先日まで開催されていた2020東京オリンピック。
日本選手はあまたのメダリストとなり、試合後のコメントを聞く機会も多かった。
中でもスケートボード女子ストリートで、西矢椛選手は若干13歳でありながら過去日本人最年少で見事金メダル。また銅メダルとなった中山楓奈選手も16歳。
色んな意味で若さがさく裂した競技だった。
試合後のインタビューで、本番競技中に中山選手と交わした会話内容を問われた西矢選手が「ラスカルの話をしてました」と答えたのだが、すぐにSNSで話題となる。
かく言う私も「……え? ラスカル?」となった。
間もなく還暦を迎える初老の男に、このセリフはヒットした。まったく想定外の単語の登場だ。
ラスカルって、まさか! いやいや、そんなはずは……。
一方の中山選手は「ラスカルの曲を聴いている」と、試合中の会話で年少の西矢選手に情報を共有したという。
アニメ『あらいぐまラスカル』。
初放映は1977年。今から44年前のことだ。
♪ありがとう僕のともだち ラスカ~ルに合わせてく~れ~て~
のエンディング箇所は私も歌える。
♪しろつめぐさの花が咲いたら~
の冒頭の箇所も歌える。
即日、当該アニメ制作会社はこのインタビューで飛び出した「ラスカル」発言を自社キャラクターを指すものであって欲しいという願いもあっただろう、さっそく二人に向けて受賞を祝福するイラストを発表する手際の良さだ。
あらいぐまラスカルがスケボーに乗ってジャンプしている絵が祝辞と共に発信された。見切り発車といってしまえばそれまでだけれど、このクイックレスポンスを可能にする会社の柔軟性には脱帽する。
かくして翌日、この二人の選手が交わしたラスカル談義はまさにアニメのテーマソングであったことが判明する。
中山選手はCS放送のキッズステーションでアニメを観、テーマソングにも惚れ込んだらしい。
44年の時を超えて、世代を超えて……放映当時だてに名作劇場と銘打っていなかったことが証明されたわけだ。
と、やはり前振りが長くなってしまったが、ここからが今回のブログの本題になる。
私が近年溜息をつきながら眺めてしまうTVコマーシャルがある。そして見た後に何時も必ずボヤいてしまう。
「一体どうしちまったんだ……アルムおんじ……」
家庭教師ト〇イに『アルプスの少女ハイジ』のキャラクターが登場するようになったのはいつ頃からだろうか。
最初は、もともと放映されていた映像に、後付けで合成されたオリジナルキャラクターである家庭教師の『ト〇イさん』がはめ込まれていたのだが、近ごろはコマーシャル用に新たにアニメが制作されている。
初期の頃はハイジやクララがメインだったと記憶するが、回を重ねるごとに存在感を増してきたのが『アルムおんじ』だ。今や完全に主役の座を奪ってしまった。
カルピスこども劇場『アルプスの少女ハイジ』の初放送は1974年。『ラスカル』よりも更に3年前だ。私は12歳、小学6年の時だ。
裏番組には、これまたアニメの金字塔『宇宙戦艦ヤマト』があったのだが、しかし当時の視聴率は『ハイジ』の圧勝に終わる。当初一年間を予定していた『ヤマト』も、放映回数を半分に減らさざるを得なかった。それぐらいに家族みんな、団欒で観たのが『アルプスの少女ハイジ』だった。
原作はスイスの作家、ヨハンナ・シュピリ(スピり)。
1歳のハイジは両親と死別し、母方の叔母に育てられるが、叔母の仕事の都合で5歳になった時に父方の祖父である『アルムおんじ』に預けられることになる。アルムとは放牧地のことを意味するらしい。アルプスの山で放牧を生業とするおじさんという設定だけで、本名は小説でもアニメでも不明だ。
シュピリの原作によると、おんじは若いころに賭け事やお酒で身を滅ぼし、傭兵として外国の戦地に赴いた過去がある。当時暮らしていた村では、実際には人を殺してもいないのに人殺しと噂をされ、村には住めなくなったという経緯があり、アニメでも冒頭そのようなことを連想させるセリフがほんの少しだけ出てくる。
ハイジが預けられた当初は、山小屋で一人暮らしをする人間嫌いの偏屈じいさんというキャラクターだったが、同居を始めたハイジの幼くて真っ直ぐな純粋さに次第に心が解放されていく。ハイジ自身もこのおじいさんが大好きになっていく。
なんとも心洗われる物語だ。
それなのにだ。
『家庭教師ト〇イ』のおんじときたら、
カンナで木材を削りながら、密かにラップを口ずさんだりしているではないか。
人間嫌いがラップを歌うか?
キャラの崩壊としか言いようがない。
最新のコマーシャルに至っては、大会場の壇上でまるでIT企業のCEOのようにプレゼンテーションをする始末だ。ヤギのゆきちゃんまで従えて。ゆきちゃんをアルプスからわざわざ連れてきたのかと思うと悲しくなってくる。CMでのゆきちゃんの「メェ~」という鳴き声は果たして何を意味するのだろう。
しかしながら私は私自身の気持ちが変化していることに最近気付いた。気付いてしまったのだ。
きっとコマーシャルに馴染み過ぎたのだろう。
アルムおんじは元来、世界を股にかける起業家であって、アルプスの山には避暑目的で過ごしていただけではなかろうかと。山小屋での人を寄せ付けぬ姿は富豪ゆえの世を忍ぶ仮の姿であって、本来はバリバリの経営者なのではないかと。
再放送を観たのもずっと以前になってしまって、アニメのおんじよりもCMのおんじの説得力のほうが強まったゆえの逆転現象。
おんじは、ロッテンマイヤーさんよりも学があって、ゼーゼマンさんよりも遥かに財産のある、世界長者番付の影の常連、大金持ちではなかろうかと。
こんなカオスを抱えた私です。
せめて世の子どもたちが、どんな形であれアニメ『アルプスの少女ハイジ』を観てくれればと。
そのキッカケがCMならば、それはそれで良しとすべきと致しましょう。