新型コロナウイルスに感染して約2週間家に引きこもっておりましたが、お陰様ですっかり元気になりました。
前回の記事では、デジタル機器を過剰に使用すると子どもの脳に悪影響がある、という話をしていたのでした。
デジタル機器の過剰使用によって子どものたちの脳に何が起きるのか?
1、依存症
2、精神疾患
3、学力低下
この三つの観点からお話させて頂きます。
まずは一つ目の依存症から。
ドーパミンという神経伝達物質があります。
ドーパミンの働きは簡単に言うと、快感を与えることで人を行動へと駆り立てることです。
例えば、食事や人との交流、運動、性交渉などで人は快を感じますが、このときに脳内ではドーパミンが分泌されています。
快を得るために、人は繰り返しこれらの行動を取ろうとするわけですが、
これらの行動はどれも、自分自身が生き延びる可能性を、そして自分の遺伝子を次代に残す可能性を高めてくれるものです。
つまり、ドーパミンは快の感情を与えることで、人に生きるために必要な、遺伝子を残すために必要な行動を促す、
本来は有益な神経伝達物質なのです。
しかし、これは依存症の原因物質でもあります。
覚醒剤を注射すると、ドーパミンの濃度が跳ね上がることが知られています。
それ故に覚醒剤は人に強い快感を与えます。
1998年にイギリスで行われた実験によると、
成人男性に50分間ゲームをプレイしてもらうと、ドーパミンの濃度が約2倍に上昇することが分かりました。
その上昇は覚醒剤(0.2mg/kg)の注射による上昇(2.3倍)に匹敵するものでした。
だからゲームは強い快を与え、子どもたちを惹きつけるのです。
ドーパミンがたくさん分泌されて強い快感が得られるのなら良いではないか、と思うかもしれませんが、
デジタル機器から得られる快は、覚醒剤同様に強い依存性があります。
著書の中でスマホやタブレットのことを、デジタルヘロインと表現する精神科医さえいました。
デジタル機器はそれくらい依存性が強い、ということです。
さて、人はなぜ依存性になるのでしょうか?
ある刺激に対して感受性が低くなることを脱感作と呼びます。
例えば濃い味の食べ物ばかり食べていると薄い味が分からなくなる、というのも脱感作です。
デジタル機器に触れてドーパミンが過剰分泌されると、ドーパミンに対する脱感作が起こります。
つまり、今までと同じ量のドーパミンでは快感をえられなくなってしまうということです。
結果として同じ強さの快を得るために、デジタル機器に触れる時間が長くなっていきます。
そしてデジタル機器に触れ続ければ触れ続けるほど、脱感作が起こり、さらにそれに触れる時間が延びる、
という負のループにはまり込んでしまうのです。
これが依存症の大まかな仕組みです。
デジタル機器は上記のようにドーパミンを過剰分泌させるため、依存症を引き起こす可能性が高いのです。
そうは言っても大人はデジタル機器依存になっていないじゃないか、
とおっしゃる方もおられるかもしれませんが、
子どもの脳と大人の脳を同じだと考えてはいけません。
何かをしたいけど、今は我慢しよう、という心の働きを衝動抑制と言います。
脳内でこの衝動抑制の働きを担っているのは、おでこの奥の部分、前頭前野と呼ばれる部分です。
人間の脳は後頭部から前頭部に向かって発達していくことが知られています。
つまり前頭前野と呼ばれる部分は、生まれてから大分後になってようやく発達が完了するのです。
どれくらい後かというと、大体20代半ばと言われています。
若いときは向こう見ずだったけれど、年齢とともに思慮深くなる、というのはこの脳の発達のためです。
大人の脳は衝動を抑制するブレーキが備わっているため、依存物に対して抗うことができますが、
子どもの脳はそのブレーキがまだ未発達なため、大人の何倍も依存症に陥りやすいのです。
だから大人が大丈夫だからと言って、同じように子どもにデジタル機器を使わせてはいけないのです。
今まで見てきたのはデジタル機器の長期使用によるドーパミンの影響ですが、
ドーパミンは短期的にも子どもの脳に影響を与えます。
前回の記事で子どもがゲーム後にイライラしていると話されていた親御さんのことをご紹介しました。
ドーパミン濃度はデジタル機器に触れ始めると急上昇し、そこから離れると急降下するのですが、
このドーパミンの乱高下が例えばイライラしたり、無気力になったり、急に泣き出したり、
という情緒不安定を引き起こします。
今日の内容をまとめると、デジタル機器の過剰使用はドーパミンの分泌異常を引き起こし、
結果として情緒不安定や依存症に陥る、ということです。
繰り返しになりますが、子どもは大人より衝動を抑える力が弱いため、依存症に対して非常に脆弱な存在です。
だから決して大人と同じようにデジタル機器に触れさせてはいけないのです。
次回は、デジタル機器の過剰使用と精神疾患について書かせて頂きます。