時々書く話題なので、リブログでも十分なのですが、それだと読んでいただけないことが多いので、新しい記事を。

 

体外受精・顕微授精をしていて、よくあるご質問が「体外受精と顕微授精はどちらのほうがよいですか」というものです。これは、一応今年の8月に結論ぽいものは出ていて、体外受精のほうが顕微授精よりも正常胚率はわずかに高い、と報告されています(このデータは現時点での最新データですが、こうしたデータは二転三転するのが常ですから今後覆る可能性もありますのでご注意ください)

 

詳細は松林ブログをご覧ください。

男性因子でない場合の体外受精と顕微授精の正常胚率は? | 松林 秀彦 のブログ 

 

ただこのデータは、一応傾向スコアマッチングはしているとは言え、非男性因子症例の体外受精由来胚と顕微授精由来胚をただ比べただけですので、例えば、顕微授精をした理由について完全には考慮されていません。男性因子はなくても、顕微授精をすることになった背景に何か理由があることも多く、体外受精の方よりも潜在的な患者背景が悪い可能性もありますので、そうした背景が影響している可能性は否定できません。また、体外受精はかければ終わりですが、顕微授精の場合は精子選別が必要であり、培養士によって異なるだろう精子選別の精度や、色々意見はあるところでしょうけれどもZyMot等の精子調整法や、IMSI、PICSIなどの精子選別の有無も考慮されていません。本来であれば、刺激周期で採卵した方の卵子を半々にして半分体外受精・半分顕微授精という平等な状態にして統計を取らないと正確な比較はできませんが、そこまでは比較できていない等、研究デザインに限界もあります。

 

また、正常胚率を比較した研究という場合、受精して胚盤胞になった場合しか見てないことになりますが、胚盤胞にならなければ正常も異常もありません。

 

当院では原則として初回治療ではSplit ICSI(体外受精と顕微授精を両方する)をしていますが、その結果は非常に個人差が大きくて、体外受精の側しか胚盤胞にならない方、顕微授精の側しか受精しない方、あるいは顕微授精の側しか胚盤胞にならない方、どちらも胚盤胞になるが良好胚は全て体外受精という方、どちらも胚盤胞になるが良好胚は全て顕微授精という方。様々な方がおられます。

 

例えば、体外受精側が不良胚ばかりで顕微授精をしたら良好胚ばかりという方にとっても体外受精の方がいいと言えるかといったら、それはNoでしょう。データを軽視するわけではないが、自分にとってはどうなんだということも同じかそれ以上に重要で、常に並行して考える必要があるわけです。

 

ですから、不必要な顕微授精は避けるべきではあるのですが、自分にとってどちらが合うのかということの見極めも大切で、最初は体外受精と顕微授精をどちらもしてみるという考え方には説得力があると思います(もちろん、最初は体外受精のみを実施し、全く受精しないとか全然胚盤胞にならない等の場合に初めて顕微授精をするという考え方もあり、それはそれで1つの考え方だとは思いますが)。

 

また男性因子がある場合や受精障害がある場合は顕微授精が必須となることもあります。こうした方々は、顕微授精という技術がないと赤ちゃんに出会えない可能性もあります。実際に顕微授精で出産された方もたくさんおられますし、すでに大人になられている方もおられるでしょう。そしてこれからも生殖医療において顕微授精の必要性や重要性は今後も大きな存在感を示し続けることは間違いないにもかかわらず、あたかも顕微授精という技術の必要性や重要性を決して軽んじるべきではありません。

 

かといって、なんでも全部顕微授精とか、そういう極端な方針のクリニックがあるとすれば行き過ぎだと思いますし、不必要な顕微授精は避けたほうがよいということに異論はありません。やはり、治療経過や体質あるいは精液検査の結果等から必要なら躊躇せず行うべきだし、そのあたりをバランスよく考慮して方針を決められるとよいのかなと思います。

 

 

少し尖がりましたが、結局結論は本人の体質に合わせてというありがちな結論になるわけですが、体外受精と顕微授精はどちらがよいのかについて解説してみました。

 

 

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体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、どちらが確率が高いか(2020年記事)

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