①安倍晋三の「瑞穂の国の資本主義」というペテン

 

 安倍政権発足当時、安倍総理は、故郷の美しい棚田を引き合いに出しながら、『私は瑞穂の国には、瑞穂の国にふさわしい資本主義があるのだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかし、ウォール街から世界を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります。』(文芸春秋平成25年1月号)と言っていました。

 私はこれに騙されました。私だけでなく、錚々たる経済学者の宍戸駿太郎氏が、丹羽春喜氏が、経済評論家の三橋貴明氏が、みんな騙されました。安倍晋三氏のようにこうハッキリと嘘を言われたのでは打つ手がありません。

 リーマンショックを引き起こしたものは、まさに、「ウォール街から世界を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義」でした。

 「道義を重んじ、真の豊かさを知る」とは、これに対抗する価値観を模索しようとするものだと思っていました。

 そして、投資家や債権者が手っ取り早く利益を上げるために株価ばかりを重視した挙句に投資効率の悪い伝統的な産業を潰してきたことを非難し、むしろ、「故郷の美しい棚田」を作り上げた人たちに代表される非効率であるが地道な努力を大事にして行こうとするものであり、そこで働く職人や労働者の待遇を改善して行こうとしてするものであろうと思っていました。

 普通、安倍晋三氏のような言い方をされるとそう思います。

 しかし、これは完全なウソでした。

 安倍政権は、むしろ、『瑞穂の国にふさわしい資本主義』という言葉で国民を騙し、その裏で、まさしく、アメリカや日本の国際金融資本の熱い期待を受けて、『ウォール街から世界を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義』をもう一度推進し、所得再分配を悪化させ、棚田に代表される日本の農業などの零細な産業が投資効率では敵うはずもない、市場原理主義の戦場に引きずり出して戦わせようしたのです。

 所得再分配を悪化させた政策とは、消費税の維持と強化、法人税と所得税の減税、建物固定資産税の維持化、社会保険料の増額、地方交付税や公共投資の削減、BIS規制による中小企業金融の事実上の停止を指します。

 安倍政権の代表的な政策が、競争や解雇の規制緩和であり、TPP参加であり、税制においては消費税増税であり、法人税減税です。安倍政権はこれらの全てを行いました。

 消費税は利益の薄い生産部門に対して、あろうことか、利益が出ていなくても課税しようとする試みであり、したがって、特に中小企業において、賃金の削減をせざるを得なくさせるものです。

 そして、労動者の賃金を削減しない経営者を懲罰し、労働者を使い捨てにする強欲な株主や投資家を褒め称えるものです。

 中央政府の政策としての、地方自治体へ、安倍晋三氏は、地平線が水平であるような農場で作るアメリカやオーストラリアの米作と、日本の棚田でやるような農業を戦わせて、一体、何がやりたいのでしようか。

 今、TPPの真の仕掛け人であることが明らかとなった安倍政権は、農業が政府の保護を受け、補助金漬けにされているので、小規模農家や兼業農家が温存され、競争力が無くなり、日本の農業がアメリカと競争できなくなったとか言っていますが、農業に巨額の補助金を出していない先進国など存在しません。

 安部晋三氏は、この世に政府が存在しなくなる日がやって来る前提で、未来の農業を心配しているのでしょうか。

 そもそも、農業は人類の最も原始的な産業であり、後進国ほど安く作れるので、野放図に自由競争に晒すと先進国の農業は潰れてしまいます。

 特に、日本における農業は、無尽蔵に農地を広げることは無理であり、大規模化が容易なアメリカやオーストラリアからの輸入品と価格競争することは不可能です。

 消費者にとって、アメリカや後進国の安い米を買ってなぜ悪いのかという意見もありますが、アメリカの米が安いのは広大な農地ということもありますが、日本の二倍にもなる補助金に支えられているからです。

 いくら狂信的な安倍晋三信者でも、国内の稲作を見捨てることによって、戦争や災害などが起こったときに日本人が飢えることになるという安全保障上の問題は無視出来ないはずです。

 また、国際投資家が作物の種子などの供給部門を独占し、日本の食糧供給に関する生殺与奪権を握る可能性もあります。

 ゆえに、食料安全保障として、他国や国際投資家の良心を信頼して、国内の農家の保護を否定することは間違いです。

 経団連などの大貿易会社は、自社の製品を海外に売り込みたいので、その交換に日本の農業を全滅させ、外国に日本の食料市場を差し出したいと思っています。

 安倍政権が経団連などの大貿易会社側に立っていると考えれば、安倍政権の行動の全てが理解できます。

 農業や公共投資など、これまで行政と二人三脚でやって来た者を、ある日突然、一方的に悪者にして抹殺しようとするのは、日本の資本家たちがどこかの時点で、それはおそらくバブル崩壊のときに、日本の国家及び国民に見切りを付け、国際投資家と手を組んで共に歩もうと踏ん切りを付けたからです。

