会議が多い会社ほど、安心感があります。
議題が整理され、資料が整い、議事録も残る。
誰が何を担当し、いつまでに何をやるかも明確。
外から見れば「組織として成熟している会社」に見えるでしょう。
ところが、そういう会社ほど——
後継者が育たない、という矛盾が起きることがあります。
会議は正しい。運用も正しい。
それなのに、次の世代が育たない。
現場の感覚としては、ここがいちばん理解しにくいポイントかもしれません。
「正しい会議」は、何を守っているのか
会議が“正しく”回っている会社には、共通する空気があります。
それは、議論が荒れないこと。
大きな衝突が起きないこと。
そして、決めたことが粛々と進むこと。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
ただ、その「整い」の裏側で、会議がいつの間にか
“決める場”ではなく、“守る場”になっていることがあります。
守っているのは、プロセス。前例。暗黙のルール。
そして、もっと言えば——
経営者が不安にならない状態です。
この状態が続くと、後継者は会議の中で「発言」よりも先に、
“空気の読み方”を覚えていきます。
後継者が黙る理由は「能力」ではない
後継者が育たないとき、よく聞く言葉があります。
「本人の覚悟が足りない」
「視座が低い」
「当事者意識が弱い」
ただ、現場をよく見ると、必ずしもそうではありません。
むしろ、後継者は十分に考えている。
言いたいこともある。提案もある。
それでも黙ってしまう。
その理由は単純で、会議が“安全な場”ではないからです。
ここで言う安全とは、心理的安全性のような言葉だけではなく、
もう少し具体的な話です。
- 言っても結局、結論は変わらない
- 提案すると「否定」ではなく「修正」が入る
- 決めた後に「やっぱり違う」と上書きされる
こういう体験が積み重なると、後継者は学びます。
「考えない方が得だ」ではなく、
「考えても出し方を間違えると損をする」と。
そうなると会議は、成長の場ではなく、消耗の場になります。
会議が“正しいほど”育たない構造
会議が整っている会社ほど、役割が固定されます。
発言する人、決める人、まとめる人、実行する人。
誰がどんな立場で話すかが、ほぼ決まっている。
このとき後継者が置かれがちな位置は、
「学ぶ人」「報告する人」「手を動かす人」です。
ここで問題になるのは、役割そのものではありません。
問題は、その役割が長く固定されたまま、
“決める経験”が渡されないことです。
会議が正しいほど、意思決定の質を落とさないために、
判断が最後は経営者に戻っていきます。
「最終的には私が責任を取るから」
その言葉が、やさしさとして機能することもあります。
ただ同時に、それは後継者にとってはこう聞こえることがあります。
「あなたはまだ、その席にいない」
会議が整い、正しく回るほど、席の移動が起きにくい。
これが、後継者が育ちにくい会社に起きる“構造”です。
最初の一歩は「会議を変える」ではない
ここまで読むと、「会議のやり方を変えるべきだ」と思うかもしれません。
もちろん、運用の改善は有効です。
ただ、最初の一歩は、手法ではなく問いの置き方です。
たとえば、次の問いを会議の冒頭に一つ置くだけでも空気が変わります。
- 今日は何を“決める”ための会議ですか?
- この場で決められる範囲はどこまでですか?
- 決める人は誰で、何を材料に判断しますか?
これらはシンプルですが、効きます。
なぜなら、会議を「守る場」から「決める場」へ戻す問いだからです。
そして、後継者に渡すべきものは、仕事量ではなく、
“判断の経験”だと、自然に見えてきます。
後継者育成は、制度より“席の移動”
後継者が育つ会社は、会議が派手なわけではありません。
むしろ、静かです。
ただ、意思決定の席が少しずつ動いていきます。
議題の一部を任せる。判断の前提を共有する。
決めた結果を見守り、必要なら修正の理由を言語化する。
この積み重ねが、次の世代を育てます。
会議が正しく回っているのに、後継者が育たない。
もしそんな違和感があるなら、会議の“整い”を疑うのではなく、
その会議が何を守り、何を渡しているのか
を見直すことから始めてもいいかもしれません。
会議は、組織の鏡です。
そして承継は、席の移動です。




