イスラムブルーは空の青さを生活の中へと調和させ、
白い雲が空をより青く見せ、その美しさを誇張するように、
白い壁の中に所々写る青は、透明な空を連想させる。
アフリカ大陸初日は、ジブラルタル海峡をフェリーで渡り、
対岸のスペイン領『セウタ』へと辿り着いた。
モロッコ北端に位置する『セウタ』はスペイン領である為に、
船の上や船を降りた際の入国審査や荷物検査はない。
旅人の多くは『タンジェ』と言うモロッコの港町に行くのだが、
船上でのわずらわしさや、荷物検査での積みおろしの手間、
久しぶりに自転車を押したまま陸路国境を渡りたい、と、
言った理由から、ここをアフリカ大陸のスタート地点に決めた。
しかしセウタで何かやろうと思う事もなく、そのままツーリスト
インフォメーションで町の地図をもらい、国境まで走りはじめる。

スペイン領だけに景色は今までとさほど変わり映えはなく、
いつもと変わらない調子でマイペースに走り国境に着く。
国境で持っていた95ユーロをモロッコの通貨『ディルハム』
に両替した所、事前に計算していたよりもだいぶ多く返って来た。
(確実に両替計算間違えて多く渡してます。)そんなラッキーもあり、
余っていた小銭は全てチップとしてあげる事にした。
スペイン国境は何故かノースタンプでそのまま素通り。
そしてモロッコ国境では誰が係員で、
だれがうさんくさいタカリか分からない状態。
制服を着るわけでもなく、色んな人が行き交い、
今までの国境で最も、いい加減な感じがした。
入国カードを書き適当な旅程を説明し、無事モロッコ入国。
こんな緊張感のない国境も珍しい。
モロッコ入国直後。後ろがモロッコ国境。モロッコの地図をまだ入手していないので、海沿いの道を
とりあえず南へ走り、看板だけをたよりに、『地球の歩き方』
に載っている、『ティトゥアン』と、言う町まで走る事にした。
町の感じは南へ行くにつれ、ドンドンとスペイン色が薄れる。
中東を旅していた時の感覚がフラッシュバックし、
若干の懐かしさと「異国」に来た実感が湧いて来た。


道路看板に従いのんびりと自転車を走らせること50km、
何のトラブルもなく『ティトゥアン』に辿り着いた。
地図を広げていると、バイクに乗った変なおじさんが現れ、
「安くていいホテルがあるから着いて来い。」と、言う。
怪しい奴の常套句であるのは百も承知だが、
嫌なら断れば良いし、モロッコ人がどれだけうさん臭く、
またどんな手を使って来るのか知ろうと着いて行く事にした。
『マラガホテル』と言う、立地もまずまずの普通のホテルは、
想像していたよりはましで、宿スタッフも感じが良かった。
おじさんは「日本人が好きなだけで、チップは要らない。」
と言う。とは言え何らかの見返りを求めないはずはない。
案の定、チェックインがすんだ後「夜はどこ行くんだ?
メディナ(旧市街)を案内する。カフェに行こう、etc…」
断ってもしつこくあれこれと要求を突きつけて来る。
「自分で適当に歩き回るんで大丈夫です。」と断ると
「チップくれ。」と、想定通りの返答が来た。
モロッコ初日と言う事もあり、多めの20ディルハムを渡すと、
「ありがとう!」と、何ともさわやかに去って行った。
まあ宿探しでうろつくのも面倒だし、値段も悪くなかったので
あのおじさんには感謝だが、やはりうさん臭い奴は多い。
メディナを歩いていても日本語で話しかけて来るのは、
大体が麻薬のプッシャーか何目当てか分からない輩だ。
変な奴に話しかけられながらつきまとわれ、
「ホテルまで着いて行く。」と、30分以上追われた時は、
さすがに腹が立ち声を荒げ、「いい加減にしろ」と怒鳴った。
『世界三大うざい人種』と言う汚名が着せられているのも頷ける。
(ちなみに他はインド人とエジプト人。)

ティトゥアンのメディナは大きく、迷ったら出るのが大変です。そんな嫌な印象もありながら、それも一興!とひらきなおり、
これから続くであろうモロッコの旅を祝いたかったのだが、
この時期はイスラム教の断食月『ラマダーン』である為に、
ほとんどのレストランはクローズか品薄状態。
日没後は飲食を許されるのだが、
まともに食べられるレストランが少ない。
仕方なく近所の小さな商店でヨーグルトとパンを買い、
地味で質素なモロッコ初日祝いをしたのだった。

翌日は見事な快晴。久しぶりの青空に気分も晴れながら、
日中は悲惨な程に暑くなるのだろう。と、不安もよぎる。
目的地の『シャウエン』までは約70kmのほぼ上りだったが、
朝早く出発した事もあり、夕方には到着する事が出来た。
ティトゥアンからの眺め。シャウエンは奥にかすんでいる
山の裏側にあり、山脈を大きく迂回し、更に町へ入る際には
最後の試練とばかりに、凄まじい急な坂があります。
リフ山脈の北に位置する『シャウエン』はティースカ山(2050m)、
メッグ山(1616m)の山肌に広がる小さな町で、この二つの山が
角のように見える事からアラビア語で『角』を表す『シャウエン』
と、名付けられた。
他の町よりも、より「青」を感じさせるシャウエンのメディナは、
こじんまりとしたものだが、家の意匠や小物、装飾品などが
美しく、歩いているとメルヘンチックな印象をうけるだろう。

シャウエンは山の中に佇む静かな海の様でもある。
海の青さが空に写り、更に海がそれを写しかえす。
海に深く潜るように、どこまでも無作為に延びる
旧市街の迷路を歩いていると、
そこに行き先なんて存在しない事に気付く。






マラガから4日連続で走った僕は、
喧噪から外れたシャウエンで再び連泊しようと思う。
良い空気に良い景色。
時間はまだたっぷりある。
この空とも海とも形容し難い青の町で、少々気になる腰痛を治し、
次は『フェズ』を目指し更に南へと走り出す。