 いま、自民党政権から難癖をつけられている農協についても、農協はもともと農家の相互扶助の目的で誕生したのであり、その公共の利益を追求する趣旨から行政の窓口の一つであるべきものでした。つまり、行政が深く関与し、指導して行くべきものでした。

 ところが、自民党政府は、金融機関(間接金融)に競争原理を押し付けた時に、農協にも競争原理を持ち込み、利益を出すよう指導しました。

 農協が現在のような利益第一主義になったのは、自民党の無茶苦茶な指導の結果です。

 ところが、こんどは、その自民党が農協に対して、農協が日本の農業を食い物にしているので、無用の機関になったとか言っているのです。

 農協が奉仕型の団体であるからには、利益は組合員の農家のものとしなければなりませんでした。それは、農業用機械その他の商品が安く買えたり、農業者年金が有利な年金となったりすることです。そのために赤字が出たときは、中央政府が全面的に負担するなどの保護をすべきだったのです。

 小規模農家や兼業農家は日本農業の良き特性であり、食料生産部門への所得再分配の柱であり、食料自給の基地となるものです。

 だから、むしろ、国民全員が工場に勤務しながら、傍らで農業をやるくらいのほうが、地域の食料供給にとっても、所得再分配にとっても良いことであるし、小規模であれこれやっているほうが日本人らしいとも言えます。

 そもそも、自動車や携帯電話で貿易黒字を上げる必要はありません。自動車や携帯電話で貿易黒字が上がらなくなれば、引き換えに他国の作物を買い取ってやる義理もなくなります。

 さらに、自民党政権の最も愚劣な能書きは、中国で日本の農産品が高級食材として売れているので、日本農業はそこに活路を見出すべきだと言っていることです。

 この自民党の言い分には食料安全保障もへったくれもありません。

 安全保障を考えるならば、中国の消費者をあてにしないで、日本国内の消費者に安全で高品質の農作物を分配すべきで、これまで通りの小規模農家や兼業農家を奨励すべきです。

 しかし、それでは困る者たちが居るのです。それが、すなわち、輸出を増大させて儲けたい経団連です。

 自民党の本音は経団連の利益にあることは、TPP参加における安倍晋三氏の姿勢を見れば明らかです。

 アメリカの大統領がTPPを否定するトランプ氏になっても、自民党政権は、なお、TPP参加の国会決議を断行したことから、TPP参加はアメリカの圧力によるものではないことが明確になりました。

 経団連にとって、TPPの締結の相手は誰でも良かったのです。TPPを締結さえすれば、どこかの国に日本の規制にクレームを付けさせて、または、クレームを偽装して、日本国内のあらゆる規制を解除させることが出来るようになるからです。

 だから、TPPはアメリカの投資家の要望なのではなく、日本の経団連の要望であったのです。

 安倍晋三氏も日本人なら、美しい棚田が、恐るべき非効率から生み出された景色であることを知らないはずはありません。

 安倍晋三氏はそのことを百も承知で言っているのであって、その上で、美しい棚田を守るとハッキリとウソを言っているのです。

 そして、すべての日本人を騙したのです。

 災害が多く資源が少ないにも関わらず、美しい日本の国土は、利益を追求する効率で考えれば全く引き合わない努力の積み重ねによって出来たものです。

 山間部の棚田から科学技術の開発に至るまで、いつ利益となって返って来るかも解からない気の遠くなるような道のりを歩く決心をしたのが日本だったはずです。

 私は、『瑞穂の国にふさわしい資本主義』とは、そのことを言っているのであろうと、勝手に思っていました。その価値観は、投資家の利益優先の効率主義とはまったく逆のものです。

 ただちにお金にならなくても、その努力は尊いことだと、みんなが思い、みんなで支えていく、そうして、ようやく努力が実を結ぶのです。いや、あるいは、実を結ばないこともあります。しかし、それでも、みんなで支えていく、そういう世の中が、日本人の理想であるし、日本人が歴史の中で育んで来たものだったのではないでしょうか。

 安倍晋三氏にとって、『瑞穂の国にふさわしい資本主義』とは、ペテン師の殺し文句にすぎなかったようです。大変残念なことです。

 

 

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