今回は、少しテイストを変えて、
ストーリー調でお伝えしていきたいと思います。
ちなみに、これは、事業承継にまつわる現場で起きている出来事の一つです。
(もちろん、人物は匿名です。)
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「先生、うちの承継は、制度の問題じゃないんですよね…」
打ち合わせの終盤、A社の社長はそう言ってコーヒーカップを置いた。
それまで熱心に語っていた事業計画や組織図の話が、
急に遠くへ退いたような間が生まれた。
会議室の窓の外では、工場の屋根が冬の光を静かに受けている。
私はあえて次の言葉を足さなかった。
この沈黙の中に、たぶんいちばん大事なものがあると思ったからだ。
制度の話が始まると、言葉が消える
多くの現場で同じ場面に出会う。
税理士やコンサルタントが並び、株価対策や役員構成の資料が机に広がる。
誰もが正しいことを言っている。
けれど経営者だけが、少しずつ言葉を失っていく。
A社長もそうだった。
「理屈は分かるんです。息子に継がせる方向も、数字の段取りも」
「でも、話していると、どうも胸のあたりが重くなる」
その感覚を、社長はうまく説明できないと言った。
だから会議のたびに、ただ相槌だけが増えていく。
黙ってしまう“正体”
私は、社長の手元にある古い社員旅行の写真に目をやった。
創業当時の仲間と写った一枚だ。
「もしかすると、承継の話って――」
言いかけて、少し言葉を選んだ。
「会社の未来の話である前に、社長ご自身の人生の話だからかもしれません」
A社長は、しばらく写真を見つめたまま動かなかった。
それから小さく頷いた。
「そうか……そういうことかもしれないな」
制度論は“会社の問題”として扱える。
しかし承継は、経営者にとって“自分が終わる話”でもある。
役割、肩書き、毎日の居場所――
それらを手放したあとの自分を、誰も一緒に考えてくれない。
だから言葉が止まる。
後継者の問題に見えて、実は経営者本人の問題
別の経営者はこう漏らした。
「息子が頼りないんじゃない。
私が、次の自分を想像できないんだ」
承継計画の遅れは、後継者の覚悟不足に見えることが多い。
けれど現場に立つほど、逆の景色が見えてくる。
経営者が黙るのは、会社を手放す怖さだけではない。
“これまでの自分”を終わらせる怖さでもある。
その感情に触れないまま制度だけを整えても、
どこかで必ず立ち止まってしまう。
小さく始められる一歩
面談の最後、私はこんな提案だけを置いた。
「次回は計画の話をやめて、
社長の半生を、ただ聞かせてもらえませんか」
目標も評価もいらない。
成功談にまとめる必要もない。
ただ、これまでの道のりを言葉にしてみる時間。
社長は意外そうに笑った。
「それなら、話せる気がします」
承継の最初の一歩は、書類作りではなく、
自分の物語を取り戻すことなのかもしれない。
静かに立ち上がるもの
制度は大切だ。
数字も手続きも欠かせない。
けれど、それらは“人の決意”の後からしか動かない。
経営者が黙ってしまうのは、弱いからではない。
むしろ真剣に生きてきた証でもある。
会社を次へ渡すとは、
自分の人生を次の章へ進めること。
その重さに、言葉が追いつかないだけだ。
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もし今、同じような沈黙を抱えているなら、
一度その気持ちを、静かに言葉にしてみませんか。
結論を急ぐ場ではなく、
“いま立っている場所”を確かめるための対話として。
無料相談や対話セッションでは、
制度の前にまず、経営者ご本人の物語から伺っています。
答えを出す場ではありません。
次の一歩が、自然に見えてくるまでの時間です。
必要だと感じたときに、そっと声をかけてください。



