精神科でのオーベン(指導医)がK先生に決まりました。K先生は暖かく真面目そうな先生で

ホッとしました。私の的外れな質問にも一生懸命答えて下さるのを見て、良い先生だなぁ、

と思いました。


本日、精神科外来の初診にK先生の陪席しました。

この日精神科を受診された患者さんは30代前半の女性。主訴は不眠と意欲低下でした。


精神科では他の科よりもずっと、生活歴を重視します。

家族構成、学歴、職歴等、現在そこにいる患者さんを形成した環境を

大切だと考え、細かく問診します。本来、良い医療を提供するためには

他の科でももっと時間を割くべき部分だと改めて感じました。


また、診察では服装、髪型、アイコンタクト、話し方や表情など

内科医としてあまり意識して観察しない部分も重要な情報として

カルテに記載します。


患者さんは高校を卒業後上京し、以来一人暮らしをしていました。

仕事はひとつの場所では長く続かず、転々としていたようです。

性格は本人の言葉を借りれば神経質で心配性とのこと。

これまでも軽い不眠は経験していましたが、これだけひどいのは初めてという事でした。

不眠、意欲低下などの症状は、今年の夏に結婚した時から始まっていました。


夫とは春に見合いで知り合い、何度か会っただけで結婚を決めたという事でした。

しかし、結婚してすぐに「合わない」と感じているようでした。

夫は大変細かい人で、些細な事で怒鳴られる事もしばしば。

患者さんは物悲しさや落ち込みを感じており、寝る前に涙を流すこともあるそうです。


軽いうつ状態、という感じです。しかし話を聞いていると食欲は普通、罪責感を感じたり

希死念慮はなく、感情の日内変動はありません。思考が緩慢であったり制止も

全然なさそうです。家事も出来ており、もちろん妄想や精神病症状もありません。

始めは表情が固かったのですが、最後の方はだいぶ和らいでいました。

目に力があり、まだこの人は大丈夫だな、と感じました。


総合病院の精神科では外来で十分なカウンセリング等は出来ないので、この方は

近くのメンタルクリニックに紹介となりました。本人もそれを承諾されました。

薬は、一番つらい症状である不眠(寝付けない)に対してレンドルミンという薬が

処方されただけでした。K先生による診断名は『適応障害』となっていました。


適応障害は病名をつける程のものではない事もありますが、環境に気持ちの折り合いが

つかず、不眠や抑うつなどの症状が出るものを言います。精神科の領域ではありふれた

病名(状態)です。どの年齢層でもみられますが、成人では結婚、離婚、転居、

疾病、経済的な問題が原因として多いようです。通常、適切な治療を受ければ数ヶ月で

改善すると考えられていますが、ストレスが慢性的なものであると長引くこともあります。

薬物は、内因性のうつ病のように中心的な役割は果たさず、対症的に抗うつ薬、

抗不安薬、睡眠導入剤を処方します。


私は結婚をして5年になりますが、結婚をして良かったと毎日思っています。

(妻はどう思っているかわかりませんが…^^;)

