国際収支と政府債務およびインフレの関係

 

 企業が外国に自動車100台を売って自動車100台分の外貨を持ち帰っても、自動車100台を海に投げ捨てて、代わりに政府が債務を拡大して、企業に自動車100台分の代金を支払っても、国内のマネーストックが増加するという点においては全く同じす。

 ただし、政府が自動車100台を買い取って国民に与えたのでは、自動車会社は国内で儲かるはずだった100台分の売上と利益を失い、仮定の前提が変わりますから、海に投げ捨てるのでなければなりません。

 さらに、日銀がその政府債務を引き受けると、引き受けた分のマネタリーベースが増加します。

 輸出企業が金融機関に外貨を持ち込んで円と交換してマネーストックが増えることは、中小企業が担保によって融資してもらう信用創造でマネーストックが増えることと同じです

 外貨が担保と違うところは、返済を前提とせずに買い取ってもらえるところです。言い換えれば、輸出企業が持ち帰る外貨と中小企業が差し入れる担保との間にはそういう違いしかありません。

 資源の入手または生活の多様化という意味で貿易は有意義なものですが、国際収支を貨幣だけの動きで見れば、外国人と海は同じものです。なぜなら、外国人に喜んでもらうために輸出しているわけではなく、外貨を稼ぐためであり、外貨を稼ぐ理由はその外貨を円と交換し、国内に支払うためだからです。

 各国政府がもし国民のためを思うなら、各国政府は国内企業に自国民のための自動車の生産を行うよう促すべきです。

 特に、各産業部門にまんべんなく生産力を持っている先進国なら、輸出のためにその生産力を使うのはナンセンスです。

 政府が輸出で獲得した外貨を手に入れて、役に立つことがあるかというと、それはほとんど無いと言って良いでしょう為替介入するときも予め外貨を持っていなければ介入できないということはありません

 ゆえに、現在の外貨保有高は結局のところ、役に立たずに、山積みにされているだけにすぎません。

 日銀砲などといって、日本の外貨保有高の巨大さから、日銀が国際的な金融市場で大きな力を持っているかのように思っている者もいますが、それは勘違いです。

 日銀砲とは為替介入するという意味に過ぎず、特に円売り介入は、国内の物価が安定しているか、またはデフレであれば、いくらでも通貨を発行して行うことが出来ます。それだけのことです。

 それはむしろ内需が不足していることの反映であり、日本経済の実力というような肯定的評価が出来るようなものではありません。

 一般的に為替介入は円買い介入より円売り介入の方が圧倒的に多く、経常収支が黒字であろうと赤字であろうと円売り介入の結果として外貨準備は増えます。だから、どんな国でも、経常収支が赤字でも、通常は外貨準備がなくて困ったりはしません。

 また、外貨準備を持たなくても、外貨準備で出来ることは円高誘導ですから、国内金利を上げることで代替出来ます。円買いが起これば、円高に誘導出来ます。

 金融機関による役に立たないような外貨の買い取りであろうと、担保による融資であろうと、まったく同様にマネーストックが増え、国内市場にインフレバイアスが生じます。

 輸出の増大は国内のマネーストックを増やし、円安となり、インフレをもたらします。そのインフレによって、商品の原価が上がり、価格競争力が下がり、輸出競争力が下がります。

 だから、輸出企業は、自分たちが招いたインフレなのに、そのインフレを止めようとして、政府に圧力をかけ、デフレを維持するために、低所得者や貧困層に貨幣を持たせないようにする国民貧困化政策を採用させます。

 輸出で得る外貨とまったく同様に働くものが、外国人が日本国内に投資する外貨です。つまり、資本収支の黒字です。

 そこで、「外国人が日本に投資すれば、日本の景気は良くなる」という認識について考えます。

 例えば、アメリカ人が日本国内に100万円を投資する場合アメリカ人が日本の金融機関で1万ドルを100万円と交換すると、アメリカ人が100万円を保有し、マネーストックが100万円増えます。

