今日は、黄体ホルモンについて解説します。
黄体ホルモンは、いわゆる天然型黄体ホルモン(プロゲステロン)と、合成黄体ホルモン製剤(黄体ホルモン類似物質)に大別されます。血液検査で測定できるのは、このうち天然型黄体ホルモン(P4)のみです。ちなみに、いきなり脱線しますが、なぜ、天然型黄体ホルモンがP4というかについては、エストロゲンが、E1: エストロン、E2: エストラジオール、E3: エストリオールでE1~3まであるので、PはP4になった、というまことしやかな話がありますが、実際には、P2(プレグナンジオール)とかP3(プレグナントリオール)などもプロゲステロンの代謝物(黄体ホルモンそものものではない)として存在します。
さて、いきなり話がそれました。黄体ホルモン、内服、腟剤、筋注があります。エストロゲン製剤は内服、貼付剤、塗布剤、筋注なのに、なぜ黄体ホルモンは腟剤などという厄介なものになるのでしょうか。それは、天然型黄体ホルモンは、経口投与すると肝臓で代謝されてしまってほとんど効果がないからなのです。すなわち、経口(内服)黄体ホルモン製剤は全て黄体ホルモン類似物質であり、天然型黄体ホルモンとは動きが異なります。
天然型黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤
腟剤全て(ウトロゲスタン、ルテウム、ルティナス、ワンクリノン等)
→基礎体温がやや上昇し、P4の検査結果にやや反映します。
ただし、末梢血(いわゆる採血)で分かるP4濃度よりも、子宮局所のP4濃度のほうがはるかに高いことが知られていますので、参考程度にしかなりません。
いわゆるP50筋注(プロゲステロン筋注、プロゲストン筋注等)
→基礎体温が上昇し、P4の検査結果に反映します。
黄体ホルモン類似物質
ジドロゲステロン(デュファストン)
→基礎体温はほぼ上昇せず、(黄体ホルモンとしての効果はあるが)P4の検査結果としては反映しません。
クロルマジノン酢酸エステル(ルトラール)
→基礎体温がしっかり上昇し、内服終了後も最大1週間程度高温期が続くことがあります。
(黄体ホルモンとしての効果はあるが)P4の検査結果としては反映しません。
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)(プロゲストン、ヒスロン、プロベラ等)
→基礎体温はやや上昇し、(黄体ホルモンとしての効果はあるが)P4の検査結果としては反映しません。
いわゆるP125筋注(プロゲストンデポ筋注等)
→基礎体温がやや上昇し、(黄体ホルモンとしての効果はあるが)P4の検査結果としては反映しません。
当院でのホルモン補充療法は、腟剤、P125筋注、内服(ルトラール)の3種類を使用しています。これは、体質によって吸収率の悪い経路があったとしてもリスクを分散できるからという考え方なのですが、このうちP125筋注とルトラールは黄体ホルモンとしてはしっかり作用していますが、P4値には反映せず、腟剤も、実際の子宮局所のP4濃度よりは低く出ます。そのため、移植時のP4濃度が5.0以上であれば黄体ホルモンは十分であると判断していますが、こういった事情からなのです。実際には、腟剤も5.0ではなく、何十として効いているはずであり、さらに筋注と内服分が実質上乗せされると考えます。
なお、何かの事情で腟剤を使えず、P125筋注、内服(ルトラール)のみで黄体補充をする場合は、P4は測定しても1未満となります。
ちなみに、エストロゲン製剤も、天然型エストロゲンとそうでないものがありますが、すべて血中濃度(E2値)に反映します。ホルモンは、難しいですね。
さて、今日は黄体ホルモンについて解説しました。次回もお楽しみに!
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