あくまでも公式ブログなので、特定の薬剤についてあれこれ書くのは禁じ手であると思ってはいるが、面白い薬なので今日はルトラールとデュファストンについて語ってみようと思います。

 

黄体ホルモンには、投与経路の分類では、膣坐薬、筋注、内服の3種類があり、内容的には①天然型プロゲステロン製剤と、②合成黄体ホルモン類似物質に大別されます。ここで、黄体ホルモン剤については、こちらの過去ログを再掲します。

 

宇宙人①天然型黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤宇宙人

基礎体温は上昇し、P4の検査結果として反映します。

【膣坐薬】腟坐薬全て(ウトロゲスタン、ルテウム、ルティナス、ワンクリノン等)

→P4の検査結果にやや反映します。ただし、全身の血液にいきわたらずに効果を発揮する(子宮局所で効果を発揮する)ため、子宮局所のP4濃度よりも末梢血(いわゆる採血)は数分の1以下であり、採血しても参考にはなりますが参考にしかなりません。

 

【筋注】P50筋注(プロゲステロン筋注、プロゲストン筋注等)

P4の検査結果にしっかり反映します。

 

パンダ②黄体ホルモン類似物質パンダ

(黄体ホルモンとしての効果はあるが)P4の検査結果としては全く反映しません

【内服】ジドロゲステロン(デュファストン)→基礎体温上昇なし

【内服】クロルマジノン酢酸エステル(ルトラール)→基礎体温はしっかり上昇

【内服】メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)(プロゲストン、ヒスロン、プロベラ等)→基礎体温はやや上昇

(その他、プラノバール[E2とPの合剤]もP4には反映しませんが、基礎体温はしっかり上昇します)

【筋注】P125筋注(プロゲストンデポ筋注等)→基礎体温がやや上昇

 

 

海外では長く、体外受精の黄体補充としては天然型黄体ホルモンを使うものだ、とされてきており、膣剤あるいは筋注を使うべきであり、内服での黄体補充はするべきではないと考えられてきました。実際、特にデュファストンなどは非常に弱い薬であり、基礎体温上昇なし、P4を測定しても検出されない、出血するし内服中に月経来てしまうこともあるし、単独ではどこまで効いてるんだかよく分からないお薬です。もともと、排卵後や妊娠中のホルモン補充(自力でホルモンが出ている場合の補助)としての薬ですから、自力の黄体ホルモンが出ていない状況で単独で使って効かないと文句を言うのは筋違いかも知れませんが、ちょっと頼りない。でも、妊娠していなかった時に生理を乱すことなく、必要十分にホルモン補充をしてくれるので、デュファストンはとても使いやすい薬です。

 

 

一方、ルトラールはとにかく頼りになります。ルトラールを飲むと基礎体温がしっかり上がります。体外受精の治療において基礎体温がどの程度重要かは別として、「効いている感」があります。

 

そして、強力な内膜維持効果・止血作用があります。デュファストンを内服していても妊娠していなければ月経が来てしまいますが、ルトラールを内服している場合、3T/日くらいだと不正出血が始まることもありますが6T/日内服していればまず出血しません。妊娠中の出血等にルトラールを使うこともありますが、止血剤などよりよほど止血効果がある場合もあります。

 

次に半減期が長い。これだけデュファストン弱くて頼りないみたいなことを書いておいてなんですが、当院で人工授精やタイミングの黄体補充は基本的にデュファストンです。自力のホルモンが出ている前提での補助としてはそれで充分であるからですが、ルトラールは半減期が長いので、妊娠していなくても内服終了後なかなか月経が来ないことがあります。下手をすると飲み終わって1週間たっても月経が来ないこともあります。そんなことをしているうちに卵胞が育ってE2が上昇してしまい、次の月経時のE2がやたら高かったり、すでに卵胞が育ってしまっていることなどもあります。一般不妊治療で、ことその周期に妊娠する前提ならばいいのですが、その次の周期のことまで冷静に考えたときに、使いやすい薬とは言い難いのです。しかし、体外受精の黄体補充としては、半減期が長いということは、飲む間隔がずれたり、飲み忘れたりしても被害が少ないことを意味します。

 

 

体外受精の場合は自力のホルモンの補助ではなく全てを薬で補う必要があるが、本人との相性リスクを軽減する目的で、当院では、ホルモン補充周期における凍結融解胚移植の黄体補充を単剤で処方することはあまりありません(膣坐薬+筋注+内服のミックスが基本)が、薬との相性がよければ、ルトラールだけでも十分ホルモン補充周期の黄体補充として成立します(実際に、日本発の論文で膣坐薬1日800mgの妊娠率とルトラール単独の妊娠率は全く有意差がないと報告されています。Reprod Med Biol. 2019;18:290-295)。

 

これが、ルトラールにアレルギーがあるなどで、ホルモン補充周期による黄体補充をデュファストンだけでやろうとするとけっこう出血したりしてやりにくいのですが、この場合は、筋注を週2~3回併用すれば問題なくなります。同じ飲み薬でも違いがあって面白いですね。

 

 

ということで、今日は、ルトラールとデュファストンについてお話してみました。

こういうのは、どこをみてもなかなか書いていませんので、お楽しみいただけていましたら幸いです。

 

では次回をお楽しみに!