②デフレ期乗数効果高くなる

 

 ケインズの乗数効果は、「乗数効果=1/(1‐c)」ですから、限界消費性向cが上がれば乗数効果は高くなり、限界消費性向cが下がれば乗数効果は低くなります。

 また、限界消費性向の増大によって乗数効果が高くなり、政府支出、企業投資、消費のいずれにおいてもGDP拡大効果が大きくなります。

 ケインズは、財政政策によって低所得者や貧困層への所得再分配政策を行えば、国全体の限界消費性向は上がり、低所得者や貧困層への課税を強化すれば、国全体の限界消費性向は下がると言っています。

 本ブログでは、前に、税金は強制貯蓄そのものであると言いました。ケインズは、消費と貯蓄の定義をするときに、消費されなかった残りが貯蓄であると言っていますから、この定義は正当です。

 税金を支払うときは、一旦、その分の消費は差し控えられ(貯蓄され)、その後、消費に使われることなく、消滅(納税)します。ゆえに、納税は貯蓄の一部から使用され、その貯蓄の一部の消滅は政府による強制です。

 ケインズは、納税以外のものについても貯蓄されたものが将来消費に使われるということは予想されないし、また、消費されると予想することも根拠がないと言っています。

 そしてまた将来の消費の増加は、所得の増加や、物価や金利の情勢の変化によって起こるのであって、貯蓄の増加に気分が良くなって起こるものではないとも言っています。

 貯蓄を消費に使われなかったものと定義すれば、何らかの理由で、消費を思いとどまったものもすべて貯蓄としなければなりません

 そうすると、税金は、強制的に消費を思いとどまらせるものであり、まさに、強制貯蓄そのものです。

 増税などの強制貯蓄(税金および社会保険料)の影響は低所得層、中間層、富裕層で異なります。

 低所得層は、すでに強制によって奪われた所得の残りを全て消費に使っていますから、間接的・精神的な理由からではなく、直接的・物理的に消費を減らします。

 中間層は自由意志で行っている貯蓄行為を減らすか、消費を減らすか、選択する余地を持っています。しかし、普通に考えて、節約の姿勢を採るものと思われます。

 富裕層もまた、貯蓄行為を減らすか、消費を減らすか、選択する余地を持っていますが、貯蓄行為を必要以上に行っているので、貯蓄の方を減らし、消費を減らすことはしないでしょう。

 このように、低所得者や中間層に対する増税は、間接的・精神的にではなく、直接的・物理的に限界消費性向を減らし、政府支出、新規投資、消費から起こる乗数効果を直接的・物理的に下げます。

 逆に、富裕層に対する増税は、富裕層の消費を減らすことはしないでしょう。

 このように、「所得=消費+貯蓄」という定義において、貯蓄の一部である「強制貯蓄」という用語が、自由意志によって行われる「貯蓄」と区別されて、政府からの強制によって行われる税金および社会保険料を表す余りにも適切な表現となってしまったからには、今後は、世界の経済学会では、「強制貯蓄」とは税金および社会保険料を指すものであるという解釈が主流となるでしょう。

 ただし、この場合、強制する者は民間の経済活動の必然や自然現象ではなく、政府であり人間そのものです。

 これは前にも言ったとおりです。

 ケインズは『雇用・利子および貨幣の一般理論』で、低所得者への減税や公共投資などの所得再分配政策を行い、国民の心理に変化が生まれることによって、限界消費性向も上がって行き、政府支出、企業投資、消費の乗数効果が上がって、景気は良くなると言っています。

 ケインズは、デフレ期には政府が債務を拡大して積極的な財政政策(低所得者や貧困層への所得再分配)を行わなければならならず、それは限界消費性向を上げるためであると言っています。

 また、ケインズは、デフレ期に財政政策が行われれば、国民は一時的に驚いて、当面はいろいろな反応を見せるだろうが、ただちに強気になって限界消費性向が上がるかも知れないし、当面は疑いをもって限界消費性向は上がらないかも知れない、しかし、財政の適切な運用が行われ、国民が政府の景気回復の意思を確信するようになると、限界消費性向は上昇ます。

 ただし、これらの躊躇は中間層以上に限られます。なぜなら、純所得を全て生活費に使っている貧困層は、いろいろな反応を見せる余裕を持たないからです。

 限界消費性向の上昇に伴って乗数効果も高くなります。

 つまり、デフレ不況期の真っ只中において限界消費性向が低いのは間違いありませんが、そのことによって、景気回復のための財政政策の乗数効果までもが低くなる、と考えるのは間違いです

 なぜなら、デフレ不況期当時の限界消費性向が低くても、政府が国民から信頼されるしっかりした財政政策や金融政策を施すならば、それによって限界消費性向が上がり、乗数効果も高くなるからです。

 しっかりした財政政策とは、低所得者や貧困層に対する減税、社会保険料の軽減または廃止、また、雇用政策としての公共投資などを言います。

 しっかりした金融政策とは、地価を下げるための建物固定資産税の廃止による土地資産の担保価値の回復金融機関には投資信託から手を引かせて中小企業融資に専念させるようにすること、そのためにBIS規制から離脱し、中小企業融資を金融機関の判断で決定できるようにすることなどを言います。

 デフレ不況期においては、政府が毅然とした姿勢を示すならば、限界消費性向が上がり、乗数効果は高くなり、政府が未熟な姿勢しか示さないのならば、限界消費性向が上がらず、したがって、乗数効果も上がりません。

 だから、政府が他人事のようにデフレ不況期における財政政策の乗数効果は低いなどと言うのは、まったく無能な体を晒していると言う外ないのです。

 モデル作成者たちは、乗数効果を妨害する要因があれば、妨害要因を個別に修正するよう提案すべきなのですが、大体のところは、モデルは現在制度の表現であって、現在制度の欠陥を議論することはモデルの役割ではないといった開き直った姿勢が多数を占めます。

 しかし、その欠陥を見つけ出し、修正する提案が出来てはじめてモデル化に価値が出てくるのであって、欠陥の存在にすら気付かないのでは無能というしかなく、したがって、ほとんどのマクロ計量モデルから現状を打破するアイデアを導き出すことは到底不可能であり、子供のオモチャのようになっているのです。

 


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