映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。
▼『映画を語れてと言われても』
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第一六一回『“映画大好きポンポさん”と映画大好きな愉快な仲間たち』
『映画大好きポンポさん』
2021年公開
監督・脚本:平尾隆之
原作:杉谷庄吾【人間プラモ】
キャラクターデザイン:足立慎吾
音楽:松隈ケンタ
声の出演:清水尋也 小原好美 大谷凜香 加隈亜衣 大塚明夫
(※本文章には、本作中盤以降のネタバレが含まれております)
あらすじ
ここは映画の都〈ニャリウッド〉‥‥‥。
そこでは明日の映画スターや映画監督を夢見る若者が、日々夢に向かって努力し、あるいはもがいていた。
そんなニャリウッドにある映画制作スタジオ〈ペーターゼン・フィルム〉では、若くして名映画プロデューサーの祖父の後を継いだ敏腕映画プロデューサーの少女、ポンポさん(声:小原好美)ことジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネットのプロデュースの元、次々と新たな映画が世に送り出されていた。
そんなポンポさんのアシスタントとして、彼女のおやつの用意からスケジュール管理、撮られる映画に関するあらゆる雑用をこなしてきた映画監督志望の青年ジーン(声:清水尋也)は、ある日突然、彼女がプロデュースしたB級モンスターパニック映画の予告編の編集を任される。
そしてこれまでの知見の全てを駆使して編集した予告編は見事採用となり、ジーンは次なる仕事として、なんとポンポさんが脚本を執筆し、ニャリウッド屈指の名優マーティン・ブラドック(声:大塚明夫)主演の新作映画『MEISTER』の監督に抜擢されるのであった。
その一方で、女優の卵としてバイトの日々を送っていたナタリー(声:大谷凜香)は、ポンポさんが審査を行っていたオーディションに出たところで彼女の目に留まり、件のポンポさんプロデュース映画『MEISTER』のヒロイン役に抜擢される。
かくして超新人監督と新人ヒロインで撮られることとなった新作映画『MEISTER』。
極めて優秀だがその高慢さ故に業界を追放され、逃避の末にスイスへとたどり着いた壮年のオーケストラの指揮者〈マイスター〉は、そこで出会った少女との日々を切っ掛けに、やがて再起を目指すようになる。
その物語を撮影し映画とするため東奔西走するジーンとナタリーとポンポさん達スタッフ・キャスト陣。
しかし、理想の映画‥‥‥面白い映画‥‥‥成功する映画を世に送り出すのは、想像を超えた困難が待ち構えていた。
はたして無事映画『MEISTER』は無事完成し、苦労に見合った評価を得ることは出来るのであろうか!?
さて今回はアニメ映画回!
それもコロナ禍の真っただ中2021年に公開され、あまり有名では無いかもしれませんが、見た人には高評価を得た隠れた名作アニメ映画です。
原作は杉谷庄吾【人間プラモ】の同名マンガ。
元は一話5分ほどのショートTVアニメとして企画された作品ですが、そのアニメ企画が頓挫したためマンガとして世に送り出したところ好評を得て、こうして劇場用長編アニメ作品となったそうで、人の人生が数奇であるように、作品の運命もまた不思議なものです。
監督および脚本は平尾隆之と言う人。
アニメの制作進行からキャリアをスタートさせ、何故か演出、画コンテ、原画、脚本も担当するようになり、結果監督になってしまったお人だそうです。
本作以前には『空の境界』『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』の監督を務めています。
さらにキャラクターデザインは足立慎吾という人。
『WORKING!!』や『ソードアート・オンライン』のキャラクターデザインと原画で有名な人です。
声の出演は、事実上の主役たるジーン役に若手俳優の清水尋也。
『MEISTER』のヒロインとしていきなり銀幕デビューする女優ナタリー役にモデルとしても活躍する若手女優の大谷 凜香。
さらにポンポさんに小原好美、名優マーティン・ブラドック役に大塚明夫などなど、実力派声優が揃えられております。
総じて本作のスタッフ・キャストは、今のアニメ業界の中でも、明日の業界を背負って立つ今後の活躍が期待できるメンツがバランスよく集められている気がします。
そんなメンツによって世に送り出された本作を、前述したように筆者はまだコロナ禍ただ中であった2021年に、その口コミでの評判から見に行き、実に心を満たされたのです。
確かに本作は誰もが名を知るメジャーな名作とは言えないかもしれませんが、ここで語るに値する良作ではあると思うのです。
それはまず劇場用アニメ映画ならではの潤沢な予算による美麗な作画アニメーションが素晴らしく、また声の出演陣の名演に、その理由があります。
あらすじでも書いたように、本作はいわゆる映画制作映画であり、アクションでもSFでもファンタジー映画でもありません。
ゆえに映像で描かれるのは、文章で言えばあまり“映え”の無い映画を作るスタッフ・キャストが撮影したり編集したりする姿がメインで映る作品と言えます。
しかしながら、本作は監督以下のスタッフの演出センスと作画力による映像美により、まったく飽きることなく物語に引き込まれてゆくのです。
例えばそれはシーンとシーンの間の場面転換の演出であったり、終盤でジーン監督が作中映画『MEISTER』の編集に思い悩む際の脳内イメージの映像化であったり、本作はそれらをアニメ作品だからできる表現で極めてキャラが良く動き、テンポ良く描かれることで、あらすじの内容からは想像できない程ハラハラドキドキと‥‥‥時にジ~ンとさせてくれるのです。
そして本作の最大の魅力は、その物語にあると思います。
本作は本コーナーで言えば『劇場版SHIROBAKO』や『カメラを止めるな!』に属する〈映画制作映画〉に属する作品です。
ただ本作の場合、扱っているのがハリウッド大作級の映画ではありますが、舞台をハリウッドそのものにすると、芋づる式に実際の地名から人名やらがわんさか出てきてしまい、色々めんどくさい問題になってしまう為、〈ニャリウッド〉という架空の街を舞台にすることで、以下全てのキャラ名諸々を架空にしてしまえることにしたのが、本作の原作のポイントなのではないでしょうか?
