Beautiful Japan 吉田初三郎の世界~府中市美術館~ | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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そして、クラシック音楽も好きなもんだから、音楽会を理由に、日本国内を旅しています。
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私にしては珍しく、始まったばかりの展覧会に 躊躇せずに 飛んで行きました。

≪Beautiful Japan 吉田初三郎の世界≫
~府中美術館~


美術館の紹介文は─
『大正から昭和戦前期、日本各地を空から見下ろす視点で描いた吉田初三郎 (1884-1955)。独自のデフォルメによって広い範囲が一望できる鳥瞰図の画面は、細部まで描き込まれ、まるで絵の中を旅するかのようにいつまでも見飽きることがありません。本展では大型の肉筆鳥瞰図を中心に、絵画・ポスターなど様々なメディアで展開された吉田初三郎の世界をご紹介します。』


『吉田初三郎』は、戦前を中心とした昭和の時代に、おもに観光目的のための案内図を描き、その印刷物が『その地域』で配布され、その独特な視点から 評価された絵師。ただ 展覧会として極めて異例なのが、展示されている作品の過半数が、原画をトレースして 印刷にかけた、『一般に配布された案内図』が『作品』として 堂々と出されていること。彼の作品では、肉筆とか初版とかは あまり関係ないんですね。
地図が好きで、もちろん旅も好きな私には、そこら辺はあまり気にしません(敢えて言えば 『縮尺の関係』で、自筆の方が嬉しいです)。

10年以上 展覧会を待っていました!

この展覧会の展示数は、98作品(うち1作品は途中で入れ替え)。それをテーマ毎に、3つの章に分けていました。

☆第1章:初三郎の時代(50作品)
・日本画家として描いた油彩画やポスター、そして屏風など

ポスター《Beautiful Japan(駕籠に乗れる美人)》 昭和5(1930)年 江戸東京博物館蔵

油彩画《地獄谷の渓流》昭和5(1930)年頃 長野電鉄株式会社蔵

屏風《犬山之春 蘇川之秋》昭和6–7(1931–32)年 犬山城白帝文庫蔵

・そして 終戦直前まで 積極的に描いた日本(の統治下の外地も含む)各地の案内図を 幅広く50点の紹介。~うち 案内図(鳥瞰図)の肉筆画は、この章では2点~
その中から気になった作品を幾つか。
『京都鳥瞰図』:ポスター。北が左。初三郎最初の鳥瞰図。緻密な街並み。国鉄のSLや市電が可愛く描かれていました。
『鉄道旅行案内』全4冊:かなり厚い冊子。見開きに、代表的な風光明媚な風景を描いている(緻密に4冊も!)。
『関東大震災全地域鳥瞰図絵』:東京、横浜は火災の炎が大きく上がっていました!
『叡山頂上一眼八方鳥瞰図』:パンフレット。なんと魚眼図で描かれていました。
『小田原急行電車開通記念』:大きなポスター
が、なんと
『小田原急行電車』:名刺。に縮小されて(再利用?)使われたそう。
『大連』:印刷折本。端の方に、伯林、巴里、倫敦 がしっかり載っていました。
『日本八景名所図絵』:雑誌(主婦之友)付録。八景は投票で選出。その時に「これは 箱庭、盆景というより、大きな風景から選んで欲しい」と呼びかけた。これを契機に 旅で『風景』を見ることを目的にする動きが始まった。
『山陽電軌沿線案内図』:印刷折本。要塞司令部の印つき。発電所などの軍事施設が修正させられた(消された)。
『HIROSHIMA』:冊子。なんと≪原爆投下直前の朝≫≪原爆爆発時≫≪原爆投下の日の夕方≫の3つの鳥瞰図~これは昭和24年の作品でした。

☆第2章:魅力に迫る(26作品)
ここでは、初三郎の鳥瞰図の特徴を 4つ示しながら 観ていく展示でした。
その特徴とは─
・遠いところほど 高い位置に置く。
・真っ直ぐに進められた道(や川など)~図の中心が線的な場合、それを中央に「直線的」に描く。

《富士身延鉄道沿線名所鳥瞰図》(部分) 1928年 堺市博物館蔵

印刷折本《京王電車沿線名所図絵》昭和5(1930)年 個人蔵

・拡大された中心~図の依頼者の施設を中心に大きく描く
『霧島・林田温泉』:ポスター。温泉を中央に大きく描き、手前に鹿児島市街。そして その右手に豊後水道(別府)から東京へ。左手が門司から大陸へ。九州が鹿児島から左右広がっているかのように 描かれていました。

ポスター《霧島・林田温泉》昭和10(1935)年 堺市博物館蔵

肉筆画《筑波山神社を中心とせる名所図絵》昭和戦前期 堺市博物館蔵

・歪められた周辺
『日本交通鳥瞰図』:印刷折本。これは地球規模で日本を見た図。日本海側から見たように描かれ、正面の一番奥には なんと「南極」と!

☆第3章:制作に迫る(22作品)
・原図(肉筆画)との比較(印刷上の注意の書き込みがあることも!)
『岩手県観光鳥瞰図』肉筆の原本 と『観光と産業の岩手県』印刷折本の縮小版:縮小された印刷折本の方が リアス式海岸の地形から地名が細かくなっていたのに驚きました。普通は反対ですものね。

肉筆画《神奈川県鳥瞰図》昭和7(1932)年 神奈川県立歴史博物館蔵

印刷折本《神奈川県観光図絵》昭和9(1934)年 神奈川県立歴史博物館蔵

・印刷用のトレースの下書き
『繊維都市一宮市とその近郊』:トレース図と印刷折本。それぞれで 地名や絵画の取捨選択が多く見られました。なぜそうしたのだろう?
・同じ図を いろいろな発行者に転用している例
『長野電鉄』と『渋温泉』と『山田温泉』と『平穏温泉』:どれも印刷折本。比較展示。

めっちゃ 充実しました。作品リストにメモしながら観ましたが、3時間超でした。



見終わって 図録を購入しようとしたら、なんと『まだ 出来上がっていない!』とのこと。6月上旬頃になるらしい。なので、売店で郵送手続きをして来ました。送られて来るのが楽しみです。


最後に、このような(元はタダで配っていたものの)展覧会、どう思いますか?
 ~肉筆画(原画)を半分以上展示すべき─等~