こんにちは、大井です。

 

先日お話しした「女性史」夏期特別補講の目玉企画

 

女性史受講者52名が選ぶミュージカル「エリザベート」ベストソング

 

 

いよいよベスト3を発表したいと思います。

 

 

まずは前回と同じようにこの曲に投票した学生のコメントからどうぞ。

 

 

この第3位は私にとっては意外な結果でした。

まだ20歳前後の学生たちが、44年も連れ添った老夫婦の心境を受け止めることができるのか!この曲を1番に挙げる人がこんなにたくさんいるのか!と少々驚いた次第です。

何とも切なくて物悲しい曲ですが心に響くものがあるのでしょうね。

 

 

 

「夜のボート」は後半第2幕最後の方に登場する皇帝フランツ・ヨーゼフ1世と皇妃エリザベートのデュエット曲です。

 

 

 

曲のなかで「夜の海に浮かぶ2隻のボートのような私たち」と歌われています。これはどういうことでしょうか?

歌詞を読めば何となく皇帝夫婦がすれ違っている様子を理解することはできますが、やはりこのミュージカルを最初から通して観てみると、この歌に込められた真の意味に気づくでしょう。

つまり、この2隻のボートはすれ違ってしまったのではなく、最初から目的地も進む方向も違っていたのです。

いや、本来は同じ一つのボートに乗らなければならない夫婦が、2隻のボートに分乗してしまっていること自体に問題があったのかもしれません。

「一度私の目で見てくれたなら・・・」とお互いに嘆いていますが、違うボートに乗ってしまっている以上は同じ目線に立つことはできません・・・。

 

 

 

 

実はさかのぼること前半第1幕の結婚の場面。そこでは2人が最初から別々のボートに乗り込んでしまっていた事実が暗示されていました。

「あなたが側にいれば」という曲です。そのメロディーは「夜のボート」と同じなのですが、曲のトーンと歌詞、そして二人の表情が明らかに違います。

 

 

同じメロディーでも歌の雰囲気や歌詞は真逆ですね。

いや「あなたが側にいれば」にも、二人のその後のすれ違いを暗示する歌詞が実は入っています。そのためこの曲と「夜のボート」は時空を超えて一続きの曲であったと見ることもできます。

 

何よりも「あなたが側にいれば」のすぐ後の場面に、つまり結婚式のシーンに「♪不幸の始まり」「♪結婚の失敗」「♪最後のダンス」の3曲が続くことにすべてが表されていますね。

そこからは、幸せの絶頂にいながら何か最初から雲行きが怪しい様子が見て取れます。

 

 

 

 

みなさんには二人の結婚式(ロイヤル・ウェディング)に忍び込んだ黄泉の帝王トート閣下の姿が見えるでしょうか?

よーく目を凝らして見てみてください。

 

 

 

 

 

 

 

なお当時の記録では、結婚式のとき(その前後の数日も含め)エリザベートはひどく情緒不安定に陥り、急に泣き出したりせき込んだり、パニックで別室に引っ込んでしまったりしていたそうです。

 

 

それもそのはずですね。バイエルンの田舎で自由奔放にのびのびと過ごし、動物や植物に囲まれて過ごした純真無垢な16歳の少女が、ある日突然、大帝国の皇妃になるわけですから!

環境の違いが大きすぎますし、人々の期待と歓迎も大きすぎました。

※帝都ウィーンの熱烈な歓迎ぶりに関しては本年1月に発表した拙稿(『清泉女子大学紀要』所収)をご参照ください。

 

というわけで第3位は「夜のボート」(6票)でした。
 
 
 

この写真はエリザベートが亡くなる年に夫婦が旅先で散歩している様子を写したものです。

エリザベートは写真嫌いで有名ですのでおそらくは隠し撮りでしょう。

生前最後に撮られた夫婦2人の貴重なツーショット写真になります。

 

なお、2人が晩年やりとりしていた手紙を読むと、決して夫婦仲が悪いというわけではなかったように見受けられます。手紙を送る頻度も「仮面夫婦」とは思えないほど頻繁で相手を思いやった心温まる内容です(特に皇帝から皇妃宛の発送頻度や内容はかなりのものです)。しかし一緒の時間を過ごすのは1年のうちわずかだけ・・・。

 

おそらくこの夫婦は、我々常人には測り知れない何か特別で不思議な関係で結ばれていたのかもしれません。

 

(皇帝から皇妃に送られた書簡を収録した史料集。先日大金をはたいて購入しました)

 

先ほどの散歩中の写真ですが、あのとき2人はいったいどのような会話をしていたのでしょうね。もしかしたら「夜のボート」の核心を読み解くヒントがそこには潜んでいるかもしれません。

もちろん会話の内容について我々は知る由もありません。ただ、こうしていろいろと想像をかき立てられることこそ、史実とフィクションが混じったミュージカル「エリザベート」が放つ歴史音楽劇の魅力でしょう。

 

それではいよいよ学生たちが選んだベストソング第2位と第1位の発表です!

 

つづく