③日銀の「発行銀行券」を「純資産の部」に置き換える提案
日銀は他の誰にも頼ることなく、無から有を生み出す能力を持っているからには、日銀のバランスシートの【貸方】(負債の部)に置かれている「発行銀行券」(銀行券を発行したという意味)は、(純資産の部)に置き換えるべきことを提案したいと思います。
ただし、本来の(純資産の部)は(資産の部)から(負債の部)を差し引いた計算結果である差額を指しますが、その差額の存在が政策上の特別の理由によるときは、その理由を表示しても良いことになっています。
そういう意味で、通貨発行行為を表す「発行銀行券」は、その名称を付けて最初から(純資産の部)に置くという処理をした方が、現代の通貨発行の意味を明確なものとする上で適切と思われます。
いまだに、「発行銀行券」が負債の部に置かれているのは、金本位制の頃の名残にすぎません。
1971年以前、金本位制においては、中央銀行は、
【貸方】(純資産の部)自己資本100万円
【借方】(資産の部)金(gold)100万円
というバランスシートでスタートします。
しかし、兌換紙幣を利用する制度によって、金そのものではなく、金に代えて兌換紙幣をもって発行または融資することになりました。
兌換紙幣を印刷すると、
中央銀行のバランスシート①
【貸方】(純資産の部)自己資本100万円、(負債の部)兌換紙幣発行100万円
【借方】(資産の部)金(gold)100万円、兌換紙幣100万円
となります。
中央銀行が兌換紙幣によって金融機関から国債や外貨などの資産を買い入れることで兌換紙幣は金融機関の手に渡ります。
中央銀行のバランスシート②
【貸方】(純資産の部)自己資本100万円、(負債の部)兌換紙幣発行100万円
【借方】(資産の部)金(gold)100万円、国債100万円
となります。
金融機関から兌換紙幣を受け取った外国人が兌換紙幣と金(gold)との交換を要求したときに、中央銀行の金(gold)が放出され、兌換紙幣が手元に戻ります。すると、
中央銀行のバランスシート③
【貸方】(純資産の部)自己資本100万円、(負債の部)兌換紙幣発行100万円
【借方】(資産の部)兌換紙幣100万円、国債100万円
となります。
そこで、兌換紙幣と兌換紙幣発行は相殺され、
【貸方】(純資産の部)自己資本100万円
【借方】(資産の部)国債100万円
となります。
これで、自己資本はすべて貸し出され、日銀に余力は無くなったことになります。これは誰かが持ち込んだ資本はすべて無くなり、国の借用書(国債)だけが手元に残ったということです。日銀は借用書(国債)を回収するために、政府から何かをもらわなければなりません。それは、ほとんどの場合、税金でした。
このように、兌換紙幣は、外国貿易などの支払いに使われ、外国などが手に入れた兌換紙幣を中央銀行に持ち込んだときに、金(gold)と交換してやらなければならないのです。
金本位制においては金(gold)のやり取りだけが重要でした。
その中で兌換紙幣の果たす役割は完全な預り証にすぎないもので、兌換紙幣の発行はまさに負債の発行だったのです。
しかし、金本位制が廃止され、管理通貨制度になり、発行された貨幣と金(gold)との兌換の義務は消えました。
そのとき、各国の中央銀行はどうしたかというと、中央銀行のバランスシート①において、(純資産の部)自己資本100万円、(資産の部)金(gold)100万円の表示を消し、
中央銀行のバランスシート①,
【貸方】(負債の部)紙幣発行100万円
【借方】(資産の部)紙幣100万円
としてしまったのです。もはや、紙幣発行は国の権利として「無」から生み出すことが出来るのですから、紙幣発行という行為に負債性は無くなり、
【貸方】(純資産の部)紙幣発行100万円
【借方】(資産の部)紙幣100万円
としなければならないはずです。
それにも関わらず、当局のサボタージュから、依然として【貸方】(負債の部)に紙幣発行が置かれたままになっていることは、はなはだしい怠惰と言わざるを得ません。
そして、金本位制が廃止されたときに、直ちに、「発行銀行券」(通貨発行行為)は(純資産の部)に移し、負債ではないことを宣言しなければならなかったはずなのです。
その場合、日銀のバランスシートは、
【貸方】(純資産の部)不換紙幣発行100万円
【借方】(資産の部)不換紙幣100万円
とすることが妥当です。
なぜなら、「不換」とは交換義務を負わないという意味ですから、不換紙幣の相手側勘定に負債が立つのは言語的に矛盾しているからです。
