ぼくの愛しのパンプキンちゃんへ
この疑問は、ぼくの頭の中で長い間グルグルと回っていた。
事の次第はこうだ。
以前勤めていた会社で、
最も仲の良かった同期の人から連絡があったんだ。
その人は女性で、1つ上の年齢だった。
ぼくはその人のことが大好きだった。
ぼくにとって初めての同期だったし、
ベトナム戦争みたいな日常を共に生きて、
愚痴り、お互いにライバルとして切磋琢磨してたから。
本当に、同僚という壁を超えて、
良い友達になっていたんだ。
**
でも、その良い関係だからこそ、
彼女はぼくに大いなる疑問を残した。
彼女は、ぼくが辞める時、一切連絡をくれなかったんだ。
集中砲火を浴びるぼくを尻目に、
日常の業務だけにいそしんだ。
ぼくはそれが不自然でならなかったんだ。
彼女は、上司から他人との連絡禁止の指示が降りても、
深夜に電話をくれたりする人だった。
無論、ぼくもそうだった。彼女がこっぴどく叱られているときは、
気にしない方が良いですよってフォローを入れてた。
ぼくたちは戦友だった。少なくともぼくは、
何の疑いもなくそう信じてた。
なのに彼女は、ぼくが追い込まれて、
傷だらけになっているにもかかわらず、
メールのひとつもくれなかったんだ。
あの時は、本当に人間不信になった。
**
彼女が結婚したことを聞いたのは、
ぼくが退職して半年がたったころだった。
5年付き合っていて、同棲している彼氏と結婚。
結婚式もあげたらしい。
その知らせを聞いたとき、
ぼくはショックだったよ。
本来、ぼくは結婚式が大嫌いなんだ。
つまらないし、参加者として全然楽しくないしさ。
その割に見栄で多額の現金を渡したくなる。
できることなら参加したくないし、自分でも開きたくないと思ってる。
でも、でもさ、彼女の式は別だった。
社会人として、きっちり参加したかったよ。
金も包んで、スーツビシッと来てさ。
ケチなぼくですら、
仲間として義理を果たしたいって思える
唯一の女友達だった。
にもかかわらず、
結婚の知らせを人づてに聞かされたんだ。
これはショックだった。
結局、恐怖政治の上では
戦友とは脆いものだと、
男女の友達なんて、
結局は存在しねーじゃねーかと。
いや、そんな浅いレベルじゃなくて、
ぼくはもう心底がっくりきてた。
ぼくの前の会社での経験は、
何一つ、意味のないものだったんだと思っていたんだ。
**
でも、ついさっき、事件が起こった。
彼女から電話が来たんだ。
携帯を変えていたから、番号しか表示されない。
最初はだれからかかってきたかわからなかった。
相手がだれかわからないのに
電話に出るっていうのって、大っ嫌いなんだよ。
怖いじゃん(笑)
まえのベトナム戦争の件かもしれないし、
つい最近、ぼくときみのデートをブチ壊した
サイコな深夜徘徊野郎との件かもしれないし。
(ちなみに、↑はもう解決したのでOKなんだが。)
「はい、もしもし」
「あ、もしもし。○くんひさしぶり」
声で分かった。一発で分かったね。
「その声は、×さんですか?」
「うん。そう。」
「ちょっとまって、どうしてぼくに今電話を? 正直いって怖いです。誰かの指示ですか? 会社が関係しているのですか?」
「それは、私がこれから話す内容で判断して。」
「え? …というと?」
「○くん。今まで連絡しなくてごめん。私が今日連絡したのは、あの会社を潰すことにしたからなんだ」
**
話を聞いて、衝撃が走ったね。
まず、潰すことにしたっていう部分。
これはごく一般的な社会人の口から出る
選択肢じゃない。それはきみもわかるだろう?
それから2時間ぐらい喋った。
いろんな話をした。
彼女の「選択肢」の詳細(というか、
それを選択した上での事後報告だったが)。
これまでの思い出話。まぁ、いろんなことを話した。
その中でもぼくの心に響いたのは、
ぼくを追いこんだ階級上位者の5人のうち、
3人はぼくに申し訳ないという気持ちを持っていること。
その3人が言うには、
ぼくが最も優秀だったということ。
そして、ぼくがとった行動の100%の正当性。
(正しい事をしたのはぼくだけだったということ)
いつかタイミングさえあれば、
ぼくと一緒に仕事がしたいということ。
この心意気は、本当にうれしかった。
※でも、これについては、可能性は0だな。
ぼくはもう都会に戻って働くことはない。きみと田舎で生活したいし。
**
すっかり話しこんでしまった。
話し終わって思った。
彼女は、ずっとタイミングを待っていたんだ。
そして、ぼくに連絡してこなかったのも、
ぼくに気を遣ってくれていたんだ。
でも、もうそんなことどうでもいい。
良い友達が戻ってきてくれた。
それが嬉しい。ただただ嬉しいんだ。
さて、正義は勝つんだろうか。
これはわからない。
そもそも正義っていうものが、
まるでさいころみたいな形をしていて、
見る人の立場によって顔を変えるからだ。
彼女がとった選択肢で、会社がつぶれることはないだろう。
鼻っ柱に思いっきり右ストレートを
ぶちかましたのは間違いないが。
ただ、それで10カウントを待つのかというと、
多分そうはいかないだろうな。
規模を縮小したりして、なんやらするだろうな。
でも、友情は勝つっていうことは分かった。
だから、もうそれでいいんだ。
ぼくがあの戦地を離れてから、
5人の人がぼくに連絡をくれた。
「○くんは間違っていない」
「○くんは優秀だった」
そういってくれた。それは、
ぼくとかれらが信頼関係をもっていたからだ。
友情があったからなんだ。
**
ぼくは、この1年間で、大きな勘違いをしていた。
人は、奪うか奪われるかじゃないんだ。
その前提で人付き合いをすれば、
打算的で、合理的で、面白みがない関係しかつくれない。
心から信用することができない。
ダメなんだ。そんな考え方じゃ。そんなじゃダメなんだ。
人は分かち合うんだ。
嬉しいとか、楽しいとか、そういうハッピーな気持ちを。
もっと上に行ける、もっと質をあげられる。
そういう境地をともに目指していくんだ。
だから、楽しいんだな。
ぼくは、自分自身の中にもう1人別の自分を作って、
それを演じていたように思うよ。
そのペルソナによって、自分が傷つくのを避けていた。
恐れていたんだ。
本心でぶつかりあえば、自分にダメージがでかいから、
それを避けていたんだ。
自分を出すことに、痛みを抱えていたんだ。
でもさ、そんなんで
友達できるわけねーじゃん!
友達がいない、孤独な人生なんて、
味のないスープしかない食卓と一緒だ。
満腹感は手に入るが、幸福になれないじゃないか。
ぼくは、これから少しずつ、人付き合いを増やしていくつもりだ。
軌道に乗るまでに、数年間かかるかもしれないが、
一生付き合えるような仲間を作っていく。
ケチでしょうがないぼくが、
結婚式に行きたくなるような仲間をね。
今日は一段レベルが上がった気がするよ。
ぼくはどんどん魅力的になって、
きみに朝から晩まで愛を語らなければならないんだ。
愛を込めて。