今日は、知っている人にとっては簡単だろうが意外と質問が多い、卵子、卵胞、空胞について解説します。

 

卵胞は、原始卵胞(0.03mm) → 一次卵胞(0.04mm) → 二次卵胞(0.07mm) → 前胞状卵胞(初期胞状卵胞)(0.2mm) → 胞状卵胞(後期胞状卵胞)(2~5mm) → 成熟卵胞(18~20mm) と変化していきます。月経中に医師がカウントしているのは 後期胞状卵胞です。

 

以前の記事(砂の中の小石)で書いた通りですが、エコーで描出可能なのはせいぜい2mm程度、卵巣のコンディションやエコーの設定その他により1mm程度でも見えたり3mmくらいないと見えなかったり、それは様々です。2mm未満のものもたくさんある中で、2~5mmの後期胞状卵胞の数を正確にカウントするのは意外と困難です。ちょっと強引にイメージ付けすると、直径3cmの餅に数回軽く擦り潰したゴマをマゼマゼして、レントゲンか何かでゴマの数を餅の外から数えるようなものです。黒いカスいっぱいあるし、どこまでが「ゴマ1個カウント?」ということにもなるし、立体だから、「あれ?これさっき数えたっけ?」みたいなことも普通に起こります。(そこを何とかちゃんと数えるのが技術だろう!と言われそうですが、もちろんその通りで、多少の誤差はある程度仕方がないとしても、できるだけちゃんと数えています。念のため)

 

数日たって、ゴマがちょっと育ったとして、数がちょっと減ったように見えたとして、数日前に見えたあの小さなゴマはどこに行ったのだ(月経中D3は卵胞が6つ見えていたのに、D8になったら5個だった、あと1つはどうした)という質問に医師が恐らく曖昧な回答しかできないのも、こういったイメージを持つと分かりやすいと思います。本音は「何日も前の2mmがどこに行ったかなんて判らないよ」なのですが、外来でそのまま言うと若干まずいので、それをもう少しマイルドに説明します。

 

もともと生まれた時に200万個あった卵子は思春期で20万くらいになり、その後、1か月数百~1000個の原始卵胞が減っていきます。卵胞は自然周期の場合は1個のみが発育し、残りは多数の卵胞は発育を停止します。これを卵胞閉鎖といいます。排卵誘発剤はこの閉鎖しゆく卵胞を閉鎖させずに育てるというものです。この減っていく卵胞を排卵誘発剤は少し救済して多めに発育させる薬です。排卵誘発剤を使っても使わなくても1か月1000個程度卵子は減りますので、その月に卵胞が1個育っても50個育っても大勢には影響しません。そして、胞状卵胞以前の小さな卵胞にはHMG製剤は効きませんので、排卵誘発剤の有無で減少卵子数は変わりませんので、排卵誘発剤を使用すると卵子が減る、医原性の閉経になるという意見もありますが、よほど無茶をしない限りこの説には理論的に無理があります。

 

さて、ここで卵子や卵胞を混在させて説明してしまいましたが、月経中の胞状卵胞くらいまでは卵子と卵胞は同じような意味で使ってもあまり問題は生じません。しかし、ある程度大きくなってきた時には卵子と卵胞は区別して考える必要があります。

 

すなわち、12mmとか15mm以上の卵胞においては、エコーで見えているのは「卵胞」(ふくろ)であり、その中に、0.1mm程度の卵子とその周囲の卵丘細胞が入っているということです。そして重要なのは、エコーでは卵子は見えない(見えているのは卵子が入っている"かも知れない"「卵胞」)ということです。ホルモン値より、たぶん多くの卵胞には卵子が入っており、それらが細胞質成熟を遂げている(卵子の成熟についてはこちらを参照:卵子の成熟1)だろうと思った時点で採卵を決定します。

 

ある程度卵胞が育ってきた場合。卵胞が片側10個くらいなら大体正確にカウントできますが、15個くらいになってくると怪しくなってきます。大小さまざまの実がついたブドウの大きさと個数を正確に数えろ、みたいなミッションとお考えください。あれ?これさっき数えたっけ、ということも当然起こるし、若干ラグビーボール状のものだと測定角度にとっても長さは変わってきます。数が多くなればなるほど数や大きさの誤差も広がってきますが、例えば、卵胞が20個なのか23個なのかというのは、情緒的な面を考慮しなければ、採卵日を決定する上で医学的にはあまり重要ではありませんので、そのあたりは多少アバウトになることは仕方がないし、問題ありません。採卵すれば、最終的な卵子数として確定するので、それで十分ということです。

 

採卵はどのようにするのでしょうか。卵胞1個20mm(2cm)、卵子0.1mmですが、例えのために5倍に拡大してみると、直径10cmの水風船に0.5mmの透明タピオカを入れて、風船にストローを刺して、中の水ごと0.5mmの透明タピオカを吸引する、みたいなミッションです。こう例えると吸い切れない0.5mmの透明タピオカがあっても不思議はないことがお分かりいただけると思いますが、逆に言えば、平均で穿刺卵胞あたりの卵回収率は8割程度、調子が良いとすべての卵子を回収できることもあることは、すごいなあとも思います。

 

一方、空胞とは、吸ったが卵子が見つからなかったことを総称していいます。タピオカの話で引っ張れば、ストロー刺して0.5mmの透明タピオカごと吸おうとしたが、吸ったけどタピオカ吸えて来なかったとしましょう。しかし、タピオカは透明で見えないので、最初からタピオカが入っていなかったのか、入っていたけど吸えなかったのか、吸った人には分かりません。これらをごちゃまぜにして「空胞」と言うことにしています。空胞というと、卵子がいかにも入っていなかったかのような表現に聞こえますが、卵子があったが吸えなかった場合も結果として空胞と表現します。

 

培養士はタピオカ交じりの水を顕微鏡で観察して、1個1個、専用の小さなお皿に移していく作業をします。水の大部分は捨ててしまい、少量の培養液とタピオカさんだけにすると、あとから探しやすいのです。これが「検卵」です。

 

言葉の使い方ですが、10個中8個は取れて2個が取れなかった場合、卵回収率としてはあり得る率なので、その2個のことを通常わざわざ空胞と言ったりはしません(なぜ2個取れなかったんだと質問された場合は、空胞だったのでしょうねえ、とは言うこともあります)。1個あるいは2~3個(あるいはそれ以上)穿刺したが1つも卵子が採れないとか、10個穿刺して2個しか取れない場合、採れなかったものは空胞でした、と表現します。つまり空胞という言葉には、採れるはずのものが採れなかったというような意味合いが言外にあります。原因については様々であり、これは以前の記事をご参照ください。

 

そして、個数については、採卵前に〇個というのは卵胞の個数、採卵時には、穿刺卵胞数と回収卵子数の2つの数字が存在します。採卵時の医師の仕事は卵胞を穿刺することです。2個穿刺したら、「2個取"り"ました」と言うことがありますが、これは卵胞を2個穿刺したという意味です。一方、その後の診察で、「2個取"れ"ました」というのは卵子が2個得られたということを意味します。すなわち、2個穿刺したが卵子は1個だった場合、(卵胞を)2個取りましたが、(卵子は)1個取れましたということになります。このあたり少し誤解が多いようなので確認です。

 

ということで、今日は、卵胞、卵子、空胞について少し掘り下げて解説してみました。

次回もお楽しみに!