東京二期会オペラ劇場〈三部作〉:新国立劇場オペラパレス | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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東京二期会オペラ劇場
〈三部作〉外套/修道女アンジェリカ/ジャンニ・スキッキ
オペラ各1幕
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
台本:『外套』ジュゼッペ・アダーミ
台本:『修道女アンジェリカ』および『ジャンニ・スキッキ』ジョヴァッキーノ・フォルツァーノ
作曲:ジャコモ・プッチーニ

14時~
新国立劇場 オペラパレス


プッチーニの三部作。確か90年代(95年だった)に二期会で観て、そこで強烈な印象をもち、すぐにLDを購入したくらいの、お気に入りの作品。ただ それぞれをバラバラに上演されるのでは物足りなく、3作品を一気に観たい、と思って待ち続けていました。そう、四半世紀振りに観れるのです! 私の観る(聴く)のとは対極の時代・様式の作品ですが 音楽つきの劇を観るというスタンスで行くので、問題なし! そのスタンスで観たいオペラはドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』 やはり90年代二期会での強い印象の残る作品。どちらも『劇』を観るので舞台がしっかり欲しいのが条件なので、先日のOEKのペレアスはパスでした。
ということで、今年度のオペラ公演の中で 私が最も行きたい公演。


三部作全体のキャストは
指揮: ベルトラン・ド・ビリー
合唱: 二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
演出: ダミアーノ・ミキエレット  
演出補: エレオノーラ・グラヴァニョーラ
装置: パオロ・ファンティン
衣裳: カルラ・テーティ
照明: アレッサンドロ・カルレッティ
合唱指揮: 冨平恭平
演出助手: 菊池裕美子
舞台監督: 村田健輔
公演監督: 牧川修一
公演監督補: 大野徹也

二期会HPからのあらすじと配役は各作品ごと、以下に記します。

今日は1階9列中央という、最高の席が事前予約で取れました。 

今日は先にまとめ的感想を書いてしまいます。
今回の演出で大きな読み替えがありました。モーツァルトなどでは 読み替えをしない演出を面白くないと言う私ですが、このプッチーニの作品の解釈は そこまでの応用力はまだまだ。そのため『アンジェリカ』後の休憩の不快感を伴う違和感がかなりありました。ところが『ジャンニ・スキッキ』を観終わった瞬間、その違和感は払拭されました。それは「実演2回目+映像1種類」の私にも 納得できる(良し悪し、好き嫌いではなく)構成がわかったことです。
そこを含めて、1作ずつのレポートです。


まずは
👗『外套』
📝パリのセーヌ川に停泊している荷物運搬船で生活する過酷な労働者たちの人生模様が描かれる。初老の船長ミケーレは、年若い妻のジョルジェッタが近頃なぜか自分を避けていると感じている。ジョルジェッタは実はミケーレの下で働く若い沖仲仕のルイージと不倫しているのだ。まだ暑さの残る息苦しい秋の夜、ジョルジェッタとルイージはマッチの灯を合図にあいびきを約束する。妻への不信を募らせたミケーレは、密かに不倫の相手が誰かを探ろうとする。暗闇のなかでミケーレが煙草に火をつけた。それを合図の灯と勘違いして姿を現したルイージ。ミケーレは彼の首を絞めて殺し、その死体を外套に隠す。続いて現れた妻にミケーレは死体を押し付ける。 

≪配役≫
ミケーレ:今井俊輔
ジョルジェッタ:文屋小百合
ルイージ:芹澤佳通
フルーゴラ:小林紗季子
タルパ:北川辰彦
ティンカ:新津耕平
恋人たち:舟橋千尋、前川健生
流しの唄うたい:西岡慎介

幕が開くと ミケーレが子どものおもちゃで遊んでいるところから。子どもを亡くした悲痛さを感じるスタート。これが後半、子どもを思う父 ミケーレと、亡くした子どもを思い出したくない母 ジョルジェッタとの不和に繋がるというところの伏線をつくりました。
つまりジョルジェッタの不倫は色恋だけが原因ではないということがわかりやくすなり、ミケーレがルイージを殺したあとにジョルジェッタがミケーレに(不和を)謝るところの説得力がしっかりと出ました。赤い子どもの靴がジョルジェッタの手に渡っていきました。

コンテナが置かれた舞台。コンテナを縦に置いた隙間や舞台両側からの移動。さらにコンテナを船室に見立てて、コンテナの上も上手く使っていました。
ここでは特に照明を舞台正面からではなく、コンテナの背後から当てたりと、心情の揺れを光りに語らせるのにも成功していました。

ここでは、上記の3役の熱演が光りました。最初、文屋さんの声量の弱さが少し気になりましたが、それは幕が進むにつれて気にならなくなりました。
そして素晴らしかったのが、ビリーさんの指揮するオケ。歌手にピッタリとつけた伴奏は 歌(言葉)を一切邪魔しないバランスに保たれていましたから!

