台湾総統就任式に参加してきました。その1 | 井上政典のブログ

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 19日から昨日まで台湾に行ってきました。新総統就任式に出席と高雄の保安堂で旧友と地元の人たちに会うためです。

 

 19日は10時20分に福岡組28人は集合し、エバー航空で一路台北桃園空港に向かいました。機種は最新式の飛行機で、オンデマンドで映画を観ることができる優れモノでした。でも、中華航空に比べて座席の感感がちょっと狭かったかなと思います。今まではずっと中華航空だったのですが、今回は高雄から帰国するのでエバー航空に乗ったのです。

 

 順調にフライトして桃園空港に到着しました。入国もすべてが自動対応になっているのでとても早く終わりました。こんなに早く出たのは初めてではなかったでしょうか。

 

 迷子も出なかったのが早く入国した理由の一つです。

 

 早速バスで総督府の付近のビルに向かいました。産経新聞の矢板明夫台北支局長が頼清徳新総統の伝記を日本語訳した本の出版記念シンポジウムに出席するためです。

 

 16時から始まるのですが、とても都合の良い時間でした。それもそのはず私たちのメンバーの一人である門田隆将氏がパネラーの一人で、私と何時からなら大丈夫かを聞かれていたのです。200席ほどの会場は満席であり、シンポジウムは日本語と中国語で運営されました。

 

 

 

 著者の周さんと門田隆将氏、そして元防衛副大臣の中山泰秀氏そして矢板さんが通訳兼司会でした。

 

 矢板さんの凄いのは、中山氏が結構長くしゃべってもほぼ完ぺきに中国語に訳せることです。以前は私も英語の通訳をしていたこともあるのですが、長いと全部覚えられなくて訳が止まってしまうことが度々あったのでその難しさがわかるのです。

 

 門田隆将氏は私たちが21日に行く台南市で英雄として祭られている湯徳章氏のことについて長々としゃべり、矢板さんの要求した時間を大幅に超えて顰蹙を買っていました。

 

 でも、2.28事件で処刑された日本人をルーツに持つ湯徳章を表に出し、湯徳章平和記念公園を作ったのは今回新総統になる頼清徳氏が台南市長時代なのです。

 

 だから私たちも行き、さらに課題図書としてあげていたのですが、皆さんがちゃんと読んでいないかもしれないと私たちのためにあえてその話をしたと言われていました。

 

 2.28事件とは戦後台湾に逃げてきた国民党から自由を奪われた台湾人たちが台北でのいざこざを発端に台湾全土に広がった反政府抗議活動をする若者たちを諫め、自分ひとり犠牲になればいいだろうと台南市のすべての若者学生の首謀者の名前をどんなに拷問されても言わなかったのです。

 

 そして処刑されたところが湯徳章記念公園となっているのです。

 

 頼清徳総統の話に戻すと少年のころお父さんがなくなり、極貧の中で小さい兄弟を助けながら勉強し、医師になったのですが、この話は選挙の時には一切言わず、政策だけで新総統に選ばれました。

 

 でも、そのバックグランドをこのシンポジウムで知ることができ、翌日の就任式のスピーチが聞けてとてもよかったと思っています。

 

 それは力強さもあるのですが、何か温かさも兼ね備えているのです。頭の良さだけの蔡英文前総統とはまた一味違ったスピーチでした。

 

 会場から二人だけ質問が許されたので、私がすくっと手を挙げ、原子力政策のことを著者の周先生に聞いたのですが、この話は台湾のエネルギー安全保障問題を語るときに詳しく書きたいと思います。

 

 そして会が終わるとバスに乗り込み、台湾の有名な観光地九份に向かいました。大体一時間ほどで着きました。私はすでに10回ほど台湾に行っていますが、ほとんど観光地らしいところは行っておらず、九份も初めてでした。

 

 外を眺めていると「黄金山城」という文字が目につきます。ガイドさんがここは昔金山があり、その反対側に食事をしたり遊んだりする場所が現在観光地になっているところだと教えてくれました

 

 狭い階段を上り続け、やっと食事するレストランにつきましたが、また普段では出てこないような郷土料理が出てきました。台湾料理はどれも日本人の口に合うのでとてもおいしいのですが、やはりこういうところは気の置けない仲間と共にワイワイと一緒に食事する方が百倍楽しいと思います。

 

