アニメ『グスコーブドリの伝記』:杉井ギサブロー監督作品 | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

旅と鉄道と温泉が大好き。
そして、クラシック音楽も好きなもんだから、音楽会を理由に、日本国内を旅しています。
音楽と旅を中心に、日記を書いていきます!

~時代乖離~

昨日は仕事帰りに映画館に飛び込み。実は一昨日行く予定にしていたのですが 10分ちょい遅れたので断念。私には関係のない レディースデイの昨日になりました。

🎬『グスコーブドリの伝記』
監督:杉井 ギサブロー


宮澤賢治の精神の集大成となるこの作品。
80年代に「銀河鉄道の夜」のアニメを作った、杉井ギサブロー監督作品。期待大で向かいました。

そんなこの作品の主題は、不特定多数の人々に対する無償の自己犠牲。
つまり 市民のために自ら死んでいく美しさを書いたもの。キリスト教の下では、まったく受けつけられないであろうテーマです。

そんな日本的美徳精神に満ち、CMもさかんに行っていたにもかかわらず、18時過ぎのスタートの私の観た回は、広いホールに15人足らず。男性は私以外 見当たらない。それにしても 空き過ぎで心配。

さて、ネタバレしない程度の感想です。

映像は極めて美しく、立体感も見事に構成されています。一部の背景に 写真を使うなど、ハッとさせられる工夫もあり、大満足。
BGMも決して映像を邪魔することなく 決まっていました。

ところが 一番肝心なアニメの組み立てで、あまりに感じることが多かったのも事実。ただ これは 私だからという部分もありますので、客観的にお読みください。

まずこの原作は、主人公のブドリの伝記ですから、時系列が長くなってしまうのです。どうしてもナレーションによる場面設定の解説が入るんですね。それに人をネコに置き換えて描いているアニメなので、ブドリの子ども時代も成人時代も同じ容貌。だから大人になって多少顔が小さくなったような感じはしましたが、変わらない。

そして それぞれの場面での主題は明確に出てはいるものの、それらの本筋となる部分の一貫性が、どうしても弱く感じてしまう。つまり 原作、もしくはテーマを知らずに観ると、焦点がぼやけてしまうのではという不安がかなり。

そのためかはわかりませんが、作品中に『雨ニモマケズ』を2回も挿入されていました。そう『雨ニモマケズ』の力を借りないと まとめられないのです。

そして その時系列の飛びが『銀河鉄道の夜』に比べて 作品を冗長に感じさせているようにも感じてしまいました。『銀河鉄道の夜』では 極めて原作に忠実に作られたのに対して、今回はかなりの脚色が見られました。

妹がさらわれる部分。賢治は人買い的に扱っていたのですが、今回は、死んだのか さらわれたのかわからないような表現。原作では大人になってから再会するのですが、そこもカット。最終場面を観ると、妹はまるで飢饉で死んだと受け取れる答えになっていました。

また 大学を出てからの活動をカットしたことから、最後の行動が ブドリの知的推察による合理的な策であることの説得力が 薄れていたように感じました。
なぜなら それらの理論は、賢治の時代では 論文を読破しなくては到底理解するには不可能な、高度なことだからなのです。つまり 二酸化炭素の温室効果が最終結論ですからね。


そして 一番気になったのは 時代設定。
街に出てきた場面。
何だ あの乗り物は。モノレールみたいな乗り物がビュンビュン走っているサンダーバードの世界。あわせてクーボー博士の乗る簡易ヘリコプター。完全に未来じゃん。

ってことは 有り得ない。

そんな世界で飢饉で餓死するか。

交通機関が無いから 飢饉でたくさんの人が死んで行ったんだべさ。

この設定を見た瞬間、完全に興醒めしてしまいました。

つまり 昭和初期に、賢治の持てる知識を振り絞って、飢饉の大変さと 自己犠牲の尊さを訴えた作品が、アニメの絵空事的な軽さになってしまったのです。

残念でなりません。

そして 最後に…

映画の中で読まれた『雨ニモマケズ は』
『ヒドリ』でした。監修が賢治の大先生ですから。

ただ、購入したパンフレットには『ヒデリ』となっていました。
天沢先生はパンフレットまで監修をしなかったみたいですね。そして パンフレットは素人が作ったのでしょう。残念でなりませんでした。

少しでも 宮澤賢治の気持ちが伝われば良いなぁと思いました。

追伸:最後、ブドリが冷害、飢饉を救うために 火山で犠牲になる場面を、死んだかどうかを明確にしなかったのは、映画の配給がワーナーブラザーズで、キリスト教圏を見据えたためかな、と 詮索したくなってしまいました。