俗にいう「遺残卵胞」に関する記事、第5弾です。

 

すでに過去記事で何度も述べていますが、「遺残卵胞」というのは、俗称通称の類であって、正式な専門用語ではありません。以下の5種を中心とした月経中に18~25mm程度の卵胞のような所見が見える様々な状態場合を、十把一絡げにまとめて総称してしまったものが「遺残卵胞」です。

 

5種類の内訳は、

 

①黄体遺残 

②黄体化未破裂卵胞 

③単純性嚢胞(simple cyst) 

④機能性嚢胞(functional cyst) 

⑤本物の卵胞 

となります。

 

平たく説明すると、遺残卵胞とう言葉は「月経中に見える卵胞みたいな大きさの紛らわしい何かであり色々なものが考えられるけど、区別して考えるの面倒くさいから、とりあえず全部遺残卵胞って説明するんだけど、そんなんでも患者さんみんな「なるほど~」とかコロっと納得してくれる便利な言葉、それが遺残卵胞」ってところです。今日もグレーの小文字、絶好調でございます。まあ便利なので筆者もたまにこの言葉で説明しちゃうこともありますが。


閑話休題。①~④の詳細は、ぜひ過去記事をご覧ください。

 

「遺残卵胞」リプロ東京 公式ブログ 

遺残卵胞2 | リプロ東京 公式ブログ

遺残卵胞3「月経中に見えた卵胞を採卵するのは是か非か」 | リプロ東京 公式ブログ

クロミフェンと黄体化未破裂卵胞(「遺残卵胞4」) | リプロ東京 公式ブログ

 

今日は⑤が、なぜ起こるのかご説明します。

 

月経中に卵胞がある場合、穿刺すれば採卵可能であり、その卵子で妊娠も可能です。しきりに、そんな卵子採っても変性だし妊娠の可能性ないとか言う先生いますけど間違いです。妊娠例も出産例もあるしPGT正常胚もできます。しかしそんな卵胞がなぜ月経中に育ってしまうのか。

 

理由は大きく分けて2つあります。

 

パターンA)1つは黄体期不全(黄体機能不全)。良い排卵が起こらなかったり何らかの理由で卵胞が大きくなれない・E2が上がりきれないなどで良い排卵が起こらなかった場合、黄体機能不全になるのですが、黄体期の上昇するE2、P4のうちE2が足りないと、脳がE2不足を検出してFSHを出してしまいます。そうすると、それに反応して卵胞が育ってしまい、月経中に卵胞が育ってしまっている、というストーリーです。

 

パターンB)もう1つは、本来の月経より出血が遅れた場合です。前周期のホルモン補充をルトラールで行った場合。ルトラールって半減期が長い薬なので飲み終わってもなかなか月経が来ないことがあります。例えば、9月26日までルトラールを飲み、普通の周期なら10月1日に月経が来るべきところ、月経が10日6日になってしまったとしましょう。出血そのものは5日遅れたが卵胞は通常通りのサイクルであるとすると、卵巣的には10月6日目には生理6日目扱いとなり、すでに卵胞が育っている、ということもあり得ます。

 

 

 

パターンAは卵巣機能が落ちている時に起こりやすく、確かに変性卵が取れることもありますが、あまり気持ちのいい書き方ではありませんが、パターンAの場合に変性卵が得られるのは月経中に卵胞があった方ではなく、本人のもともとの卵巣機能のポテンシャルによるものですので、その周期の採卵をあきらめる必要はありません。

 

パターンBは卵巣機能とは何の関係もありませんので、月経中に卵胞があるからといってあきらめる必要はありません。

 

ただし、こういう場合普通は卵子は1個しか得られませんので(たまに2~3個取れることもあるが)、いつもは5個とか8個とか取れるよという場合は周期をあらためる必要があります。この場合、パターンAの場合はまた排卵後のE2が低いといけませんので、月経調整のためにエストロゲン製剤、あるいは、エストロゲン製剤と弱めのプロゲステロン製剤(例えばプレマリン・ノアルテン)を内服するとよいです。パターンBの場合は、たまたま前の周期のホルモン剤が合わなかっただけですから自然に様子を見て大丈夫です。

 

いかがだったでしょうか。一言で「遺残卵胞」と言っても非常に奥が深く、対応もさまざまなのです。それでは、今日はこのあたりで。