「まぁちょっと皆さん、聞いてください」……と、今は亡き人生幸郎師匠ふうに、ボヤキネタをひとつ。


人生師匠 「実は一週間ほど前のことでした」

生恵幸子師匠(幸郎婦人) 「ほうほう、何がありました?」

人生師匠 「一日中、朝から晩まで営業してる雑貨屋の……ホレ、何ていいましたかなぁ……ピン芸人でもなし、トリオ漫才でもなし……相方がおって、二人きりで」

生恵師匠 「コンビ漫才、かいな」

人生師匠 「そう。コンビ……コンビニ……コンビニエンスストア」

生恵師匠 「……ややこしい思い出し方やで」

人生師匠 「そこで私、お弁当を買いました」

生恵師匠 「お前でも昼メシを喰うんかい」

人生師匠 「お昼用のお弁当を、朝のうちに買うたんです」

生恵師匠 「朝のうち?」

人生師匠 「その日の仕事は、あいにく近くにお店がないのんをわかっとったんです。ほんで、しょうことなしに朝のうちに買いました」

生恵師匠 「どんなお弁当、買うたんや? 言うてみい」

人生師匠 「親子丼」

生恵師匠 「そらまた随分とハイカラな」

人生師匠 「冷えた親子丼の、どこがハイカラなんや」

生恵師匠 「冷えた?

人生師匠 「お昼までの間、わたし、お弁当をクーラーボックスに入れて、腐らんようにしとるんです」

生恵師匠 「お前の脳ミソも、一緒に入れとけ」

人生師匠 「……冷えたお弁当でも、わたしにとっては、お昼の唯一の楽しみなんです」

生恵師匠 「そら、良かったがな」

人生師匠 「それが良うないんです」

生恵師匠 「何が良うない?」

人生師匠 「私、ハラワタが煮えくり返っとるんです」

生恵師匠 「言いたいことがあるわけや」

人生師匠 「はいな」

生恵師匠 「聞いたるさかいに、言うてみい」

人生師匠 「さっきから言うてますコンビニのお弁当について」

生恵師匠 「文句があるわけや」

人生師匠 「まぁみなさん、ちょっと聞いてください」

生恵師匠 「でました」

人生師匠 「♪目を閉じて何もみえず……当たり前や! 目を閉じたまま物が見えたら、バケモンやないか!」

生恵師匠 「何言うてんねん。このドロガメ!」

人生師匠 「♪リンゴはなんにも言わないけれど……当たり前や! リンゴが喋ったら、果物屋はうるそうて、しゃあないわ!」

生恵師匠 「何言うてんねん。このハナクソ!」

人生師匠 「ゴメンチャイ」

生恵師匠 「唄の話と違うやろ。コンビニのお弁当に文句があるわけやろが」

人生師匠 「そうでした」

生恵師匠 「はよ、言わんかい! このボケカス!」

人生師匠 「わたし、お昼になって、その親子丼を食べようとしたんです」

生恵師匠 「冷たい親子丼や」

人生師匠 「冷えてんのは承知の上」

生恵師匠 「ほな、何が問題なんや」

人生師匠 「食べてビックリ」

生恵師匠 「ビックリ?」

人生師匠 「ご飯がパリパリでした」

生恵師匠 「パリパリ?」

人生師匠 「硬うてパリパリ。お箸ですくおうにも、ポロポロとこぼれ落ちよる」

生恵師匠 「何や、それ?」

人生師匠 「おかしいな、思うて改めてフタを見たら」

生恵師匠 「フタを見たら?」

人生師匠 「『チルド』て書いたある」

生恵師匠 「ちるど?」

人生師匠 「『このお弁当は電子レンジで必ず温めてください』と、ちいちゃな文字で書いたある……『チルド』やと? 『必ず』やと?」

生恵師匠 「要するに、温め専用かいな」

人生師匠 「はいな」

生恵師匠 「そのままでは食べられへんのかいな」

人生師匠 「はいな」

生恵師匠 「ほんなら、あんた。昼メシは喰わずじまいかいな」

人生師匠 「食べました」

生恵師匠 「食べた?」

人生師匠 「一粒残らず食べました」

生恵師匠 「そやかて、硬いんやろ?」

人生師匠 「米粒がポロポロで、食べにくいこと。食べにくいこと」

生恵師匠 「大丈夫やったんかいな」

人生師匠 「無理したら喰えますねん」

生恵師匠 「無理してでも、喰いたかったんやな」

人生師匠 「お腹、こわさんかったぞ!」

生恵師匠 「誰に叫んどんねん」

人生師匠 「自分を褒めてますねや」

生恵師匠 「『レンジで温めろ』て書いたあるんを見落として買うたんやろ。自業自得や」

人生師匠 「そやけど、お母ちゃん」

生恵師匠 「何や?」

人生師匠 「それやったら、お弁当のフタに、もっとド派手に“レンジ専用”と大きく目立つように書くか、レジのお姉ちゃんが『このお弁当は、温め専用ですよ』と優しく言うてくれんと」

生恵師匠 「レジのお姉ちゃん、何も言わんかったんかいな?

