111回 この時期の乾燥肌対策は、保湿因子を増やすことです
花粉が飛び交う季節になってまいりましたが、まだまだ、冬特有の乾燥状態も続いております。
こんな季節は、お肌が乾燥しやすくて、肌が荒れやすいため、花粉症でない方も、お肌にはあまりいい季節とは言えません。
乾燥肌対策として、化粧品やお肌のお手入れ法など、ネット上にもたくさん情報がありますが、人のお肌は元々乾燥しないようにできていますので、生命科学的観点から、乾燥肌対策のお話をしたいと思います。
表皮常在菌
人の肌には、表皮常在菌という細菌が住み着いています。
これらの細菌は、悪さする場合もありますが、基本的には、お肌のバリア機能の一端を担っています。
表皮常在菌には、3つのタイプがあり、それぞれはたらきが違います。
1.表皮ブドウ球菌(善玉菌)
ブドウ球菌は、遺伝学的に35種類ほど見つかっていて、うち、15種類が人間から見つかっています。
通常は、非病原性であり、他の病原菌から表皮を守るバリアーや、表皮を健康に保つ役目を果たしている菌です。
①皮膚を弱酸性に保つはたらき
表皮ブドウ球菌は、皮脂を分解して、グリセリンと脂肪酸に分解します。脂肪酸は酸性であり、表皮を弱酸性に保つ役割を果たします。
それによって、お肌のバリア機能をサポートしているのです。
②NMF(天然保湿因子)産生サポート
皮脂、汗と表皮ブドウ球菌が分解した成分が混じりあって、NMF(天然保湿因子)を作り出し、表皮の潤いを保ちます。
つまり、お肌の保湿をサポートするはたらきをしています。
③菌のバランス維持による雑菌からの保護
弱酸性を保つことで、雑菌の生息や侵入を防いで、バリア機能を維持します。
また、感染症やアトピー性皮膚炎を引き起こす原因となる黄色ブドウ球菌を防御する抗菌ペプチドを産生します。
また、この表示ブドウ球菌の餌(栄養)になるのが汗です。また、汗も病原微生物を防御する抗菌ペプチドにより表皮ブドウ球菌のはたらきを助けます。
ということで、汗をかくことは、表皮常在菌をサポートして美肌につながるのですが、この季節は、なかなか汗をかくことが少ないので、サウナやスポーツなどで汗をかくのも、肌トラブル対策になります。
2.天然保湿因子(NMF)
NMFは、皮膚表面の角質層の中にある物質で、水分を保つ重要な働きがあります。一つの決まったある物質を指すのではなく、約 20種類ほどの物質の総称です。
赤ちゃんの肌がみずみずしいのは NMFが多いからといわれています。元々、皮膚細胞の中で生合成しているのですが、加齢とともに生産量が低下していきます。
NMFの成分は、以下のように、その半分以上が遊離アミノ酸とアミノ酸由来成分のPCAなどでできています。
【NMFの組成】
遊離アミノ酸 40%
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12%
乳酸塩 12%
尿素 7%
ミネラル類 19%
その他 10%
さらに、この中の遊離アミノ酸の成分は以下のような構成になっています。
【NMF内の遊離アミノ酸の組成】
セリン 30%
グリシン 18%
アラニン 9%
スレオニン 7%
アスパラギン酸 5%
その他 31%
上記の成分の内、化粧品業界で注目されている成分が、ピロリドンカルボン酸(PCA) です。化粧品の原料として使われるようになっていますので、困っている方は、試してみるのも良いかもしれません。
大豆、糖蜜、野菜類などの植物類にも含まれていますので、急がない方は、食事から摂取されることをお勧めします。
ということで、元々、人の皮膚は、乾燥しないような仕組みになっていますので、色々と試されるのもよろしいかと思いますが、あまりやりすぎると、逆効果みたいなこともあるので、お気を付けください。
お勧めの保湿因子増産法
1.常在菌を減らさない
洗えば洗うほど、常在菌は流れていって、当然のことながら、NMF(天然保湿因子)の生産もできなくなります。
表皮ブドウ球菌がNMF(天然保湿因子)を生産してくれていますので、洗浄力が強烈な合成界面活性剤の使用はやめて、低刺激系のソープ(シャボン玉石鹸とか)がお勧めです。
朝の洗顔は、お湯で洗うだけが理想です。
また、週末には、軽く運動して、常在菌のエサとなる汗をかくと良いかと思います。
※常在菌の中には、アクネ菌(ニキビの原因)や、黄色ブドウ球菌など、悪さをする菌もいます。
人によっては、不潔にならない程度に洗うという微妙なさじ加減は、必要かもしれません。
(肌トラブルが悪化しそうな方は、早めに病院に行かれたほうが、よろしいかと思います。)
2.角質層のNMFを増やす
皮膚細胞で、NMF(天然保湿因子)を生産していますので、これを活性化させるのが理想です。
ピロリドンカルボン酸(PCA)を含めて、保湿因子は、ほぼアミノ酸ですので、基本的には、良質なたんぱく質の摂取がお勧めです。
特に、ミネラルも多い海産物系はお勧めです。
また、生合成するためには、酵素も必要です。ビタミンB3(ナイアシン)を多く含む食材(ブロッコリー、キャベツなどの葉物野菜)の摂取に心掛けてください。
ブレオマイシン水解酵素、カスパーゼ14、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)、GFF(ガラクトミセス培養濾液)など、保湿因子の生産を活性化させる効果があるとおぼしき成分が入った化粧品も発売されておりますので、お急ぎの方は、ご利用されてください。
皆様のお肌が若返ることを祈念しております。
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