③中小企業経営者たちの永久劣後ローンという滑稽な夢

 

 今、日銀の大企業株引受を見ながら、中小企業経営者たちの間に滑稽な動きが広まっています。

 それは、中小企業経営者たちが、永久劣後ローンというものを政府に陳情していることです。

 劣後ローンとは、当の債務の返済について、他の債務の返済が終了するまで猶予されるというもので、さらに、永久劣後ローンとは、返済期限がなく、返済する余裕が出来たときに返済すれば良いという夢のようなローンです。

 言い換えれば、永久劣後ローンは資本参加的な融資ですが、あくまで債権に過ぎないので、経営方針や役員報酬の決め方について議決権がありません。

 日銀による一部上場企業株の保有は、債権ではなく所有権ではあるものの、日銀は議決権を行使しないので、事実上永久劣後ローンとなっています。

 それを見て、中小企業経営者たちは、自分たちも大企業と同じような待遇が得られるのではないかと、淡い期待を抱いたのです。

 中小企業経営者たちは、中小企業家団体を通じて当局に陳情するのですが、中小企業家団体というものは、中小企業の中でも成功者たちの集まりです。よって、プライドが高く、大企業と同じような意識を持つ傾向にあります。

 つまり、『競争に勝利した者が報われるのが当然であり、勝者の特権として格差拡大はむしろ歓迎する。』というように考えています。これは冗談ではなく、本気でそう考えています。

 中小企業のくせに、滑稽なことに、意識はまったく大企業の株主と同じなのです。

 だから、他の劣等な、赤字の中小企業ならいざ知らず、自分たちのような優秀な黒字の中小企業なら、大企業と同様の待遇も得られ、永久劣後ローンの仲間にも入れてくれるだろうと思っているのです。

 しかし、永久劣後ローンの発想は中小企業のために考え出されたものではなく、日銀が大企業株保有を解消するときに、金融機関が受け皿となるのですが、そのときにどういう形態で引き継がせるかのアイデアの一つとして出されたものであり、中小企業を相手にするという想定のものではありません。

 日銀が大企業株を金融機関に払い下げるときに、金融機関が企業株を保有することについては、いろいろ疑義が出ているので、永久劣後ローンだったら良いだろうというマンガのような話が出ているというだけのことです。

 現在、金融機関による一般企業株の保有については、金融機関の自己資本に相当する額を超える額を保有してはならないことになっています。

 一般企業株の信用度を考慮すれば、金融機関の自己資本比率の考え方で行くと(BIS規制参照)、企業株の保有は自己資本比率を確実に下げるはずで、実際に自己資本に相当する企業株を保有すれば、取得した企業株の査定は0円なので、自己資本をすべてはたき出すことになり、その金融機関の自己資本比率は0となってしまいます。

 そこで、特例として、あきれてものが言えないことに、金融庁は、一般企業株の保有は自己資本の計算の対象外とし、計算しないことにしてしまったのです。

 自己資本に相当する額を超える額を保有してはならないという但し書きを付けておけば、文句を言う者はいないだろうという心算です。

 しかし、これはおかしなことで、もし、本当に自己資本比率というものが、たとえばBISのようなある程度公平な者の監視下にあるのなら、一般企業株の信用度について何らかの評価の基準が示されていなければならないはずです。

 それが示されていないということは、そもそも、BISが言っていると説明されている自己資本比率は、事実は、日本政府だけが言っていることで、他の国は日本の間接金融が停止していれば良いだけで、それ以外には関心はないのではないかとも考えられます。

 しかし、少なくとも、金融機関は一般企業株の保有を黙々と進めて来たし、今は、日銀保有の大企業株を、日銀に成り代わって保有する下準備を着々と進めているのです。

 民間の金融機関が、日銀保有の大企業株を引き取ることになると、大企業にとっては民間の金融機関が株主になり、日銀と違って、経営に口を出して来るのではないかと不安なことになります。黙って金だけを出していれば良いものを、口まで出されるのは迷惑です。

 そこで、永久劣後ローンというものを創り出して、民間金融機関が日銀保有の大企業株を引き受けたときは、すべて超低金利の永久劣後ローンに転換するということにすれば、大企業は、日銀から株式を抱えて貰っていたときと同様に、事実上、民間金融機関はものを言わない飾りものの株主になります。

 超低金利になるところがミソです。

 高い金利ならば、大企業は喜ばず、それに投資している国際投資家も喜びません。そうなると、株価も上がりません。

 日銀保有企業株の民間金融機関への押しつけは、やり方を間違えば、日銀による大企業およびその株主である国際投資家に対する裏切りになりますから、自民党はそれだけは決して出来ないのです。だから、超低金利というわけです。

 中小企業に対してはどうかというと、これまで自民党がこれほどまでに中小企業金融を妨害して来たにも関わらず、最後の最後で心を入れ替え、極めつけとも言える、永久劣後ローンで中小企業を救済するなどとは、こんな大どんでん返しはマンガでもない限り起こりません。

 仮に、中小企業に対して、永久劣後ローンにする代わりに金融機関の取り分を増やし金利を高くすれば、毎月の負担が変わらなくなり、劣後ローンの意味はなくなります。

 そこで、金融機関の取り分を減らし金利を低くしてやれば、ただでさえリスクが高い中小企業融資なのですから、今度は、金融機関の方の割が合わなくなります。

 中小企業家団体が日本政府に、中小企業向けの永久劣後ローンを適用してくれと言っていることは、予想もつかなかったところから求愛されたと、自民党当局担当者は苦笑いしていることでしょう。

 

 

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