採卵すると、「変性卵」が取れることがありますが、医師の説明が曖昧だったり、医師としてはちゃんと説明しているつもりでも患者サイドとしてはよく理解できないことがあります。そこで今日は変性卵について説明します。変性(degeneration)を省略して、degと表記したりします。

 

変性卵とは、卵細胞が生きていないということとほぼ同義です。細胞質が黒ずんでいるとか、透明帯はあるけど中身がない(殻しかない)とか、明らかに細胞として生きていないことを変性卵と言います。明確な定義は恐らくなく、いわゆる生きていない等の条件は満たさなくても、巨大卵とか、単為発生して分割が始まってしまっている未受精卵子なども、データ集計上、変性卵の場所に入力してしまうこともあります(厳密には変性卵ではありませんが、使えない卵子であるという点でまとめて記載してしまうことはどのクリニックでもあり得ます)が、ここでは、いわゆる生きていない、本来の意味での変性卵について書いていきます。

 

変性が分かるのは色々なタイミングです。

まずは卵子が採れた段階。写真は正常卵ですが、この時点で形が崩れているのが「採卵時変性」。

 

顕微授精をする場合は周りのツブツブみたいな細胞(顆粒膜細胞)を取り除きます。この作業を裸化(らか)といいます。そうすると、こうしたツルっとしたきれいな卵子が出現します。まわりのツブツブがある時は分からなかった変性が、この時点で初めて分かる場合もあります(裸化時変性)。なお写真は正常の卵子。

 

顕微授精はこうした形の卵子に行いますが、針を刺した瞬間に卵子が壊れてしまったり(ICSI時変性)、針を刺した瞬間は大丈夫だったが、時間がたって当日もしくは翌日に変性が分かる場合もあります(ICSI後変性)。

 

体外受精をする場合は、裸化をせずに一番上の状態でそのまま精子をかけ、次の観察は翌日になります。翌日の観察で変性が分かることもあります(IVF後変性、受精確認時変性)。

 

 

1つ1つの変性について原因を特定することは不可能ですが、採卵時変性や裸化時変性は、卵子そのものが過熟だったり、あるいは卵巣機能が低下していてもともと良い卵子ではなかったなどの可能性が考えられます。この場合は卵巣刺激の見直し(排卵誘発剤やトリガーの種類やタイミング等。過熟が疑われる場合は、若干未熟寄りの方針で採卵決定することもありますが、状況にもよりますので、鵜呑みにせず医師とよくご相談ください)をすることで状況が改善することもあります。

 

ICSI時変性、ICSI後変性は卵子の透明帯の機能低下が考えられます。conventional ICSIをしていたのならpiezo ICSIにしてみる、あるいはpiezoだったのならconventional ICSIにしてみるとか、polscopeでよく確認しながらICSIするとか、受精障害がないならIVFメインの方針に切り替える等の方法が功を奏することもあります。IVF後変性は、あまりにも多いならICSIを考慮することもあります。

 

 

変性卵が生じる原因のベースには年齢や卵巣機能低下などが存在することが多く、変性を防ぐサプリメントや生活習慣などの方法で確かなものはなく、解決に難渋することもありますが、変性発覚のタイミングにより、改善の糸口をつかんで対策をすることで状況が好転することもあります。中には適切な対応により見違えるように良い結果となる場合もありますので、あきらめずに色々な方法に取り組むことが大切です。こうした場合は、やはり経験豊富で様々な方法をチャレンジできるクリニックでの治療が必要です。

 

というわけで、今日は変性卵について解説してみました。次回もお楽しみに!

 

 

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生殖医療解説シリーズのまとめ(4/11更新)