ポンポさんみたいな女子が大作映画のプロデューサーであっても、架空の街の架空の映画業界の話なら、なんか納得できてしまえそうですしね!
そして〈映画制作映画〉とは、筆者が勝手にそう呼んでいる映画のジャンルですが‥‥‥ようするに『映画そのものよりも映画作ってる人達のドラマの方が面白く、そっちを映画にした方が良いんでね?』といコンセプトで作られた作品のことです。
そういうことが思いつける程、映画制作の現場はしっちゃかめっちゃかで色々なことが起きるのです。
それは自主映画(※第一〇〇回『自主映画製作を止めるな!“座頭の死五六 -怒りの硝煙街道-”』参照
映画作りの現場では起こり得ることは望む望まないに関わらず起こる時は起こるし、たとえつつがなく予定通りの完成にこぎつけたとしても、それは出来上がった作品の好評価を保証するものでは無いのです。
‥‥‥では映画作りの現場で、スタッフ・キャストは如何に行動し映画を良くしようとするのか?
それは‥‥‥思いついたことでできることは何でもやってみるのです!
人間、最初から最適解を導き出せたら苦労しやしません。
完璧な脚本など存在せず、時間経過と共に新たな閃きが、実際に撮影してみたり、ロケ地に着いた瞬間に降って湧いたりするのです。
本作で筆者が気に入っているシーンは、名優マーティン・ブラドックが、初監督に緊張しているジーンに対し『監督は君だ。思った通りにやると良い。だが映画は皆で作るものだから、アイディアがあったら言わせてもらうよ?』と自ら声をかけ、スタッフにもそう呼びかける件です。
至極当たり前の話ですが、いかに名監督が名脚本家の書いたシナリオ通りに映画を撮ろうとしても、監督は頭脳ふくめて一人分のマンパワーしかもっていません。
多少のセンスや経験値により、他より優れた判断力やら技術を持っていたとしても、それは一人分の人間が成しうる範囲を大きく超えることはりません。
ですから、映画は一人で作ることはできず、多くの人間の知見を寄せ集めて作られるべきなのです。
しかし最終決定権は監督にあることも忘れてはなりません。
決定権ある人がいなければ話がまとまりませんし、それを行うポジションこそが“監督”なのです。
筆者は本文章の執筆にあたって本作を見返した際に、本コーナーで紹介した某映画のドキュメンタリー番組を思い出したものです。
その映画製作ドキュメンタリーの中で、その監督はスタッフ・キャストからあらゆるアイディアを募り、実際にやってみせて、撮影もしますが、編集段階でその多くは不採用となり、それがドキュメンタリー番組の視聴者によって叩かれる事象がありました。
案を出さない監督の代わりにスタッフ・キャストが苦労したのに可哀そう‥‥‥と。
確かに、監督なのに自分のイメージで映画を撮らず、スタッフ・キャストにまでアイディアを募るのは一見不可思議に思えます。
しかし同時に思うのです。
なにもかも監督がイメージしていて、全てが監督の思った通りに作られる映画にスタッフ・キャストとして参加して楽しいのか? 良いものが作れるのか? と。
自分が映画にスタッフ・キャストとして関わる立場だったならば、自分の担当するセクションについて自分なりの意見を持つだろうし、それが映画を良くするのなら採用して欲しいと願うはずです。
ドキュメンタリー番組での某監督に、スタッフ・キャストは自分の思いつきをトライする機会を与えてもらえただけでもありがたいことではなかったのではないでしょうか?
しかしながら、そのスタッフ・キャストから募った意見やアイディアが、完成本編では使われないことがよくあることも分かります。
映画はスタッフ・キャストの満足の為に作られるわけではなく、映画は完成して見た人を満足(そして儲け)させる為に作られるのです。
その優先順位が覆ったらロクなことになりません。
この『映画大好きポンポさん』の終盤では、まさにその本編では採用されるされなかった問題にフォーカスされるのが見どころだと思うのです。
本作の終盤は、監督初挑戦のジーンが、映画『MEISTER』を完成させる為に、いかな苦渋の決断を下すのかがクライマックスとなるのです。
はたして、ジーン監督はいかな答えにたどりつくのか? 本作未見の方はどうかその目でご確認下さい。
さてここでいつものトリビア。
本作の原作マンガでは、主要キャラ全員に好きな映画三本が設定されています。
ポンポさんの場合は『セッション』『デス・プルーフ』『フランケン・ウィニー』!!!
お‥‥‥おう!!
‥‥‥ってなわけで『映画大好きポンポさん』もし未見でしたらオススメですぜ!!