 これは持ち主が異なるだけで、貿易黒字で持ち帰ったドルを金融機関で交換してもらって、マネーストックが100万円増えることと全く同じことです。

 つまり、経常収支黒字と資本収支黒字つまり外国人による日本国内への投資は日本国内のマネーストックを増やすことにおいて全く同じです。このどちらも自民党政府は奨励しています。経常収支黒字と資本収支黒字を奨励し、そのために、内需を圧迫し、デフレを維持しようとしているのです。

 ただし、マネーストックの増減は新関係式ではもちろんのこと、旧関係式においても、国際収支の関係式反映されません。

 金融機関がこの外貨を政府部門に買ってもらったときに、はじめて、旧関係式では「経常収支(0)+資本収支(+100)=外貨準備増(+100)」というように、資本収支および外貨準備増に反映されます。

 このとき、旧関係式で表現されていることはマネタリーベースが増えているということです。新関係式ではマネタリーベースの増減すら表現されません。

 旧関係式における資本収支は新関係式に反映されませんが、新関係式だけしか見られない場合も、外貨準備増減の統計を見れば、そのことによって起こっているマネタリーベースの増減が判ります。ただし、新関係式では資本取引の結果という事実は重視されないかも知れません。

 そして、ここからが重要なことですが、つまり、輸出の増大による外貨準備高の増大でインフレバイアスがかかりますが、インフレを嫌う自民党政府の政策で政府債務が拡大され、マネタリーベースが回収されるという話です。

 政府部門が外貨の買い取りを行っても、マネタリーベースが増えていなければ、政府による外貨の買い取りで増えたはずのマネタリーベースは、別のところで、国債発行が行われ、回収されているということです。

 つまり、これは、外貨の買い取り資金が政府債務の拡大で獲得されたために、結果として政府債務だけが拡大し、マネタリーベースは増えていないということです。

 今、日本の企業は空前の内部留保金を積み上げており、企業の外国投資もさかんですが、それでも日本の外貨準備高が増加しているということは、民間による海外投資分を差し引いても、なお外貨準備増がプラスになっているという状況を現わしています。

 ただし、円キャリートレードで、日本人または外国人投資家が利子の安い日本円を金融機関から借りて、日本の金融機関で外貨と交換し、外国に投資する場合は、結局、外貨を金融機関から借りただけということになるので、マネーストックは増加しません

 また、円キャリートレードが行われているということは、日本が金融緩和を行い、金利が下がっているということですから、おそらく、金融機関は潤沢な円資金を持っており、外貨を政府に買い取ってもらう必要はありませんから、大抵の場合、資本収支も外貨準備も増減することはありません。

 つまり、一方において経常収支の黒字が続いて、金融機関がマネーストックを増やしながら、外貨保有高を増やしても、他方において金融緩和が行われている場合、政府は外貨準備高を増大させないという現象が起こります。

 しかし、一般論としてつまり、大規模な金融緩和が行われていない場合、経常収支と資本収支の黒字によって国内のマネーストックおよび外貨準備が増え、経常収支と資本収支の赤字によって国内のマネーストックおよび外貨準備は減るという増減運動が標準になります。

 これは、つまり、一般論として、経常収支の黒字分を資本収支の字によって海外投資を行えば、マネーストックを減少させ、国内のインフレバイアスは解消されるということでもあります。

 それならば、日本人の外国への投資は、インフレ抑止の効果を持つことになるので、貿易黒字と同時に、日本人の外国への投資が行われていることは理想的ではないかという意見もあると思いますが、日本人の外国への投資は、将来的に、日本の投資家と最も親和性の高い日本への輸入の増加をもたらし、輸入は国内産業の衰退をもたらしますから、経常黒字の対面で増えた資本収支の赤字を外国投資に回すというアイデアは、日本の内需を滅ぼす搾取側の勢力をさらに増やして、加速的に国を滅ぼすことになります

 輸出は内需型企業から貿易型企業への国内産業の勢力分布の変化をもたらし、輸入品目に関わる国内産業の衰退をもたらします。

 すなわち、輸出にせよ輸入にせよ、貿易依存は国民にとって悲劇にしかなりません。

 ところが、日本政府は自由貿易を推進し、輸出であろうと、外国への投資であろうと、補助金まで出して奨励している始末です。しかし、これは国民を悲惨な境遇に陥れる愚策でしかないのです

 

 

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