(2) 最大 determinant 問題 | Chandler@Berlin

Chandler@Berlin

ベルリン在住

今回はなぜ最大 determinant 問題が興味を持たれたかについて私の考えを述べよう.しかし,これは直接の裏付けとなる資料がないのでまったくの間違いということもあることをお断わりしておく.

私がみつけたのは,偏微分方程式に関連した最大 determinant 問題である.偏微分方程式は興味あるかという話はあるが,はいと答えて問題はないだろう.これには熱や波に関しての式が含まれる.建物,計算機,車や船や飛行機の設計などなど,この式の応用は今日ではあまりに多岐に渡っている.

最大 determinant 問題に貢献した数学者の一人に,Hadamard がいる.彼の興味の一つは偏微分方程式であったとある.基本的な偏微分方程式,たとえば,振動の式は,
Chandler@Berlin-eq01
の形をしているが,
Chandler@Berlin-eq02
と書ける.(ちょっと余談になるがこう書くと $\frac{d^2 }{d x^2}$ というoperator が固有値$-\lambda$ を持っているように見えてくる.これを微分演算子がなくなるまで積分すると積分方程式になる.こうなると,積分方程式と線形方程式の関係がちょっと見えてくる.)

実際に Fredholm はこのような積分方程式をまず部分和の形で書いた.これは行列の形になっており,その極限,つまり行列の次元を無限次元にもっていくことで積分方程式を解くというアイデアを考えた.

このような形に積分方程式が書ける場合,それぞれの部分和に関しては線形方程式を解くことで求めることができる.当時はこれを Cramer の方法を使うことで解くという考えがあったようである.その際,1/det(A) の形が式中に生じる.行列 Aのサイズが大きくなった場合,この収束条件は最大値が 1 を越えるかどうかにかかわってくる.私は,ふとこの意味で数学者が最大値に興味を持つことがあったかもしれないと考えた.しかし,最大 determinant 問題がこのような動機で考えられたという文献はみつからなかった.

注: これでは Fredholm が積分方程式をどうやって行列の形にしたのか説明不足だとは思うが,詳細すぎるので,後で補足する.

また,Fredholm は Cramer の方法を直接使うことはなかったようだが,収束性には determinant の最大値が必要であったということは志賀浩司,固有値問題 30講, p.121 にある.

Hilbert はこの問題から determinant を除き,固有値を中心とした考え,Hilbert空間へと飛翔する.determinant は現在でも重要であるとは思うが,固有値の方が興味は尽きない.これもまた私の印象にすぎないことであるが,Hilbert空間が熟成する時に人々の興味は,determinant から固有値に移ったのかもしれない,とふと思った.