労働生産性の向上は資本家の利益、労働分配率向上は労働者の利益

 

 「労働分配率」の向上を現実のものとするのは、政府の財政政策すなわち積極的な雇用政策です。

 雇用政策によってはじめて、限界消費性向を上げ、乗数効果を上げ、GDPを増大させることが出来ます。そしてマクロの視点においては、GDPの増大によってはじめてマクロ経済における資本生産性、労働生産性、全要素生産性の全てを増加させることが出来ます。

 逆に、緊縮的な財政政策を行えば、GDPが減り、GDP統計において結果的に資本生産性、労働生産性、全要素生産性の全てが縮小します。

 今、日本で生産性が悪くなっていると言われている理由は、政府の緊縮的な財政政策にあります。

 ところが、大学においては、AD‐AS分析を利用して、政政策および金融政策というAD曲線(総需要曲線)を上にシフトさせる政策は、インフレを引き起こすために好ましくない政策であって、AS曲線を右にシフトさせる政策は「生産性の向上」であって最も合理的な政策であるとプロパガンダの如く繰り返して教えられています。

 大学の経済学はAD‐AS分析の繰り返しで、学生たちは卒業するころには、ケインズ主義で考えるのは時代遅れだとするような、極端な新自由主義者、構造改革主義者、市場原理主義者に変身して卒業します。

 新自由主義者、構造改革主義者、市場原理主義はすなわち緊縮的な財政主義であり、財政緊縮派は基本的にAD曲線を上にシフトさせる積極的な雇用政策を否定し、AS曲線を右にシフトさせる「生産性の向上」政策を奨励します。

 それは、マネーストックの増大を忌み嫌い、資本家の「資本の希少性」という特権を守ろうとするためです。

 学生本人はまだ子供ですから、物心が付かないうちに、刷り込みが行われ、「資本の希少性」という特権を守る兵隊に仕立て上げられます。

 もちろん、AS曲線を右に移動させる政策の中にも役に立つ政策はあります。例えば、馬車から自動車への技術革新は、馬車を作る職人や馬の飼育人の仕事を奪ったのですが、そのときに発生した自動車という乗り物の特別な事情から、それ以上に国民生活の豊かさや雇用の機会を創り出しました。

 すなわち、この場合は、自動車を走らせるには特別にきれいな道路が必要であり、政府は道路建設の仕事を作り出さざるを得ず、巨大な雇用政策であるところの公共投資という所得再分配政策が行われたのです。

 しかし、だからと言って、例えばインターネット事業のように、技術革新が常に所得再分配政策を必要とするわけではなく、既存の事業である店頭販売店舗の没落をもたらすだけの場合が多いのです。

 政府がその財政に関する独占的立場を放置して、何もしないならば、技術革新をきっかけに社会は一部の者が富を独占するだけの世の中に変貌して行きます。

 現に、流通において、インターネット通販がさかんになる一方で、地方の小売店舗は潰れて行っています。

 もし、インターネット通販が国営であったら、国民から非難されていたはずです。民間だから止むを得ないと考えられているだけで、本来、何であろうと地方の小売店舗が潰れて行くことが好ましいわけはありません。

 そもそも、巨大な通信販売事業によって地方の小売店舗が潰れて行ったのに、そして、巨大な通信販売事業が莫大な利益を上げているにも関わらず、配達業務をやっている者は大変だから、政府が配達者に補助金をやろうという話が出ているようですが、これは何の冗談でしょうか。

 そもそも、潰れていった小売店舗に補助金を与えるべきであるし、また、配達費用の負担の増加は通信販売事業の莫大な利益を削って手当てすべきものでしょうに。

 それとも、まだ小売店舗を潰し足りないので、政府が乗り出して、巨大な通信販売事業の大企業に大サービスをして、全国の小売店舗を徹底的につぶして回るということでしょうか。

 技術進歩には、同じ業種(流通など)の技術水準の低い部門の国民が犠牲になります。それは進歩のための止むを得ない犠牲ですが、政府がそれらの進歩の犠牲となった国民を、雇用政策によって救済しない等ということはあってはならないことです。そこに政府の有能さと無能さの分かれ目があります。

 適正な財政政策や金融政策によって所得再分配政策や景気回復政策が行われていれば、国民は流通業で敗北しても、ただ潰れて行くだけではなく、他の業種で逆転や復活のチャンスを持つことが出来ます。

 ところが、不思議なことに、日本では、自民党の歴代政権によって弱者救済の財政政策や金融政策は回避されてしまいました。

 今、最大の問題は、政府が技術革新を奨励するだけで、所得再分配政策を行わず、したがって、敗者に復活のチャンスが与えられ、格差や貧困が拡大してしまっていることです。

 与野党を問わず、全ての政治家は足掻いて何らかの方法を考え出すべきです。

 例えば、シャッター街の固定資産税(特に建物固定資産税)、町工場の機械にかかる固定資産税、低所得者の所得税、住民税、社会保険料の廃止です。ところが、これらの税金や保険料はむしろ強化されている有様です。

 それによって、中小企業や個人商店がむりやり赤字に転落させられ、廃業させられています。

 竹中平蔵氏は赤字に転落した中小企業をゾンビ企業と呼び、ゾンビ企業を潰し、中小企業の数を減少させた方が日本は発展すると、声を大にして言っています。それゆえ、自民党では、敗北者の救済は悪であるという方針が採られています。

 金融政策においてもそれは徹底され、金融機関では、金融庁から中小企業の債務者を救済する借り換えは禁止されています。

 自民党の中小企業つぶしの政策が進行している中で、技術革新が加速して来ると、国民の貧困化は加速します。

 所得再分配政策、および、それによる景気回復こそが、技術革新や流通革命の結果起こる国民の犠牲を救うものですが、自民党は、むしろ、技術進歩などをきっかけとして中小企業をつぶした方が良いと言っているのですから、日本国民にこの先も良い未来が訪れることはありません

 なぜ、自民党が大企業の肩を持ち、中小企業をつぶしたがるかというと、それは国際投資家がそのようにみ、自民党が国際投資家の傀儡となっているからです。

 中小企業がいくら発展しても、中小企業は株式を公開していませんから、投資家は儲かりません。

 技術的に遅れた中小企業が、大企業などの技術進歩と共に発展する方法は、そして、中小企業を発展の仲間に組み入れる方法は、政府が中小企業に対して積極的な財政政策(すなわち雇用政策)および金融政策を行い、大企業の技術進歩による人員の削減をすべて中小企業で吸収するような雇用政策を行うしかありません。

 それが、AD‐AS分析からは抜け落ち、AD曲線を右にシフトさせる政策よりもAS曲線を右にシフトさせる政策の方が優れているなどと、見当違いな、大企業と国際投資家だけが利益を得る政策を奨励する理論になっているのです。

 ケインズは、むしろ、資本主義の金利生活者的側面は移行期のものでしかなく、役目を終えたらそれは消え失せるであろうと、予言してます。

 そして、いつか、投資家だけが利益を得るような政策は国民から否定され、投資家にとっては配当の減少、債権者にとっては利子収入の減少となり、利子生活者の安楽死となるよう政策が実行されなければならないと言っています。

 

 

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