最後、ジョルジェッタがミケーレの外套を拾うと その下からルイージの死体が出てきて、幕。
ところが今日の演出は、舞台が暗転して数十秒でそのまま次に!

👗『修道女アンジェリカ』
📝女子修道院で神に仕える生活を送るアンジェリカだが、彼女には暗い過去があった。同僚の修道女たちは、貴族だったというアンジェリカについて、噂話をする。そこに彼女の伯母、公爵夫人が訪ねて来る。伯母は結婚するアンジェリカの妹に、亡くなった両親の財産を与えるので、書類に署名するよう冷酷に告げる。アンジェリカは伯母に、7年前に未婚のまま産み落とした坊やがどうしているか訊ねた。伯母は冷たく、2年前に伝染病で死んだと伝える。絶望したアンジェリカは覚悟を決める。薬草を飲み、神に許しを乞いながら自殺をはかる。その時奇跡が起こる。天使と共に赤子を抱いた聖母が現れ、アンジェリカは赤子に導かれ、息絶える。 

≪配役≫
アンジェリカ:文屋小百合
公爵夫人:与田朝子
修道院長:小林紗季子
修道女長:石井 藍
修練女長:郷家暁子
ジェノヴィエッファ:舟橋千尋
看護係修道女:福間章子
修練女 オスミーナ:髙品綾野
労働修道女I ドルチーナ:高橋希絵
托鉢係修道女I:鈴木麻里子
托鉢係修道女II:小出理恵
労働修道女II:中川香里

舞台が明るくなると『外套』の放心した『ジョルジェッタ』がその場で着替えさせられるところから始まりました。ここでアンジェリカがジョルジェッタであることが明確に示されたわけです。そしてその傍らに赤い子どもの靴が落ちていました。

女性だけで演じられるこの作品。とても清楚で美しい印象を持っていたのですが、今日は違いました。
『外套』で労働者が飲み散らかした ビールの缶があちらこちらに転がったまま。舞台に撒かれた水もそのまま。つまり舞台上の汚なさが半端ないのです。
それは最初の場、礼拝に遅れてしまった修道女たちが注意を受ける場面で明快になりました。ここは『トラピスチヌ』のような施設ではなく🎥『天使にラブソングを』に近い施設であると。つまり矯正施設としての運営されている修道院なんだということが!

そして驚いたのが、公爵夫人がアンジェリカに面接に来るところ。なんと子どもを連れている。その子どもがアンジェリカに向かって走っていこうとすると、修道院長たちがその子どもを押さえて遠くへ連れ去っていく。
本来のト書では、アンジェリカが自分の子どもの近況を公爵夫人に訊くと死んだ、となるのですが、ここでは アンジェリカに遺産放棄のサインを求める公爵夫人との口喧嘩のつながりで、ここまで連れてきた子どもを、咄嗟に「死んだ」と言ってしまったような流れとして描いていました。
続くアンジェリカの自害するところは、毒草による中毒死ではなく(今回はすぐに死なないといけなかったから?)刃物を使いました。その傍らには子どもの赤い靴がありました。
ところでこの場面、自分が育てた植物の力を借りて死ぬっていうところに無理がありました。ここは歌詞はそのままでも、自分の子どものように愛情いっぱいに育てた植物を抱きしめて死んだ方が良かったと思いました。

するとそのあと、きっとお母さんに会えると 明るく入ってきた子どもの前に、アンジェリカの死体がある。そして驚く修道院長らと公爵夫人。

これは公爵夫人はお金だけが目当てで、それに協力する修道院のスタッフという関係。それは修道院のスタッフ側と修道女との溝を 無言のうちに描いた演出とともに秀逸な演出でした。

舞台は明るくなるとコンテナの壁が上に持ち上げられて、中からアンジェリカの部屋と 洗濯場が現れるという転回。重ねられていたコンテナも上に持ち上げられて消えました。
このセット、単純ですが このストーリーを演じるには 過不足のない、十分なものでした。

