心底を察する | 歴史エッセイ集「今昔玉手箱」

歴史エッセイ集「今昔玉手箱」

本格的歴史エンターテイメント・エッセイ集。深くて渋い歴史的エピソード満載!! 意外性のショットガン!!

時は元禄15(1702)年10月。京・山科の屋敷を引き
払った大石内蔵助は、一路江戸を目指して出立した。道中
日野家用人「柿見五郎兵衛」を名乗ったが、吉原宿で偶然
にも柿見本人と同宿する事になってしまった。

「我が名を語る偽者、許すまじ」

血相を変えて柿見は、大石の部屋へ押しかけた。大石は
柿見に「柿見五郎兵衛」と名乗った。

「それがしも柿見と申す。貴殿が柿見と申されるならば、
道中手形を持参しておられよう」

と、勧進帳で安宅の関守・富樫が弁慶に勧進帳を披露せよ
と迫るが如くに言った。富樫・弁慶丁丁発止のやりとりの
後、富樫は義経主従と知りつつ、関を通してやる。

大石は風呂敷を開き、文箱の中に
あった白紙の手形を差し出した。本物の柿見が白紙の手形
を見て驚き、大石の顔を見つめる。そしてふと、文箱の表
に描かれた家紋に目をとめた。

・・・丸に違い鷹の羽は播州・浅野家の家紋・・・すると
目の前の御仁は、筆頭家老の大石内蔵助・・・

柿見は本名と旅の目的を語れぬ大石の心底を察し、「この
うえは心おきなく、このたびの御用お果たしなされよ。陰
ながらお祈り申しあげる」と、本物の道中手形を置いて
去ってゆくのだった。

忠臣蔵にせよ、勧進帳にせよ、日本人は語れぬ心底を
「察する」話が好きなんだろうねぇ。

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