 ちょうどその時間には迎賓館で外務大臣主催のレセプションが開催されていたので、「福岡台援隊 新総統就任慶祝訪問団」の団長の西川京子先生とエルドリッヂ博士は代表してそちらに参加してもらいました。

 

 私と門田隆将氏も招待されていたのですが、他の人がいるのに私たちが抜けられないと断腸の思いでお断りしたのです。でも、やはり正解でした。皆と食べる食事のおいしいこと。豚や鳥が中心でしたが、おいしくお腹いっぱいに食べ、久しぶりに会った明治生命時代の先輩のS氏と話が弾み、他の人たちとも楽しく会話を交わし、台湾の一日目を終えました。

 

 ホテルにチェックインしたのは10時過ぎで、おとなしく寝ました。

 

 ホテルも5つ星のホテルに泊まっていたので、朝食がとても楽しみでした。ブッフェはまずは一周してチェックしないと全部が食べきれないくらいの料理が並んでおり、昨晩あれだけ食べたのに、またお腹いっぱい食べることができたのも、野菜や薬膳効果のある薬味のなせる業でしょうか。

 

 総統就任式は9時からですが、ゆっくりと遅めに出発しました。それは舞踊や歌が続くのですが、屋外で開催されるために暑いのです。わたしより高齢の方も多いので、あえて遅く出発しました。すると初参加のM氏が、トイレに携帯を忘れたと叫ぶのです。就任式の後は台南に行く予定なので、ホテルは既にチェックアウトしています。

 

 そこで総幹事である私の決断と行動は、

 

 1.バスをユーターンさせて携帯をとりに行きました。既にチェックアウトしてここにはもう戻らないからです。

 

 2.このことを全員に伝えました。

 

 「M氏がどんくさくもトイレに携帯を忘れたので取りに戻ります。」とマイクを使って言ったのです。M氏は大きな声で「みなさん、ご迷惑おかけして申し訳ありません」というと、全員笑いながら茶化してくれました。

 

 その後の三日間、M氏が出発の度に「携帯ある?」と皆に言われたのはご想像通りです。

 

 下手に隠すよりも失敗を笑いに変えたほうが皆の心も、本人も楽になるものです。

 

 会場に到着すると結構離れた場所にバスを止めて、ゲートから入っていきます。もちろんパスを持っていないと入れません。

 

 さらに行くと手荷物検査場があり、最近はおなじみになった金属探知機を通り、そこから席に誘導してもらいます。

 

 すると自分がもらったパスを見るとVIPと書かれています。

 

 案内の人がどんどん私たちを前へ前へを連れて行ってくれました。

 

 

 

 赤い丸で囲った場所に私たちを連れて行ってくれました。まさしくVIP席ですぐ前にSPが立っていました。

 

 11時から頼清徳総統の演説が始まりました。

 

 なんと力強い、心に響くスピーチでしょう。

 

 実は私は2016年の蔡英文総統の就任式に来たことがあり、その時の蔡英文総統の頭が非常に良いだけのスピーチにはあまり感動しませんでした。

 

 しかし、頼総統の声には台湾を民主主義の国際基準にするんだという確固たる決意と台湾の国民を慈しむ温かさを感じたのです。係の人が直前に日本語の翻訳文を配ってくれたので、演説を聴きながら翻訳文を読んでいました。

 

 私が得に感動したのは;

 

「台湾にアイデンティティを持っている限り、すべての人々がこの国の主人です。中華民国、中華民国台湾、あるいは台湾のいずれであっても、これらは私たち、または国際的な友人が私たちの国を呼ぶ名前であり、それらはすべて同じ響きを持っています。お互いを分け隔てることなく、一致団結して世界へ邁進しましょう!」

 

 という部分でした。

 

 臺灣国内にも親中派や独立派などが混在します。しかし祖国に殉ずる気持ちがあれば皆が台湾の主人であり、それを守るのが自分であると高らかに宣言しているのです。そして国際的な友人が台湾を呼ぶ声は同じ響きだというところが憎いではありませんか。

 

 つまりこれはCHINAに言質を取られずに台湾国民及び全世界に向けて台湾は一つの国家であると宣言しているのに等しいと思うからです。

 

 国家の長として国民のために働くという決意がひしひしと伝わってきました。

 

 ちょっとうらやましくも思いました。

 

 今の岸田総理にこんな言葉がはけるでしょうか?そしてその言葉がずしんと胸に届くでしょうか?

 

 そんな思いで30分超の演説を聞いた5月20日の新総統就任式でした。

 

                           続く