透明帯(zona)とは卵子の周囲の殻のようなものです。移植直前に、アシステッドハッチング(AHA)を行うなどと聞いたことがあると思いますが、これは、透明帯に穴をあけるもので、あまり日本語は使いませんがAHAの日本語訳は「透明帯孵化補助法」です。

 

卵子は、透明帯に守られています。例えば自然妊娠や体外受精で精子が2個以上入らないのは透明帯の機能のお陰です(何度か書いていますが、精子は生き物ではなくて細胞ですので、〇匹ではなく〇個と数えるのが正式です。かわいいので?、つい精子〇匹って言っちゃいますけど)。1個の精子が入ると、2個目以上は締め出されるというのは、よく考えると不思議な機能ですが、透明帯の大切な役割です。一方、年齢その他の要因で透明帯の機能が落ちてくると多精子受精の原因になる可能性もあります。

 

採卵した時に、透明帯がない(取れている)卵子が稀にあります。適切な日本語訳がないのですが、業界用語的には、zona freeといいます。freeというのは自由ということではなく、tax freeとか、barrier freeと同じで、「ない」という意味です。透明帯がない卵子でも、薄い膜で守られていますので顕微授精は可能です。

 

顕微授精後の分割は、周囲の保護膜がないのでこんな感じになります。静かに培養する分には問題ありませんが、バラバラになるリスクを避けるため、sequential mediumでの培養(D3での培養液チェンジ)と初期胚凍結は基本的に行えません。胚盤胞になれば凍結も移植も可能であり、妊娠出産も可能です(ただし胚盤胞になっても透明帯がないので、G4、D5の評価は基本的に存在せず、G1→G2のグレードはつけてもよいと思いますが、基本的にいきなりG6になります)。

 

透明帯と中身の細胞質に癒着が認められるケースもあります。体質的にそういう卵子になりやすい場合、敢えて透明帯をはずして培養することがあります。これが透明帯除去培養(ZPF)です(詳しい解説はこちら)。全員ではありませんが、これにより、今まで全く胚盤胞にならなかった方が胚盤胞で凍結できたという例もあります。ただし、あくまでも胚盤胞にならない原因が透明帯と中身の細胞質の癒着によるものだという疑いがある場合だけで、誰にでも適応があるというわけではありません。

 

透明帯は、精子に対するバリアと卵子の保護の機能はありますが、胚発生にはあまり関係ないと考えられており、必要があってZPFをする場合はもちろんですが、不測の事態で取れた卵子がzona freeだった場合でも胚盤胞になることは十分あり得ます。扱いはデリケートで十分注意が必要ですが、上記の写真のようにバラバラでも、ちゃんと胚盤胞になるなんて、なんだか不思議ですね。

 

というわけで、今日は透明帯について解説してみました。次回もお楽しみに。