20年前、戯曲を書き始めた頃の私の愛機はワードプロセッサーでした。
シャープ製の『書院』君。
実に良い名前じゃありませんか。
ひたすら文章を活字化し、印字するためだけに存在する潔さ。
私には、これで充分でした。充分過ぎました。
当時の私は文章を「書く」こと以外に何の機能も全く必要ありませんでしたから。
フロッピーディスクの「カッ、ピー、ガガピー、カッ、カッ、カッ……」という読み込み音も好きでした。インクリボンもカセットテープの親戚みたいでアナログチックなところが好きでした。
ここいら辺のテクノロジーには、まだ郷愁をそそる何かがあったような気がします。
感覚として、冷たくなかった。
言ってみれば、昭和。
ところが……予感はしていましたし、ニュースなどでも時折警告されていたのですが、非情にも、全家電メーカーがワープロ生産の撤退を決定し、私は「ついに来るときが来たのか」と途方に暮れたものです。いずれ近いうちに私は執筆の手段を失くしてしまうのか……。
こうなったら残る方法は、手書きか、或いはパソコンへの買い替えか。
はぁ……。
ただし私、実はその時点で既にパソコンを一台所有していたのです。
デスクトップ型のマッキントッシュ製「セントリス」君。
『何? マッキントッシュだと! それなら何も困ることはないじゃないか。この贅沢モンが!』
と、お思いの皆さん。
甘い。
あなたは甘い。
昔、とある演劇公演で字幕投影の必要にかられ、パソコンに対する知識ゼロのまま大金をはたいて購入したセントリス君でした(その時はまだ社員生活で一定の収入もありました故)。
しかしながら、これがもう全く使えずじまいで、まさに宝の持ち腐れ。結局、操作や打ち込み作業はPC通の猛者連にお願いをし他力本願で字幕を完成させたものでした。私はそばで見てるだけ。「ご苦労様」と声をかけるだけ。情けないったらありゃしない。
その後、一念発起をし、社員生活とおさらばし、戯曲執筆を人生の目標と掲げ、それと同時に、ただ単純に"書くこと"だけに特化された書院君と心中覚悟で人生の踊り場に立ったのです。そうして一般の人がのぼるであろう大階段とは別の、創作という名の小さくて狭くて危険な階段をのぼり始めたのです。
ワープロならばアナログ人間の私にも、何とか太刀打ちできるかもしれないと信じて。
書院君は以後何年も私の相棒第一号として、寺脇康文として、私の淡い期待にこたえ続けてくれたのです。
長らく、書院君はMyベストパートナーでした。
月日は流れ、
先のワープロ撤退宣言が各社から発表され、
更に月日は流れ、
ついに
書院君も微妙に体調不良を訴え始め、
これは、いよいよお別れの時が来たのかと諦めの境地に至ったのでした。
「ワードが使えるノート型パソコンなら、どこに持ち出しても台本が書けるから君のニーズに合っているはずさ。喫茶店でもマクドナルドでも、自宅以外のどこにいようとね。大丈夫だよ。何を青ざめているのさ。君ならやれる。買っちゃいなよ……ウヒヒヒヒ……」と誰かに腕を引っ張られたような気もするし……とにかく、パンパンに膨れ上がった執筆意欲は、手書きへの回帰では納まりが効かず、一度ワープロで体感した機械の利便性、効率性を知ってしまった以上は、これは新しい相棒を見つけるしかないと、ついに腹を括ったのでした。
と言って当時の私は、ほぼプータロー状態でしたから、厳しいやり繰りをカツカツで算段し、何とか10万円以上を捻出し、私は自分の創造力、創作力に賭けたのです。
そうだ。
この代金は、いずれ何かの執筆料でチャラにしてやる。
見ておれ、今にきっと……。
私の心にはずっと浜田省吾の♪MONEYが鳴り響いておりました。
そうして手にしたのが二代目相棒、富士通製の『ビブロ』君。
はじめまして。オフィス2003。はじめまして。ウインドウズXP。
使い始めるや猪突猛進。書院君との蜜月など、どこへやら。
男心と秋の空。
以来10余年。私は四苦八苦の末どうにかブラインドタッチを習得し、インターネットも無事開通させ、遅ればせながらデータ原稿を添付送信することも覚え、やっと何とか人並みにワードを使いこなせるようになりました。
しかしその10余年間で、徐々に徐々にMyビブロ君は重たくなっていき(殆どワードしか使わないのに何故こんなに重たくなるんだ?)……立ち上がるのに15分から20分もかかるようになってしまい……その時間を利用して、シャワーをしたり洗濯をするという習慣まで身についてしまい……。
こんなこと、書院君との付き合いの時には、なかったぞ。
更に追い打ちをかけたのが、XPのフォローの中止。
ワープロの時もそうだ。XPもそうだ。結局、使い続けることはできないのかよ!