ここでは 本当に美しい女声の歌(響き)が堪能できました。特にアンジェリカのアリア「母もなく」はストーリー的にも感動の嵐。文屋さんの切々と紡がれた歌は絶品でした。

オケはここでもとても控えめ。繊細な木管やハープの音色、ポンティチェロ奏法の弦が効果的な彩りを与えていました。

ここで幕。
『外套』と『修道女アンジェリカ』の全員でのカーテンコールがありました。

私的には修道院を矯正施設のようにすることと、自害にナイフを使うことに大きな抵抗(頭の切り替えができず)が残り、ちょっぴり不完全燃焼の休憩になりました。

30分の休憩のあと
 👗『ジャンニ・スキッキ』
📝13世紀のフィレンツェが舞台。大金持ちのブオーゾが息を引き取り、親戚たちが集まって大騒ぎしている。どうやらブオーゾは全財産を教会に寄付すると遺言したらしい。そこでブオーゾの甥っ子リヌッチョが、遺言状を探し出し、恋人ラウレッタの父である新来の市民だが知恵者のジャンニ・スキッキを呼びにやる。スキッキはブオーゾになりすまし、公証人を呼び、そこで新たな遺言を言い渡す。親戚たちにも少しの財産は分けるが、値打ちのあるものは全て「親友のスキッキに与える」と遺言。まんまと財産を独り占めしたスキッキ。一方、若い恋人たちは財産騒ぎなどどこ吹く風で、ふたりっきり幸せに浸って、大邸宅のテラスからフィレンツェの街並みを眺めている。 

≪配役≫
ジャンニ・スキッキ:今井俊輔
ラウレッタ:舟橋千尋
ツィータ:与田朝子
リヌッチョ:前川健生
ゲラルド:新津耕平
ネッラ:鈴木麻里子
ベット:原田 圭
シモーネ:北川辰彦
マルコ:小林啓倫
チェスカ:小林紗季子
スピネロッチョ:後藤春馬
公証人アマンティオ:岩田健志
ピネッリーノ:髙田智士
グッチョ:岸本 大
ブオーゾ:関屋裕太(黙役)

この作品は有名なアリアのためか、単独での上演もある作品。私も単独の公演を観た覚えがあります。
舞台は死んだばかりのブオーゾの屋敷の内部。ここではコンテナの壁が手前に開いた形で、コンテナの壁面には明るい壁紙が貼られて、ちょっぴり豪華な部屋のつくりになっていました。コンテナの3段目の上にまで登っての演技(歌唱)などは 観ているこちらがハラハラ。

演出の読み替えは最後(の幕の直前)まではほとんど無く、安心?して観れました。唯一、演出に加えられたのは、ラウレッタのお腹にリヌッチョの子どもが入っているというところ。ジャンニ・スキッキが娘の結婚を許す件は、ラウレッタがお腹の子どものエコー写真を見せて納得させるという流れになりました。

この作品では各自のキャラクターを明確に出しての演技(歌唱)がはっきり。この作品は喜劇だけあり、前半の2作品よりも演じやすそうな感じが伝わって 安心して観れました。
そんな中、死体(ブオーゾ)の関屋さんの笑いを誘う動き?(動かないって!)が良かったです。頭を下げたままになった時は、こっちが心配しちゃいました。

歌も舞台全体(上から下まで、左右も目一杯使って)でも 崩れる心配もなく、しっかりまとまったアンサンブルが聴けました。
有名な「私のお父さん」も影が薄くなるような緻密な舞台づくりが堪能できました。

そして最後、大詰めで驚きの展開。
リヌッチョとラウレッタがこれからの幸せな生活に喜ぶところ。コンテナが閉じられ、壁紙が剥ぎ取られると、なんと『外套』の場に早変わり。そして口上を言って立ち去るジャンニ・スキッキは あのミケーレの着ていたのと同じ外套を着て、口上を述べて幕。そして鳥肌が立ったのは、リヌッチョとラウレッタは『外套』でミケーレが持っていたおもちゃと赤い靴を楽しそうに持っていたこと。

『ジャンニ・スキッキ』でのリヌッチョとラウレッタの2人は、『外套』で恋人たちになっているので、そこでこの3部作がぐるっと繋がることが明確になりました。
ただ、赤い靴の意味を考えると、それはとても深い意味をもち秀逸な演出ですが、もっと単純に、リヌッチョとラウレッタがミケーレとジョルジェッタでも…と思ったのですが、男声の音域が変わってしまうからこれは無理ですね。

そんな最後に考えさせられる展開での幕は、見事過ぎました。

でもこの演出は初めて観る方には あまり勧められないなぁ~ って思うところも。でも私的にはこの舞台、S席16000円は高いとは思いませんでした。

新たな発見をもらった今回の『三部作』
やっぱりオペラ(プッチーニ)は演出が肝心ですね。