今日は、受精卵の質の向上【2】です。まだ2だなんて、いつになったら完結するのか、という気が自分でもいたしますが、まあ、そこは気長にお待ちくださいませ。

 

採卵の前の周期にピルを使うクリニックは少なくありません。理由は様々ですが、クリニック側の事情からすると、ピルを内服すると、薬の種類により3日後、あるいは5日後くらいで月経が来ますので、採卵周期開始日および採卵日をある程度コントロールすることができる(休診日を避けて採卵を計画したり、そもそも日々の採卵件数を均等化できる)というメリットがあります。

 

本来、ベストの日に採卵すべきじゃないのか、というお声はありそうですが、当院のような大手はラボスタッフがたくさんおりますので、採卵件数が多少前後したところで仕事に大きな影響はありませんが、いわゆる中小のクリニックは、ラボスタッフ出勤人数が1人とか2人ということも多く、採卵件数が日々であまり乱高下すると仕事量がやたら多い日と暇な日が極端になってしまい、特に忙しい日で仕事が雑になってしまう恐れがありますので、できれば採卵件数を日々均質化したいというのはあると思いますし、そのためのコントロールが間違っているとは思いません。

 

また、採卵の前の周期にピルを使ったりカウフマン療法をしたりすると、卵胞が均一に育ったり、良好な卵胞が育つのではないかと考えられていた時代もありましたので、その流れでピルを内服することもあります。保険採卵においても、月経調整のためのピルは保険適応で処方できますので、そういう意味でも内服のハードルは高くありません。

 

しかし、卵巣機能や月経周期が正常で特に問題がない例においては、前周期にピルやカウフマンを行っても行わなくても、成績に大きな差はなく、ピル内服は、いらないといえばいらないです。前周期にピルを内服すると1採卵あたりの累積出産率が有意に減少するとの報告もあります。そのため、当院では、特に理由がなければ処方しておりません。

前周期にピルを内服するのは、今から二十数年前、ロング法が全盛期だった頃に話はさかのぼります。ロング法において排卵後約1週間後からGn-RHアゴニストの点鼻薬を使用するということにおいて、前周期に妊娠が成立してしまっている状態で点鼻薬を使用するとうまくないということと、いつが排卵後1週間後なのか分かりにくいという2つの問題点を、前周期の月経中からピルを内服すれば、前周期に妊娠成立する可能性はほとんどなくなり、また、ピル内服終了約1週間前から点鼻薬を開始すればよく、ロング法と前周期ピル内服をセットにすることは、医療サイドにとっても患者サイドにとっても分かりやすく安全であるなどメリットが大きかったのです。

 

ピルを内服したほうが月経中のFSHがコントロールできるのではないか、との考えもあるでしょうが、そんなことはありません。卵巣機能が正常であれば内服してもしなくても月経中のFSHの値はあまり変わりありませんが、卵巣機能が低下してくると、下手にピルを内服したり不用意なカウフマン療法を行ったりすると逆にFSHが上昇することがあります。

 

では、月経中の高FSH、あるいは高E2(=cyst形成、俗にいう遺残卵胞)が起こりやすい場合はどうしたらよいかといえば、排卵を確認し、排卵後からピルではなくエストロゲン製剤単独を内服するのがお勧めです(luteal E2)。この方法だと、FSH上昇や卵胞数減少等のデメリットが生じることはまずありません。そもそも、月経中にFSHが高かったら、その時点から下げれば十分(FSH調節法、あるいはE2補充療法)であり、月経中にFSHが下がっている必要はあまりありません。私の治療経験では、月経中のFSHが105の方で、その採卵周期の卵子で妊娠・出産された方がおられます。月経中のFSHの値が重要でないというわけではありませんが、何しろ月経中のFSHが100以上の周期でも妊娠・出産可能なわけですから、ことさら気にしすぎる必要もないということがご理解いただけると思います。

 

とは言え、月経中のFSHを下げておきたい場合は、ピルではなく、予定月経日の1週間くらい前から、プレマリンを1日2錠くらい飲んでおくときれいに月経が来ますので、月経中のFSHが気になる場合には頻用します。

 

ということで、今日は、採卵前周期について説明しました。次回もお楽しみに。