ハイドン鍵盤音楽の世界 その8:雑司谷拝鈍亭 | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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昨夜は浜松の『お決まり』のホテルでのんびり。夜、バラエティ番組に神奈川フィルの石田様が出演されると 期待してみていれば、それはあっという間で拍子抜け。いろいろ語って欲しかったのに…

今朝はのんびりと出発。浜松は東海道本線の『ど真ん中』の駅ですね。大阪、東京、どちらへも1回の乗り換えで行けちゃうところですから!

で、そこから電車で4時間半、護国寺へ。

ハイドン鍵盤音楽の世界 その8

2016年10月23日(日)17時~
雑司谷拝鈍亭


上尾直毅:クラヴィコード



今日はクラヴィコード。聴く機会の少ない楽器ということで、古楽器好きならチェックの演奏会ですが、プログラムがあり得ないレベルのマニアックさ。誰が好んで来るのだろう? つまり私だけが狂喜乱舞するようなプログラム。でも半分近い、40人くらいの、入りでした。

最初は
🎵ハイドン:メヌエット 変ロ長調 Hob.I:85 - III 「やさしくて楽しい様々な小品集」より
今日のプログラムで 最も有名な『曲』でしょう。交響曲『王妃』のメヌエットの鍵盤用編曲作品なのですから!
初めて聴きましたが、とってもかわいい作品になっていました。特にトリオでの同音反復のところは クラヴィコードの音色がピッタリ。

ここからは滅多に聴けない作品が続きます。
🎵ハイドン:ソナタ 変ロ長調 Hob.XVI:17 (ヨハン・ゴットフリート・シュヴァーネンベルガー?)
ハイドンのソナタと言われていたのですが、ウィーン原典版からは外されている作品。80年代以降のハイドンのソナタ全集の音盤のほとんどで録音から外されています。
ソナタ形式のアレグロの第1楽章。提示部では左手の8分音符(ドミドミ~BDBDに続く)のしつこいくらいの連打がありますが、クラヴィコードではそのリズムがそれほど気にならない。とても生気溢れる躍動的な曲は、作曲者の名前など関係なく、ハマりました。
メランコリックなト短調のアンダンテの第2楽章ハイドンらしい出だしで始まるものの、提示部のあとの反復も無しで展開部に入って…あれ、終わった?!あっさりとした構成ですが、明るい両端楽章との対比が光りました。
アレグロの第3楽章はちっちゃなソナタ形式。第2主題は? 左手が単音で4分音符で薄いけど… と考えていたら、やっぱり終わった!
クラヴィコードよりフォルテピアノの方が作品の軽快さが出たのでは?とも。

続いて
🎵ハイドン:ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI:Es3 (マリアーノ・ロマーノ・カイザー?)
アレグロとメヌエットの2つの楽章が1961年、第3楽章のアレグロが1971年に発見されたという作品。
第1楽章は端正なソナタ形式の作品。再現部では一瞬の短調への転調にハッとさせられます。それ以外は明るくコロコロと鍵盤の上を転がる音楽。この転がりはフォルテピアノの方がいいかな?
第2楽章はハイドン風のメヌエット。ソナタ第26番と似た主題。トリオは旋律を感じられない響きの世界。これは交響曲の響きの世界。
新しく発見された軽快な第3楽章も爽やか。古典派の天真爛漫で、ちょっぴり実験的な側面をもちらりとみせる、粋な作品でした。
ハイドンらしい、よく似た!? 作品。この作品はハイドンの真作と言われれば そうかも、と思える様。

休憩のあとはハイドンが作曲した作品。
🎵ハイドン:ソナタ ハ長調 Hob.XVI:15 (偽作の疑いあり)
このソナタはハイドンの有名なディヴェルティメント第11番 ハ長調『誕生日』を鍵盤用に編曲した作品。つまり、原曲はハイドンの作品。編曲がハイドンではないだろうということ。
第1楽章は『誕生日』の第1楽章の編曲。
第2楽章は『誕生日』の第3楽章メヌエットの編曲。
第3楽章が『誕生日』の第4楽章:主題と7つの変奏から5つの変奏を選んでの編曲。
元の管弦楽の響きを知っている耳には ピアノの澄んだ透明な音は 空虚な感じになりそうでしたが、温かなクラヴィコードの音色では そのような不満をほとんど感じませんでした。
今回、第5変奏のあとに 主題を反復なしで回帰させました。変奏ごとにテンポを上げていき、第5変奏では最初の1.5倍くらいまでの速さになりましたが、最後の主題では ほぼ元の速さで落ち着いて終わりました。主題を最後に演奏するのはスコアに書かれてはいませんが、これはとても居心地のよい締めとなりました。

ここからがハイドンの真作
🎵ハイドン:アレグロ・ディ・モルト ニ長調(断片)
ソナタの終楽章の様相の作品。
とても可愛らしい主題が軽快に開始され、ちょっぴりメランコリックな短い第2主題が奏される。反復無しで 短い展開部が半終止になると、おしまい!
再現部が書かれていない断片。ここまで出来ていれば 再現部 作れそう。上尾さんは 休符的な間を空けただけで、次のソナタへ。同じニ長調だから しっくり決まりました。

🎵ハイドン:ソナタ ニ長調 Hob.XVI:19
こちらが今日、最も『有名』な作品。私も耳にして「知ってる」と言えた作品。
モデラート~アンダンテ~アレグロの3つの楽章。昨日訪れた浜松楽器博物館のクラヴィコードの展示のところにある、クラヴィコード紹介の音源に使われていたのが、この曲。なんたる偶然!
最初の2つの楽章は反復をしっかり行ったので各10分くらいでもまったく飽きない充実した音楽。作品の力がそれまでの作品よりも高いためでしょう~その差が歴然とも~
いくつもの動機を組み合わせた、密度の高い第1楽章。
とても可愛い民謡調の主題が印象に残る第2楽章。
喜劇の一場面を見ているかのような第3楽章は変奏曲。ひとつひとつの変奏を明るく描いていきました。
第1、2楽章では付点のリズムが特徴的なこの作品。リズムを活かすにはクラヴィコードよりフォルテピアノの方が有利ですが、上尾さんは鋭いリズムより旋律を中心に音楽を紡いでいったので、クラヴィコードでも遜色なしでした。特に第2楽章では、クラヴィコードの特技、ヴィブラートを生かした奏法が映えました。

アンコールで
♪ハイドン:交響曲第62番~第2楽章
上尾さんの編曲。分散和音に乗った旋律などは クラヴィコードにピッタリ。本当に素敵な演奏がおまけにつきました。

このような偽作説の作品を聴くことの面白さは ファンにとってはたまりません。特に出来の良い作品ならばなおさら。誰の作品であろうと、その様式に近いものであれば興味深く聴くことができます。
特に日本では作曲者ありき、ですが、本来作品そのものの、耳で感じる心地好さを論じるべきだと考えますので…

大満足!

もう、実演では聴けないでしょう…

終演後、恒例、お友だちと反省会をして帰りました。