しかし、パートナーが“合わない”と感じ、怒鳴られながら一緒にいるところを

想像すると、それは一人でいるよりもずっと辛い事かもしれません。

いよいよ精神科の研修が始まりました。

当院の精神科は閉鎖病棟で、かつ精神科救急もやっている、かなり本格的です。

ナースステーションから病棟への入り口は鍵がかかっており、

中に入る時は一種独特の緊張感があります。

しかし、半分以上の患者さんは(少なくともパッと見た感じは)会話も笑顔も至って普通で

何処が悪くてここにいるんだろう、という印象でした。


精神科の部長の先生はガハハハと笑いながら話す方で、スタッフとの会話も

「ああ、いいよ、いいよ。なんでも」という感じで極めてアバウト。

第一印象としては、自らは絶対に病みそうにないタイプ。

「君は三ヶ月もいるんだから医局に自分用のマグカップを持ってきなさい」

という、どうでも良い事が最初のアドバイスでした。

でも、お陰であまり緊張はなかったです。

それから、これ使わない時は外した方がいいよ。

と部長先生が2番目に教えてくれたことは、聴診器を首にかけるな、でした。

…首を絞められる、という事みたいです。滅多にはないそうですが。


その後、前日緊急措置入院(自傷他害の恐れのある精神疾患の患者さんを、家族や本人の

許可なしに入院させる事が出来る)になった患者さんを、外(都道府県)から派遣されて

来る精神保健指定医ふたりが診察する場に立ち会いました。

病棟は独房、といった感じで、鉄格子で仕切られており、

ふとんとトイレしかない部屋。患者さんは武器になる可能性のある、メガネや靴、ピアス、

入れ歯など全て預かられてしまいます。


患者さんは統合性失調症で通院している若い男性でした。すごいスピードで車を運転し、

その後昔自分の住んでいた家(今は空き家)で焼身自殺を図ったところ、近所の人が

通報し、警察に保護されて連れてこられたようです。

薬で一晩休んだ後だからか、思ったよりも落ち着いた様子で診察を受けておられました。

以下にやり取りの一部を紹介します。


以下、D:医師 P:患者さん


D:追い詰められちゃった?

P:はい


いきなり核心の話です。


D:どうして死ななきゃいけなかったの?

P:「死ね、死ねという声が…」

D:それはいつから?

P:「平成13年からです」

D:声は誰の声?

P:わかりません

D:確かに聞こえる?聞こえるような気がするのではなくて?

P:聞こえます。指令とか…。

D:声には逆らえないの?

P:普段は大丈夫…

D:昨日は逆らえなかった

P:はい


何年も前から「死ね、死ね」という声が聞こえるなんて想像を絶する辛さですね。

でも、この患者さんは治療を受けながら、今まではこのような衝動的な自殺を

せずに、仕事も頑張っておられたようです。


D:指令は遠くから?

P:はい

D:声は一人?大勢の事は?

P:以前はそういう事も…。

D:組織?

P:いいえ…。

D:誰かに監視されている?

P:いいえ

D:自分では死にたいとは思わなかった?

P:思いました

D:どうして?

P:精神科の病気だから…治らない。

D:希望が持てない?

P:はい…。


この方は引き続き措置入院として入院継続する事になりました。

診察した精神保健指定医は、「彼は入院して治療したら何とかなるんじゃないか」

とおっしゃっていました。「病的でない部分が残っており、病識もあるから。」

ちなみに統合性失調症は治らないと思っている方は多いですが、1/3は完全に治るそうです。

1/3は部分的に何らかの問題を残しつつ治り、残り1/3は良くなったり悪くなったり

しながら進行していく、とこの先生が後で教えて下さいました。

風の旅人さんの、『プールサイドの人魚姫』というBlogから、トラックバックを頂いて拝見しましたが、

その中で「鬱が病気?ハァ?勝手に病気にするんじゃない」というタイトルのお話がありました。

「うつ」は病気ではない。個人の“精神世界”であり、“もう一人の自分”。だから治らない。

そんな内容でした。


風の旅人さんは28年間うつを経験しておられるという事ですが、うつは治らないと書かれると

更に落ち込み、悲しい気持ちになる方もいらっしゃると思います。私もこの意見には

賛成しません。治らない事もある、なら理解出来ますが。しかし、これはネガティブな発想では

なく、“新しい発想、新しい世界を提供してくれる頼もしい友人”となり得ると書かれています。

治そうと思うから苦しい。そんな風の旅人さんの経験の中から出てきた、重みのある言葉だと

理解しています。


「抑うつ」は原因があれば誰にでも起こるものですが、医師が「うつ病」と呼ぶ

状態は、憂鬱な気持ちややる気の喪失が、“社会生活を営む事が難しいほどに”起こり、それが

“2週間以上続く”と定義されています。かのSigmund Freudは、

“精神的に健康とは、愛する能力と仕事をする能力があることである”

