Cool な Matrix (3) | Chandler@Berlin

Chandler@Berlin

ベルリン在住

今日の話のあらすじ

今日はできない掛け算というのを考えてみる.できない掛け算というものがあり,それは,意味がないようなものを言う.

「一皿 6 ユーロのスパゲティを 5人前頼んだらいくら?」

は,6 * 5 で 30 ユーロである.しかし,

「一皿 6 ユーロのスパゲティを一皿 7 ユーロのサラダ前頼んだらいくら?」

を 6 * 7 とするのは意味がない.意味を考えるとできない.この意味のないことをどうやら教えている人達がいるらしい.そして数学嫌いの生徒さんを生み出しているらしい.残念である.

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本編

線形代数での足し算かけ算というのは,ある値 x に対して定数倍のかけ算と他の値y の足し算に限定されている.だから,3 * x + 2 * y とかはできるが,x *y とかはできないという条件を考える.x * y もできないなんてどんな意味があるんだと思うかもしれないが,数があれば足したり掛けたりできるという方が実際の世界では珍しいのである.これは学校で習っているはずなのだが,なかなか難しいかもしれない.数の世界だけ考えていればどんな数もかけ算はできるが,実際の世界ではそうとは限らない.

ここではレストランを例にとろう.x や y はたとえば,メニュー A の値段 x とメニュー B の値段 y ということにしよう.もっと具体的に言えばスパゲティとサラダしかメニューがないレストランに5人で入ったというような状況を考えてみる.スパゲティが一皿 6 ユーロで,サラダが一皿 7 ユーロだったとする.5人のうち3人がスパゲッティを注文し,残りの2人がサラダを注文すると,

3(人) * 6 (スパゲティの値段) + 2 (人) * 7 (サラダの値段)

が総計となる.ここではかけ算と足し算がでてきたので線形演算という話のとても簡単な場合である.さて,ここでかけ算,(スパゲティの値段 6) * (サラダの値段 7) = 42 には全然意味がないことはわかるだろう.値段かける値段の意味がわからない.つまり,

「一皿 6 ユーロのスパゲティを10人前頼んだらいくら?」

という話ならわかるが,

「一皿 6 ユーロのスパゲティを一皿 7 ユーロのサラダ前頼んだらいくら?」

というような話は意味がない.説明できますか? この文には二つも説明できないことがある.まずはかけ算してしまうこと.そして,それを「いくら?」という質問にすること.かけ算というのは単位を変化させる場合がある.この質問は単位を変化させる質問なのでいくらと言われても困る.

たとえば,1 本5m の紐 10 本の総長は5m * 10 で 50 m であるが,10m * 5m 土地の面積は 50メートルではなくて,50平方メートルである.ここでの質問は,

「縦 5mの『長さ』で横 10m 『長さ』の土地の『長さ』は何?」

と言われているようなものである.50メートルの長さの土地とか言われても困る.単位をハイライトしてみよう.

「一皿 6 『ユーロ』のスパゲティを一皿 7 『ユーロ』のサラダ前頼んだら『いくら(=何ユーロ)』?」

これでは質問の意味がわからない.このような方法で50 m の長さがあるけれども幅は 1mm であるとかいう土地を 50平方メートルの値段で売られたら大変である.基本的な数学はこういうことに騙されないように知っておく方がいいんじゃないかと思う.

だからこういうかけ算は通常はしない.6 と 7 という数字のかけ算 6* 7 = 42というのはできるが,しかし,この例では意味がない.-1 * -1 = 1 を借金かける借金は預金になる,などとまったく意味のない計算を教えている本があったりする.これは計算はあっているが,説明は間違いである(いったいこの数は何を意味しているのだろうか).この借金かける借金のようにできないものがいくらでもある.こういう間違いを教えられると,数学が嫌いになることも理解できる.数学が嫌いになって詐欺師に騙されないようにして欲しい.しかし,詐欺師は騙すために数学を学んだりするらしい.やれやれ.でも私は Paper Moon という映画 http://www.imdb.com/title/tt0070510/ は好きである.この映画ではここの話のような意味がないことをうまく計算ができることにすりかえている詐欺がある.