人生師匠 「『お弁当、温めましょか』とだけ」

生恵師匠 「温めましょか?……微妙やな」

人生師匠 「わたし、お昼用に買うとるんです。朝のうちから温めるわけがない」

生恵師匠 「そらそうや。朝から温めたら、昼には腐っとるがな」

人生師匠 「だいたい、普通のお弁当を買うた時でも『温めましょうか?』は聞いてきよる。チルドでも普通の弁当でも、おんなじ聞き方をしてくるから、ややこしいんや!」

生恵師匠 「なるほど。怒りの意味はわかったで」

人生師匠 「わたし、まだまだ言い足りません」

生恵師匠 「ヨッシャ! うちが許す。おとうちゃん、思うたこと、全部言え! 」

人生師匠 「コラッ! コンビニ!  レジのお兄ちゃんとお姉ちゃん! おっさんとおばはん! 店のオーナー! 本社のトレーナーかスーパーバイザーかエリアマネージャー!」

生恵師匠 「難しい言葉、知ってんにゃ」

人生師匠 「責任者、出てこい!」

生恵師匠 「出てこい!」

人生師匠 「チルドって何や!」

生恵師匠 「チルドの意味は知らんのかいな」

人生師匠 「おもてなしの心はどこへ行ったんや! ワシは日本国民や! 日本語の調理の仕方を説明せんかい! チルドの一言で責任が果たせたと思うたら大間違いやぞ!」

生恵師匠 「もっと叫べ! 許しまっせ、このドロガメ!」

人生師匠 「レジの一言は『このお弁当は電子レンジで温めなければ食べられませんよ。お間違いありませんか』やろ! 『温めましょか?』だけでは不十分じゃ! それからな、陳列棚はもっと工夫が必要やろが。チルド専用と普通の弁当の棚、ほとんど隣に並んでるのに、一見すると何の差もない印象や。店内に仰山お弁当が陳列したある場合やったら、何となく『あ! これは普通のお弁当と違うかもしれん』と事前に察知できるかもしれん。『白い器ばっかしや。しかも二段重ねになってる……これまでの弁当とは何や違う感じや……あ! よう見たら弁当のフタに“必ず温めてください”と書いたある。危なかったで。間違うて買うとこやったで』……てな具合でギリギリセーフや……けどな、殆どの弁当が売れて、商品棚に何個かしか残ってへん時、チルドと普通の弁当の違い、パッと見にはそうそう見抜けへんのや。あの陳列方法では、間違うて買うてる人は日本中で、何人いや、何百人いや、何千人もおるぞ! ええか。朝のうちに弁当を買うんはな、たいがいは現場労働者や。工事現場のすぐそばにコンビニがないから、朝のうちに買うて、クーラーボックスに入れておくんや。腐らんようにしとる涙ぐましい努力や……そやのに、何のための接客マニュアルや! パリパリでポロポロの冷えたチルドご飯で、泣きながら牛丼や中華丼やオムライスを食べとるブルーカラーもしくは一次産業従事者は今日も必ずどこかにおるわい!

生恵師匠 「よう言うた。これでスッキリしたやろ」 

人生師匠 「それからね、もうひとつだけ」

生恵師匠 「まだ、あるんかい」

人生師匠 「このパリパリ弁当を買うたんは、恥ずかしながらわたし、実は三回目なんです。世の中には学習能力のない者もおるんです。バタバタして時間がないから、ついつい慌てて買うてしまうんです。四回目を買う前に、なんとか目立つ表示にしてぇ~チョウダイ!」

生恵師匠 「あんたやったら四回目と言わず、これからナンボでも間違うわな」

人生師匠 「非ッ常に、キッビシイ~」

生恵師匠 「財津一郎のパクリやないか」

人生師匠 「♪もっともっとタケモット ニャ~」

生恵師匠 「あんたとは、やっとれんわ

人生師匠・生恵師匠 「ほな、サイナラ!」