以下のような質問をコメントでいただきました。

 

【質問】

「いつも拝読し勉強させてもらっています。お聞きしたいのですが、クロミッドは未破裂卵胞ができやすいということはありますか?私はクロミッドのみの低刺激で採卵していますが、採卵後、次のD3で巨大な卵胞があってキャンセルということが2回ありまして…(42㍉でE2が1200/30㍉でE2が900)。たとえばレトロゾールに変えたら出なくなりますか?」

 

【回答】

俗にいう「遺残卵胞」に関するご質問です。自分で言葉を出しておいてなんですが、「遺残卵胞」というのは、正式な用語ではありません。以下の5種を中心とした月経中に18~25mm程度の卵胞のような所見が見える場合の総称(俗称)です。その内訳とは、

①黄体遺残 

②黄体化未破裂卵胞 

③単純性嚢胞(simple cyst) 

④機能性嚢胞(functional cyst) 

⑤本物の卵胞 

となります。

 

「遺残卵胞ですね」という説明は、①~⑤のどれであるかを判断していない時点で何の説明にもなっていませんが、説明する側も説明した気になれるし、説明を受ける側も分かったような気になれるwin-winな言葉であるため、いいことかどうかは別として、実際の診察の現場ではよくつかわれる言葉です。

 

月経中に上記①~⑤が見られた場合、①はE2正常、②はE2正常~軽度上昇 ③④はE2正常、⑤はE2高値となります。ご質問者様の場合は、E2がかなり高値です。クロミッドを内服すると黄体化未破裂卵胞のリスクは上昇しますので、ご質問者様の状態が黄体化未破裂卵胞である可能性もなくはありませんが、E2の値から考えれば、⑤の本物の卵胞と考えるのが自然です。

 

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。クロミフェンの作用はちゃんと説明しようとすると若干複雑ですが、平たく説明すれば、クロミフェンはE2の部分作動薬です。つまり、弱E2製剤のようなものと考えられます。弱E2を投与して、それを体内のE2受容体に作用させることにより、本来のE2がE2受容体に作用する時よりも体は弱E2状態を感じることになります。弱E2だと体に思わせ、脳に対してnegative feedbackをかけることによりFSHを上昇させることによって脳から卵巣への刺激となり、卵胞が発育する、というのがクロミフェンによる排卵誘発作用(卵胞発育作用)のメカニズムです。

 

クロミフェンは作用時間が長いため、特に連用した場合蓄積的に作用してしまう場合があります。特に、排卵後に体が低E2を感じると、排卵後であっても上記と同じメカニズムでFSHが上昇してしまうことがあり、これにより排卵後1週間後くらいから卵胞発育してきてしまうことがあります。そうすると、ちょうど月経3日目くらいに卵胞がいい大きさになってしまう、これが月経中に卵胞が見える正体です。つまり、自分の体でランダムスタート法状態となっているのです。

 

PPOS(黄体フィードバック法)やランダムスタート法で採卵しても卵子の質が低下しないことが広く知られておりますので、月経中の卵胞を採卵しても、それ自体が原因で卵子が低下することは考えにくいのですが、残念ながら、月経中に卵胞発育してしまうような場合、そもそも卵巣機能が低下していることが少なくありませんので空胞や変性卵となることもありますが、しかし、ちゃんと卵子が得られて妊娠出産に至ることももちろんあります

 

 

 

一方、レトロゾールは半減期が短く、クロミッドより短期間で体から消えてしまう上、クロミッドと効果のメカニズムも違う(クロミッドはE2の部分作動薬、レトロゾールはE2の産生そのものを抑制する)ことなどから、黄体化未破裂卵胞や月経中の卵胞発育のリスクは通常は上昇しないと考えられます。しかし、卵胞発育の力が弱く、同じ内服でもクロミッドと全く特性が違うので、そのあたりは注意が必要です。

 

 

では、いわゆる「遺残卵胞」ができやすい場合、他に予防策はないのでしょうか。

 

まずは、AMH>2.0の場合は、そもそも「遺残卵胞」はできにくいので通常予防策はほとんど必要ありません。AMHが1以上2未満の場合は、ピル内服により月経中の発育卵胞や高E2等を防ぐことができます。長期間の内服は推奨されませんので、できれば排卵後3日後くらいからプラノバール等を9日も飲めば十分です。これを、luteal OC(黄体期からのピル内服)と言ったりします。ただし、ピル内服が合わないかたも少なからずおられます(参考記事:☆採卵周期前のピル(カウフマン)の効果は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ (ameblo.jp))。

 

ピル内服が合わない場合、AMHが1未満の場合は、排卵があるようならば、排卵後数日後~1週間後の間から、プレマリン等のE2製剤の内服を少量開始します。エチニルエストラジオール(ジュリナやプロギノーバ等)なら1日2mg、プレマリンなら1日2錠くらいが推奨です。採卵している場合は採卵後から開始します。これを、luteal E2(黄体期からのエストロゲン製剤内服)と言ったりします。そうすると、排卵後の低E2状態が解消され、排卵後の高FSHが改善することにより卵胞発育が抑えられ、月経中の状態が整います。排卵後のFSHを抑制するためにはPは不要でありE2のみでよいので、luteal OCよりもluteal E2の方が理にかなっている気もします。ただし、採卵した場合はともかくそれ以外の場合、内服開始日の設定や何日間内服していただくか等の判断が必要になってきますし、また、月経がきてからもE2製剤は続けていただくことが多いのですが、その場合月経中のE2の値から外因性(内服した分)のE2の値を差し引いて判断する必要があるなど、担当医に一定の力量が必要です。

 

カウフマン療法をしても悪くはありませんが、そもそもPを投与する必要がないこと、不用意にPを投与すると月経中のE2が下がり過ぎてFSHが上がったり翌月の採卵数が減ることがあること、そもそもエストロゲン製剤の投与だけで十分であることなどから、1周期時間をかけてまで実施するメリットはほとんどありませんので、当院では通常カウフマン療法はほとんど行っておりません(たまにやることもありますが)。

 

 

詳しくは、以下の過去ログもぜひ再度お読みください。まだであれば、いいなと思ったらぜひ「いいね」もお願いします。