①日本の金融政策は不誠実な目的のために行われている

 

 普通の国の金融政策において、金融緩和が実施されるのならば、日銀が金融機関から国債を引き受けた代金として貨幣が金融機関に供給され、マネタリーベースが増加し、(間接金融がまともなら)信用創造が起こり、中小企業融資がさかんになりますから、民間労働者すなわち低所得者や貧困層の保有する貨幣M1が増え、経済成長します。

 しかし、日本では、バブル崩壊後の失われた32年間の最初の22年間は金融緩和が行われませんでした。

 したがって、金融機関は中小企業金融をほとんど行わずに、その代わりに何をしたかというと、国債をはじめとする投資信託で生き延びて来ました。ゆえに、信用創造は抑制され、マネーストックは財政赤字分しか増えず、GDPと消費者物価指数は増えていません。

 その後の、安倍内閣の2012年、2013年から始まる「異次元の金融緩和」という大規模な金融緩和は、中小企業のためのものではなく、すなわち、1994年から始まる地価下落政策(担保価値の下落政策)と、1992年から始まるBIS規制によって間接金融がほとんど機能しなくなったことを見極めた上での、不誠実な金融緩和であり、それは大企業の輸出を有利にするための円安誘導のために行われたものです。

 間接金融がほとんど機能しなくなっている様子は次のとおりです。

 金融機関は、民間の保有する貨幣の預金を受けて低い預金利息を付けてやって、預金を中小企業などに又貸しして高い融資利息を稼ぐビジネスですが、預金運用先として、国債で利子収入が得られるのならば、不況期にわざわざリスクの高い中小企業金融を行う必要はありません。

 金融機関としては、国債で運用るほうが楽だし確実だからです。

 日本は、小泉政権のときに郵政民営化を行い、郵便局だけでなく、どこの金融機関も大量の国債を買えるようになり、国債だけでも十分な収入にありつけるようになりましたから、金融機関は黙って政府の間接金融のほとんど妨害と言えるほどの抑圧的な政策に従ったのです

 つまり、政府は、金融機関を味方に付けることで、中小企業金融をサボタージュすることに成功したのです

 財政政策面の低所得者の冷遇と、この金融緊縮による中小企業への妨害政策が、日本の最初の失われた22年間でした。

 この22年間にも、日本政府は手を緩めることなく、固定資産税のさらなる重税化やBIS規制の強化で間接金融を破壊し続け、22年間で破壊の成果が顕著になると、自民党政府は、あたかも失われた22年間を取り戻す芝居をするかのように、「異次元の金融緩和」というパフォーマンスを始めたのです

 このような不誠実な政府を持つ国民は不幸です。

 振り返って見れば、2003年から2008年までの福井総裁の時代はかなり金融緩和をしていたのに、それでもGDPは増大しませんでした。このときは、経済学者などからは、金融緩和が少なすぎたためにGDPの増大が起こらなかったという意見が多く出ましたが、見当違いな批判であったというべきでしょう。

 2013年から黒田総裁になって、異次元の金融緩和を宣言し、積極的な金融緩和が続けられましたが、このとき、すでに、金融緩和をしても、金融機関が融資を拡大できない体制は出来上がっていました。

 もはや、日本は、間接金融の息は絶え、金融政策をいくらやっても、活発な融資(信用創造)は起こりようもなく、GDP増えないように、経済は体制的な変化していたのです。

 大規模な金融緩和すらも、日本においてはもはや景気回復の役に立たなくなったのに、なぜ、それでも、大規模な金融緩和を行ったかというと、貿易における価格競争力のために円安にする必要が出てきたからです。

 2001年からのデフレ政策によって、輸出原価の抑制によって価格競争力が強くなり、日本の大企業は、日本国内がデフレ不況に苦しんでいるにも関わらず、空前の利益を上げて来ました。

 ところが、日本の輸出企業はデフレによる輸出原価の抑制だけでは、国際競争力を維持出来なくなりました。輸出高は2011年、2012年と減少しており、日本の輸出企業は政府に対してさらなるテコ入れを要求したのです。そのテコ入れが大規模な金融緩和による円安です。

 それは、インフレなき円安というアクロバットのような要求です。日本政府は奇跡のような技を使い、その通りのことをやってのけました。

 日本政府は2001年から続く小泉政権の新自由主義政策で、『現代は自分の力で競争を勝ち抜かなければならない時代なので補助金や規制を排除し、弱い企業を潰し、それでも勝ち残れる企業だけ生きていける時代である』とヨタ話をしながら、内需企業や労働者を守る諸制度はみんなボロボロに破壊して来たくせに、経団連(大企業団体)やその株主に対しては、税制、補助金、金融などの大サービスをしたのです。

 もはや、日本政府は、経団連(大企業団体)からの要求はすべて通る体質になっています。

 金融緩和で金融機関に引き渡された貨幣は、信用創造に回ることはなく、円キャリートレードで運用されました。

 円キャリートレードとは、金融緩和で金利の安い円建て資金を借りて、それを外貨と交換し、外国債その他の資産を買い入れ、投資することを言います。その投資家が日本人か外国人かは問いません。

 円キャリートレードが出来るのは大企業だけです。なぜなら、政府は中産階級や中小企業を相手にしないからです。というよりも、中小企業は担保力の不足やBIS規制によるリスク資産の査定であらかじめ資格が剥奪されているからです。

 そのとき、円キャリートレードで外貨を買うことで短期的に円安になるという効果もありますが、何といっても、中長期的に円安にするのは、円が日本政府の外貨保有残高を減らすことなく、円通貨が財市場に供給されることによって起こるマネーストックの増加です。(外貨保有残高の増加はマネーストックの増加を意味し、外貨保有残高の減少はマネーストックの減少を意味します。)

 この場合、金融緩和で金融機関の増加したマネタリーベースをマネーストックにする方法、つまり、円通貨を財市場に供給する方法は、金融機関による大企業またはその株主への低金利融資、大企業の株の購入(外国では禁止されている)、または、日銀による大企業の株の購入(これも外国では禁止されている)です。

 こうしたことで、日本は、大規模な金融緩和によって、大企業およびその株主である国際金融資本と呼ばれるグループに巨大な資金を供給したのです。

 マネーストックの増加は、低所得者や貧困層に所得再分配されなくても、このような大企業やその株主、または外国政府の円通貨の保有高の増加によっても起こります。

 その場合、日本国内はインフレにもならず、経済成長にも繋がりません。

 まさに、アクロバット的なマネーストックの増加戦略であり、そして、それは、大企業やその株主のエコひいきというだけでなく、低所得者や貧困層にはお金を回さないで、インフレをアクロバット的にうまく回避したところの円安戦略なのです。

 日本政府はこのように、経団連のためならば、金融面において、百戦錬磨の外国政府さえも思いつかないような高等技術を披露するのです。

 対外純資産は貿易黒字(経常黒字)の現在までの累計ですが、対外資産は、融資による投資でも増加します。ただし、融資の分だけ対外負債も増えます。

 2012年以降、日本の対外資産および対外負債は共に激増していますが、これが円キャリートレードの結果です。対外資産が増えた分はキッチリ対外負債も増えています。

 日本においては、どのような金融政策も、もはや、円キャリートレードによって、マネーストックは国際投資家と富裕層だけが持つことになり、中小企業に回ることはありません。それによって、格差は拡大して行きます。

 ただし、住宅ローンだけは、国民の不満を抑えるための金融庁の特別の計らいにより拡大するかも知れませんが、住宅産業がわずかに潤うに留まります。

 日本では、金融政策が国民のために行われることはなくなりました。

 

 

発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング