体外受精を行う上では、自然に育った1個だけの卵胞を採卵する方法(自然周期)、内服と状況によっては少量の注射を併用する方法(低刺激~中刺激)、毎日注射を行ってよりたくさんの卵胞を育てる方法(高刺激、もしくは刺激周期)があります。

 

より自然に近い方法だと、薬剤も少なく、いわゆる体に優しい方法になりますが、採取できる卵子数は少ないため、効率はよくありません。一方、高刺激だと、毎日注射を行う必要があり、卵巣に若干の負担はかかりますが、採取できる卵子数が多いので、効率的です。昔は、重症の卵巣過剰刺激症候群等もあったものですが、もちろん今もゼロではないでしょうけれども、AMHや月経中の卵胞数等をもとに注射の量を決め、ホルモン値のモニターをマメに行い、しっかりと副作用軽減策を講じれば、もちろん症状の感じ方は人それぞれあるとは思いますが、「体への重い負担」とまで表現するような副作用が出ることは、そうそうありません。

 

どちらの方法がよいかは、向き不向きも大きいし、効率と副作用のどちらを重視したいかは患者さんの考え方にもよるでしょうから、一概にどちらのほうがよいとは言えませんが、少なくとも、「少数の卵胞を育てた方が、良質の卵子が採れる」というのは正しくなくて、採取できた卵子の数が多ければ多いほど、累積出産率は上昇することが知られています。様々な状況にもよりますので一概に基準は決められませんが、おおむねAMHが0.1以上あれば一度は刺激してみる価値があります。

 

卵巣刺激法でロング法、ショート法、アンタゴニスト法、PPOS(黄体フィードバック法、プロゲスチン法)というのは、いずれも刺激周期の分類です。そして、ちょっと難しいですが、卵巣刺激には、卵胞を育てる薬剤と、育った卵胞が排卵しないように抑える薬剤とあり、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、PPOSは、いずれも排卵しないように抑える方法の分類です。

 

つまり、

 

 卵胞を育てる治療(自然周期、低刺激、中刺激、高刺激) + 高刺激の場合は育った卵胞が排卵しないように抑える種類(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、PPOS)

 

みたいな仕組みで卵巣刺激は成り立っています。

 

ざっと特徴ですが、PPOSは何と言っても排卵リスクも少なく、来院日の調節性にも優れ、アンタゴニストの注射をいつから打つかとかそういうことを悩む必要もない、第一選択としてはうってつけです。当院でも、特に保険採卵の第一選択はPPOSにしています。車でいうと、オートマみたいなイメージです。

 

一方で、報告によっては、PPOSよりもアンタゴニスト法の方が成績がよいとの報告もありますので、PPOSでうまくいかない場合等や、AMHがあまりよくない場合アンタゴニスト法を選択することになります。アンタゴニストの注射をいつから始めるのかとか、そのあたりで医師(クリニック)により技量の差が出る可能性はありますが、うまくやれば良い胚を得ることができます。車でいうと、マニュアルみたいなイメージです。

 

ロング法やショート法は、体外受精の黎明期は第一選択だったのですが、今は、これらをメインにしているクリニックはそれほど多くはないです。点鼻薬でコントロールする方法になりますので、鼻炎の方には向かないのと、ダブルトリガーができないので卵成熟率がよくない場合もあまりお勧めではないです。これらの方法は、PPOSやアンタゴニスト法でうまくいかない場合に選択することがあります。

 

自然周期は、いわゆる排卵抑制は基本的に行いません。マメにホルモン採血をしてLHサージが出そうになったら採卵してしまいます。ただし、少量でもクロミッドを併用することで排卵抑制になりますので、自然と言いながら少量のクロミッドを併用するのはありです。残念ながら保険では1日1錠もしくは1日2錠で5日間しか処方できませんが、1日1/2錠とか、1日1/4錠とか、それらを採卵直前まで内服する方法もあります。こうした方法は、こっそり保険でやっているクリニックもあるかも知れませんが、厳密には保険適応外治療(自費でしかできない)です。今後の保険制度の改定で改善されることを期待したいところですが、どうかな、といったところです。

 

低刺激や中刺激でも排卵抑制はあまり行いませんが、排卵誘発剤の注射を行う場合は、散発的にアンタゴニストの注射を併用することはあります。

 

 

刺激をした方がたくさんとれる場合が多いですが、低刺激でも刺激周期でもあまり採卵数が変わらないこともありますので、体質を見極めながら計画を立てていくことになります。

 

次回は実際の薬剤について考えていきたいと思います。