通はそこまで達観できない。だからあがく。ピークをすぎてもリングに上がり、老醜をさらすと揶揄されても、いくばくかの金をかせぐ。

この本がしみるのは、そうやってあがいている人々の姿を愛情をもって描いているからだろう。伴走者のような著者の姿勢には、共感するところが大きい。