純乃に再び会いに行くにあたり、取りあえず何か口実を作らねば、
というのが僕の行き着いた答えだった。
じゃあ、何が?
三分弱考えあぐねた挙句、僕が新たに導き出した答えは、
取りあえず女性の問題は女性に聞いた方が早かろう、というものだった。
携帯のアドレスを順繰りに見ていく。
こんな小っ恥ずかしい相談を持ちかけられるのは、どう考えても柚季くらいのものだろう。
なるべくならそれは避けたかったが、手段を選んでいるほど暇ではない。
『デートのお誘いなら結構ですけど』
コール一回で電話に出るなり、柚季のおどけた声が応じた。
「開口一番それかよ。厄介な奴め」
『冗談じゃん。で、何か?』
「疎遠だった近所の男の子に久し振りに会いに来られるとき、どんな口実で来られるのが一番嬉しい?」
『疎遠にするくらいだから、どんな口実で来られても嬉しくない』
「……言い直す。どんな口実で会いに来られると嬉しい?」
『んー、プレゼントとか、そういうの?』
プレゼントか……・。
純乃がオレンジを好きなことは知っているが、十八歳の今、
缶ジュースなんかもらっても嬉しくなどないことは目に見えている。
かくなるうえは。
「今から会える? 校門で」
『は!? えーとでも、プライベートで会うの初めてだよね、どんな服を着ていけば』
「別にデートのお誘いじゃない。初恋の人に会いに行くだけ」
『……分かった』
それきり電話は切れた。
――何なんだよ、もう。
きっかり十七分後、校門の前に現れた柚季は、心なしか不機嫌そうだった。
「何なの、ちゃんと事情話してよ」
柚季は言動とは裏腹に、白いトップスとキュロットという意外と可愛い格好で自転車に跨っていた。
高く結われたポニーテールにオレンジのシュシュがくっついていることに
少しだけ胸の奥の方が疼いたが、時間がないのでさっさと説明を済ませることにする。
「なるほど? で、プレゼントを選んでもらおうって魂胆か」
僕が一通り事情を話し終えると、柚季はいかにも面倒臭そうに溜め息を吐いた。
「協力してくれる?」
「面倒臭っ。アイスくらい奢ってくれたら嫌とは言えないけど」
「……分かった、それで手を打とう」
そんなこんなで更に十分後、僕は丁寧に包装された小さな袋を手にしていた。
柚季と、やけに物知り顔な店員の口車に乗せられるがままになっていたような
気もしないでもないが、取りあえず目的は果たしたので良しとしよう。
「これからどうする?」
ペダルに足をかけながら、僕は取りあえず柚季の方を振り返って尋ねた。
「どう、って。ここまで来たら、最後まで見届けるけど?」
柚季はなぜか偉そうに腕を組んで言う。
見届けるけど、って。
なぜに偉そうなんだ、お前はっ。
「……まあ、行くか」
「おう」
風に背中を押され、陽射しを存分に浴びながらアスファルトを疾走する。
これから純乃に会える。そのことで僕の頭は満たされていた。
純乃に会えば、あの日のままで止まった夏がきっと動き出すはずだ。
――君の待つあの夏へ、今すぐに駆けて行こう。