この会計方式をこのように正しいものに変えさせれば、政府債務の見方は相当変わり、真実に近い姿になります。
つまり、日銀の保有する国債はすべて日銀独自の通貨発行の結果にすぎず、ゆえに誰にも借りの無い日銀の純資産であることが明白になります。
通貨発行で【借方】(資産の部)に現金が生まれますが、その現金で国債を買い取るのですから、現金という資産が国債に換わるだけです。
だから、いくら日銀の保有する国債が増えようとも、純資産がが増えるだけですから、気にする必要はなくなります。それどころか、日銀の純資産が増えることで、日本人は豊かになった気がするでしょう。
実際、貨幣発行量が増えているということは、国家経済がインフレに誘導され、経済発展しつつあるということですから、その感情はむしろ正しいものです。
政府と日銀は一体ですから、日銀保有国債つまり日銀の政府に対する債権をチャラとすることで、純資産を減少させることが出来ますが、純資産額を貨幣発行量の統計と見るならば、日銀の国債保有高は貨幣発行の累計の記録ですから、日銀保有国債と貨幣発行を相殺しないで記録としてそのままにしておくべきでしょう。
税収によって政府債務が返済される場合は、政府が直接民間保有国債に返済することはなく、必ず日銀保有国債の返済に充てられます。なぜなら、政府が直接、金融機関の国債を買い取れば、金融緩和と同じとなり、中央銀行システムに違反してしまうからです。
よって、税収による政府債務の返済とは、政府が日銀から国債を回収するという行為になります。そのときに限り、税収で得た現金は日銀に回収され、通貨発行残高は減少します。
政府が日銀から国債を買い戻せば、日銀は発行した通貨を政府を経由して回収することになり、日銀のバランスシートの【借方】(資産の部)に存在する国債という資産は、現金という資産に転換されます。
この現金は、民間に供給されていたものが回収されたもので、回収されれば未発行の通貨になりますから、貨幣発行行為と相殺し、純資産を減少させることになります。つまり、税収は日銀の通貨発行をキャンセルするという意味です。
税収ではなく、金融緩和による政府債務の返済とは、政府の発行した国債という融通手形を、日銀が肩代わりして引き受けるという意味ですが、このとき、政府の民間への返済義務は消滅しますから、このとき政府債務の返済が行われるのです。
つまり、金融緩和は政府の対民間債務の返済になり、これ以外の方法で、民間債務の返済が行われることはありません。
政府が国債を発行し、金融機関がその国債を引き受けるということは、金融機関から政府への融資が行われたということです。融資の段階でマネタリーベースは、一旦は減少し、政府支出が行われたときに、マネーストックが増え、マネタリーベースが元に戻ります。これは、金融機関が民間に融資する信用創造と全く同じ行為です。
日銀が金融機関から国債を買い取るときに、はじめて日銀は通貨発行を行い、(金融機関が日銀に開設している当座預金に入金し)マネタリーベースが増加します。
ただし、前にも言いましたが、民間国債を民間貨幣(マネーストック)の凍結と見るならば、政府が国債を発行したときには、その裏で日銀が貨幣を発行し、政府に手渡していることになります。
日銀の通貨発行は他の誰かからの借入ではありませんから、無から有を生み出し、国債を引き受けることが出来ます。
ところが、現在のように、通貨発行行為が日銀のバランスシートの【貸方】の(負債の部)に置かれていれば、当然ながら、貨幣を発行するたびに日銀の負債が増えるといった無意味なイメージを持つことになります。
たまに散見される、MMT(新貨幣理論などの)「貨幣は統合政府の借用書である」という考え方は、通貨発行行為が日銀のバランスシートの【貸方】の(負債の部)に置かれていることから発生している錯覚です。
しかし、これを、日銀のバランスシートの【貸方】の(純資産の部)に置き換えれば、どんなにボンヤリしている者でも、国債をすべて日銀に引き受けさせれば、政府だけでなく統合政府(政府と日銀)にとっても借金は無くなるということに気付きます。
また、このことによって、国または政府に借金問題は無いということが、いとも簡単に理解出来ます。
重要なことは、国民に気付かせることです。
そのために最も手っ取り早い方法が、日銀のバランスシートの【貸方】(負債の部)に置かれている「発行銀行券」を(純資産の部)に置き換えるという簡単な方法です。
これは、すなわち、何ら新しいアイデアなどではなく、金本位制から離脱して以来、長きに渡りこれまでサボタージュされて来た手順を遅れ馳せながらも実行することです。