先日、テレビで『四足走行』を求道されている“いとうけんいち”さん(32歳)のお姿を拝見しました。
有史以前、そのもっともっと遥か以前。人の祖先は二本足の直立歩行へと『進化』し、四足生活に別れを告げました。そして現在、速さという点ではウサイン・ボルト氏や桐生君が最前線を“走っています”。現代人はどこまで記録を縮めることができるのか、興味の湧くところであります。
ところがです。いとうさんが牽引役となっている四足走行。彼の姿は、数年前の『探偵ナイトスクープ』でも拝見しましたが、まさに目からウロコ。コペルニクス的大転換。
四足での歩行というと、赤ちゃんのハイハイを連想されるかもしれません。赤ちゃんの場合は右手が前に出た時に左足が前に出ます。左手だと右足が。どんなにスピードを上げても、この基本的な動作は変わりません。これが、いとうさんの場合だと右手と右足を同時に出し、次に左手と左足を同時に出す。そして、いざダッシュとなった時、これはもう、まるでチーターなのです。チーターと言っても水前寺清子さんではありません。アフリカに生息する最速の野生動物、チーターです。
いとうさんご自身は、アメリカの動物園でサル(バタスモンキー)の走る姿に衝撃を受けて、この“ギャロップ走行”を追求され始めたとのことです。
テレビでは、ゲストの田中美佐子さんが驚嘆して仰っていました。「顔よりも前方に足が出ている!」と。私的には、ややオーバーな感想かなとも思いましたが、その描写が未見の人に対しては、走行姿勢を伝えやすいのかもしれません。四つ足となり、前足(両手)を若干の時間差をもって前に突き出して地面を引っ掻く。と同時に後ろ足が蹴りだされ、その両足がググッと体に引き付けられたかと思うとそのまま顔の真下へ着地する……どこかの大学の教授?がコメントされていましたが、ウサイン・ボルトの一回のストライドよりも四足走行のストライドのほうが距離は長い。理論的には二足走行よりも速く走れる可能性があると。いとうさんも毎年一秒ずつ記録を短縮され、現時点での16秒87は世界記録としてギネスにも認定されています。彼の走行をナマで観た為末大さんは、13秒台に入れば陸上界も無視できなくなると、真剣に評しておられました。
この記録、果たしてどこまで縮まるのでしょうか。本人は100メートルを5秒で走りたいと語っておられました。さすがに素人の私でも、彼一代の人生では難しいような気がします。しかしその遺伝子と意志が7代、8代……15代の子孫にまで受け継がれたとしたら、骨格や筋肉も変化するでしょう。5秒台もあながち夢物語ではないと思えるのですが。
生き物として、これは退化でしょうか。いや。そうではありません。直立歩行後、物をつかむことを身につけた人間。この遥かに性能アップした両腕、両手、両指を再び四足の前輪として駆動する時、ホモサピエンスの進化は一気に加速しそうな予感がします。可能性に一旦火が付くと、もう誰も止められないと思うのです。何故なら、人間は体力であれ知力であれ、限界を極めようとする不思議な生き物だからです。
何百年か先までサッカーのワールドカップが続いているとして(国家体制も続いているとして)例えばブラジルの選手がカウンターアタックを仕掛けた時、日本の本田や香川のような選手がその後を猛追する。その姿に、「出た! 青い稲妻、四足走行だ! 行け! ターボエンジン全開だ!」と松木安太郎氏みたいなアナウンサーが絶叫する。「アッと言う間にボールを奪っちゃったヨ!」とセルジオ越後氏みたいな解説者が驚嘆する。
或は例えばプロ野球。ノーアウトでランナー三塁。バッターはすかさずスクイズだ。するとサードランナーは四足走行でホームイン! バントした打者も四足走行で悠々セーフ。
オリンピック競技も一変するでしょう。四足フルマラソン。四足ハードル……。
想像に任せて数え上げれば、キリがありません。
この可能性を嗤う人は、全てのスポーツの起源を否定する人です。全ての知学の起源を否定する人です。
為末氏が言われるように、100メートルを13秒台で走れるようになった時、可能性がにわかに現実味を帯び、人間生活の在り様が根底から覆るキッカケとなるのではないでしょうか。
四足走行の競技人口は世界で80人。うち日本人が20人。
テレビでの冒頭の紹介によりますと、いとうさんは現在定職には就いておられず、貯金を切り崩しながら日々を走行の研究と研鑽に費やしておられるとのこと。この“貯金切り崩し”の背水の陣が、私のような者にはビビビと来るのです。