と述べており、なかなか分かり易い表現だと思います。、こういった状態が失われると

“病気”であると考えられるわけですね。


医師の定義する「うつ病」の殆どは、それ程長い期間を要さず元の精神状態に戻ります。

病気を克服した方はもちろんたくさんおられます。しかし、きっと医師の言う「うつ病」という同じ

カテゴリーの中に、たくさんの状態が含まれているのでしょう。中には長期に渡り

うつ状態に苦しむ方がおられるのもまた事実で、そのような方にこそ、風の旅人さんの

言葉が理解出来、力になるのではないかと思いました。


私は明日から精神科のローテーションです。もっと多くの事を学んだ上で、今日書いた

この記事を振り返り、どのように思うのでしょうか。

一昔前に、『エコノミークラス症候群』という言葉が有名になりましたが、狭い乗り物の中で動けない

状況で血管の中で血栓が出来て、空港に着いて動き出したとたんに血栓が肺動脈に飛んで

詰まってしまった状態を肺血栓塞栓症(Pulmonary thronbo-embolism;PTE)と言います。

もちろん、飛行機に限らず、長期の臥床(例えば入院、手術後等)後にも頻発します。


典型的な症状は、(動き出した時の)突然の呼吸困難と胸痛(背部痛)、失神(意識障害)です。

頻脈、頻呼吸、低O2血症に加え、CO2も低下します。血痰もしばしば見られます。

鑑別疾患は心筋梗塞、急性大動脈解離、気胸等。

太い動脈が詰まれば、たちどころにショックや心停止をきたします。


ハイリスクなのは高齢者(80歳以上では20代の200倍)、PTEや深部静脈血栓症の治療歴、

胸腹部手術や整形外科手術後、骨折後、悪性腫瘍、心筋梗塞やうっ血性心不全等です。

これら(特に深部静脈血栓症は原因として最大)は注意が必要で、弾性ストッキングや薬剤

(ヘパリン等)による予防も考慮すべきです。


ちなみに当院の循環器内科では、CV lineで治療中の方や心不全の方では、基本的に

ルーチンにヘパリンを投与します。PTEの予防目的です。もちろん、出血のリスクが

高い方には省略しますが。


さて、医者として呼吸困難、胸痛の患者さんが運ばれて来た場合は重篤な他の疾患との鑑別を

考えつつ、本症を否定しなくてはなりません。また、全て典型的な症状とは限りませんから、

とにかく本症を疑う事が大切です。原因不明の低酸素血症を見ると、何でもかんでも「PTEかもしれない」

となんとかのひとつ覚えのようにおっしゃる先生がいますが、態度としては正しいことになります。


有用な検査は、


①心電図。むしろ心筋梗塞の除外として。右脚ブロックや右心負荷も参考になる事もあるが

右脚ブロックは健康な人にも多いので以前との比較が肝心。


②胸部X線。気胸はすぐに診断出来る。動脈解離は縦郭の拡大がヒントになる。

Knuckle sign(中枢肺動脈の拡張と末梢の急峻な細小化)が有名だがなかなか

見慣れていないとこれだけで診断はつかない。


③心臓超音波検査…右心負荷所見はかなり本症を疑う根拠となる。また心筋梗塞の否定に

役立つ。タンポナーデやintiminal flapは大動脈解離を疑う。


④採血…D-ダイマーは診断のガイドラインでも推奨されている。陽性でも診断出来ないが

陰性ならまず本症は否定出来る。また後の造影のために腎機能は調べておきたい。

下肢の静脈血栓まで見れたら言う事なし。


だが、PTEが強く疑われる場合は極力早く肺血流シンチ(出来ない病院が多い。

大きな病院でも当直帯では難しい事も多い。この場合は造影CT)を撮るべき。

最近の造影CTは性能が良く、1mmのthin sliceでは亜区域レベルまで診断出来る。

PTEを疑ってCTも撮れない施設なら、速やかに搬送すべき。


なんとなく違うと思うんだけど、どうかなぁ。というケースも多いと思います。

この場合、以下に診断のclinical probabilityを紹介します(Wells,P.S. et al;2000)