ビブロ君は、重たいだけで壊れてはいないんだぞ。
せっかく慣れ親しんだ二代目相棒及川光博ことMyビブロ君とも、不条理にも引き裂かれるサダメなのか。彼のおかげで20本もの戯曲を書くことができたのに。
私はこの先、何度同じ悲哀を経験すればいいんだろう……。
私はただ文章を打ち込み、残したいだけなのに。
すさんだ瞳に、フと飛び込んできたのが、JR駅前にある関西最大の量販店のチラシ。普段は、殆どどんな広告も見ないのに、この時は何故かフッと目に入ったのです。そこに一つ、「限定30台」とかって眉唾な添え書きと共に結構安価なパソコンが目玉商品として載っておったのです。
よし、これを買おう。
もうどんな機能でも構うもんか。ワードさえ入っていれば。
思い立ったが吉日。
以前のブログにも書いた通り、歳を重ねるごとに私は新商品だとか最新技術だとかの謳い文句には心が躍らなくなっており、とりあえず私が使いたい最低条件の機能さえ入っていれば満足なわけで、何の下調べもせず、特売日の朝、量販店に向かったのです。
開店時間は朝の9時。私が到着したのが9時半。
で、駐車場に原付を止めていると、私が求めようとしているパソコンの箱を手にした客とすれ違う。「へぇー。あの人も買ったんだ」と、妙に親近感を覚え、更に店の自動ドアを抜けたところで、また一人。そしてエスカレータですれ違った客もまた同じ箱を持っている。
くおーつと、これは……。
―もしかしたら、この商品を目当てに沢山の人が来店しているのかもしれない―
売り切れたらヤバいじゃないか!
それまでは「どんな商品だっていい、どんな機能だっていい」などとノンビリ構えていた私に突然焦りが生じる。
どこだ? 私が求めるパソコンの販売棚はどこだ! にわかに駆け足となる……。
おそらく平積みにされていたであろう、目指すブースはどこだ。
あ、あった。残りはあと3台。
ウインドウズ8搭載。オフィス2013が入って値段が5万円代。
「間違いない。あれだ!」
それまで何の愛着も思い入れもなかったのに、この人気ぶりに一気にテンションがマックスに。
こんにちは! 三代目相棒成宮寛貴ことMy『バイオ』君。
これからヨロシクね。
てな具合で、2年を経て現在に至るわけです。
長々と書いてしまいました。
すみません。
他人様にとってはどうでもいいことを。
本当に長々と。すみません。
しかし、どうせ長々ついでだ。
あと少し。
あと少しなので、書かせてください。
最近、パソコンに対する別の思い入れが生じましたので、付記しておきます。
一つは、前述の二代目相棒My『ビブロ』君。
あまりに重すぎるため、三代(台)目を購入以降まったく使用しておりませんでしたが、棚を整理していますとビブロ君のリカバリーディスクが見つかりまして、PC通の知り合い立ち合いの元で、先日リセットすることにしました。
要した時間は、およそ約3時間。
ビブロ君は見事に復活しました。
やりました。
彼には、二度とネットにはつながず、相棒2号として終生動態保存するつもりです。
と、もう一つ。
先月、あるソフトを買いまして、パソコンに放り込みました。
こんなソフトが私に果たして使えるのかなぁと自問しながら。
前回のブログに書いたのですが、芝居の公演中に過去の上演映像を投影するという試みがあり、映像担当を恐れ多くも私が引き受けたのです。
それで映像編集ソフトを買ったわけです。
サイバーリンク社製の『パワーディレクター13』君。
ところが、いろいろと使ってみると、これが半端なく面白い。
演劇表現という体質上、何台かのカメラで別方向から撮影することがあるのですが、これを一つの画面に編集した上でDVDに作品として焼き付けるとなると至難の技。
と思っていました。
しかし、このソフト。四つの映像を取り込むや、ボタン一つの僅か数十秒で、音声信号を元に全ての映像を同期させることができるのです。そして時間軸に従って、好きなアングルの映像を選ぶことができるという優れものなのです。
ちなみに、
この2月に東映剣会の役者さんたちの『チャンバラ教室』に私たち劇団員もお手伝いとして参加させて頂いたのですが、その模様を三台のカメラで収めました。別々のアングルの三つの映像を、パソコンに取り込んで、ボタンをポン。
すると画面上には三つの録画されたモニターが、同期しながら同時に流れていくではありませんか。
この機能は素晴らしい。
私、ワープロ、パソコンと付き合って、文字の打ち込み作業以外で、初めて心が震えました。至福の時を持つことができました。
更に先週本番を終えた、手話言語法啓発芝居のラストシーン。
沢山のろうの先人の想いや心、その魂のような存在が人の姿を借りて上空の青空から地上の若いろう者へ語り掛けるという、とてつもない設定。
台本を書き乍ら、本当にこんな映像効果が創れるのだろうかと一抹の、いや百抹の不安がありました。
が『パワーディレクター』君の力は絶大で、クロマキーの精度がかなり高く、ボタン一つで見事に合成ができました。
いやはや、この映像ソフト。なかなか私を寝させてくれません。
今も、三台のカメラで録画したこの啓発芝居の編集に没頭する日々です。
もっとも撮影したカメラ自体の解像度が悪くて、出来上がった映像作品はセミプロ級にも及びませんが、上演したら終わりの演劇に、終演後も創造として関われることが嬉しくて。
書院君には書院君への、ビブロ君にはビブロ君への、そしてバイオ君にはバイオ君への、それぞれの愛着と思い出があり、たかが機械と言えど、私の想像と創造を支えてくれた相棒三代には感謝するだけであります。
新しい物嫌いの私ですが、若干の食わず嫌いがあったことは認めます。ことパワーディレクター君に対しては、新たな楽しみを与えてもらいました。
ありがとさんです。