・深部静脈血栓症の臨床兆候、症状がある 3.0ポイント

・他の鑑別診断の可能性が、PTEよりも低い 3.0ポイント

・心拍数100以上 1.5ポイント

・最近4週間のうち、動けない状況になった、もしくは手術を受けた 1.5ポイント

・深部静脈血栓症、もしくはPTEの既往 1.0ポイント

・血痰 1.0ポイント

・悪性疾患(治療中、最近6ヶ月以内に治療、緩和治療) 1.0ポイント


上記が2.0未満 PTEの可能性は3.4%

2.0~6.0ではPTEの可能性は26.4%

>6.0ではPTEの可能性は78.3%


英国胸部疾患学会のガイドラインでは、上記にD-ダイマーの結果を合わせて

6.0以上では(禁忌がなければ)Dダイマーは不要でヘパリンの開始しつつCT、肺血流シンチ

6.0未満+D-ダイマー陽性ではやはりヘパリンを開始しつつCT、肺血流シンチ。

6.0未満+D-ダイマー陰性では他疾患の診断を、となっています。


ヘパリンは5000単位のボーラス投与の後、1日15000~20000単位ですが、追加投与は

診断がついてから。更にワーファリンも開始しますが細かい話はここでは割愛します。

クリアクターはPTEの適応が通りました。


本日の内容は、羊土社の『呼吸器内科必修マニュアル』を参考にしました。

この本はスーパーローテートの研修医のドクターには絶対お勧め!非常に良い本です。




知ってるようで知らない、便潜血の検査について。

まず、化学法と免疫法に分かれます。


化学法とは、普通グアヤック法、オルトトリジン法を合わせて言います。


グアヤックはあまり鋭敏ではありませんが、食物や薬物の影響が少なく

グアヤックが陽性であれば便出血の疑いが強いとみなされます。





一方でオルトトリジン法は鋭敏で、この方法で陰性なら便出血はまずないと

みなされます。




しかし、鼻出血や歯びん出血でも陽性となる事があるので、必ずしも消化管の

出血を意味するとは限りません



しかも、動物性食品に血液が混じると陽性に出る事があります。

試験紙の説明書を読むと



『潜血反応の検査をする3日くらい前から動物性食品及び生野菜を禁じ

その後2~3回排便した後の糞便を用いる事が望まれます』




とあります。食事制限、していますか?してないですよね。

つまり、化学法はかなりいいかげんです。

私のいた消化器内科では、化学法を使う先生はいませんでした。

ただ、患者さんに内視鏡を勧めるひとつの材料として行うなら良いのかもしれません。

あるいはワーファリン等を始める時に、オルトトリジン法を簡便なスクリーニングとして使うとか。

(後に述べたように免疫法では上部消化管からの出血を捕らえられない可能性があるので)



大腸がん検診で行う便検査は、免疫法です。つまり食事制限は必要ありません。

ちなみに便潜血陽性の患者さんの3%に大腸がんが見つかります。

ポリープも含めると、もっと多い数字になります(30%くらい)。

もちろん、痔でも陽性になりますが、痔の人は大腸がんにならない、という保障は

ないわけですから、陽性であれば一年おきくらいには大腸カメラの検査を受けておく事をお勧めします。

40歳以下場合は微妙です。大腸がんになる確率は極めて低いからです。

しかし、絶対ないとも言えませんので、家族歴や患者さんの希望により施行しても

良いのではないかと思われます。



また、便潜血陽性だった場合、もう一回検査をしましょう、という先生もいますが

早期がんでは40%程度しか陽性にならない事を考えると、これでは折角の

早期発見のチャンスを潰してしまう可能性が結構ある事になります。

注意して下さい。



最後に一言。

便潜血陽性を放置⇒大腸がんが手遅れ。

という人を嫌というほど見てきました。

せっかく検査するなら、ちゃんと精密検査まで受けましょう。