④基軸通貨の意味するもの

 

 現代の貨幣とは、紙や金属という価値のない素材に交換すべき商品の価値が記録されているだけです。これを表券貨幣と言います。

 それは、必ず表記価値のものと交換できると国民が信用すれば、何でも貨幣になるということでもあります。

 そしてまた、このことは、恐るべきことに、必ず商品と交換できるという信用を得るならば、誰でも貨幣を作り出すことが出来ることを意味しています。

 貨幣として信用され続ければ、貨幣発行者が経済を支配することが出来るようになります。

 経済を支配することは、国家や国民を支配するということでもあります。そこで、政府は、貨幣発行権を国家主権の行使者である政府の独占的権利とし、政府以外の者が貨幣を発行することを禁止しました。

 中央銀行が貨幣を発行しているのは、政府が中央銀行に権限を委任しているからであって、中央銀行は政府の代理人であるにすぎません。そうでなくては、中央銀行は貨幣を発行することは出来ません。

 日銀が株式会社で、株主が通貨発行権を持っているかのように誤解している人がいますが、株式会社とは名ばかりで、株主に議決権はないし、まともな配当も優遇もありません。株式会社としているのは、一般的な政治家(政府ではなく政治家の裁量)からの独立を演出しているにすぎません。

 多くの国では、貨幣は、中央銀行が発行して流通させることが一般的でが、現在でも一部の国では、政府が直接貨幣を発行している場合がありますむしろ、本質的には、政府機関が中央銀行に委任せずに、直接、貨幣を発行することのほうが正常な状態なのです。したがって、最近、日本で政府発行貨幣論議が起こっていることはまことに当然のことです。

 それにも関わらず、なぜ、多くの国で中央銀行が通貨を発行しているかというと、歴史的に、政治家に通貨発行をまかせると、選挙目的の利益誘導型の財政政策や金融政策を行いそのために貨幣を乱発し、インフレにな傾向があためですつまり、通貨発行を中央銀行に委託する理由は、政治家が信用されていないからです。

 いうなれば、政治家があまりにも愚劣なので、政治的に中立と説明されている中央銀行が政府の委託を受け、通貨発行の役割を担っているだけです。したがって、むしろ、中央銀行は存在すべくして存在しているのではなく、政治家の質が悪いために、苦肉の策として考え出された制度なのです。

 政治家の中には、中央銀行の独立性というものを声高に叫ぶ者がいますが、それは、まさに、自分たちが愚かで信用できない者であることを宣伝しているようなものです。

 世界で最も信用の出来る貨幣は基軸通貨と呼ばれていますが、基軸通貨が、なぜ、最も信用できると考えられているかについて説明します。

 貨幣は物々交換の仲介手段なので、貨幣の動きを省略すると経済活動とは物々交換の繰り返しということになります。

 実際、国民に貨幣を配るという所得再分配は、生活物資を配るということと同義であり、食料、水、電気、衣服、寒さを凌ぐ住居、医療などを配ることで、国民の生命を守ることを意味しています。だからこそ所得再分配に意味があります。

 経済とは、個人目線で見ると「生産と交換」であり、国家目線で見ると「生産と分配」になります。

 物々交換は特に同胞意識を持たない赤の他人である外国との国際交易において顕著であり、相手国の貨幣を得る目的は、相手国の生産物や資産を手に入れるためというに尽きます。

 貿易黒字は当面の間は外貨準備になりますが、あくまで、貿易黒字の目的は外貨準備の増大それ自身のためではなく、相手国の生産物を手に入れることで初めて意味を持つのです。

 為替介入資金はどうにでもなりますから、当面の為替介入資金以上の外貨準備は相手国の生産物を手に入れる必要がないのであれば無意味なものです。

 相手国が生産大国であればあるほど、貿易黒字で得た相手国の貨幣で相手国の生産物を手に入れる確実性は高まります。

 よって、現在の基軸通貨がドルであるのは、ドルに交換しておけば、いつかは必ずアメリカの生産物と交換できるという理由で、ドル保有の不安が無いからです。

 基軸通貨は条約や協定で定められるものではありません。

 基軸通貨とは、人気投票で決済通貨として多用されているというにすぎず、つまり、他国がどう思っているかということにすぎないので、日本の生産力を背景に、どこかの日本人が円を基軸通貨と呼びたいならば、それはそれでおかしなことではありません。

 基軸通貨となれるかどうかは、世界一の生産大国であるかどうかにかかっており、要は、どこまで日本の生産力が世界に信用されるかにかかっています。

 もちろん、アメリカの金融政策や財政政策によってドルの為替相場は変動しますが、そのリスクは各国の通貨の共通のものであり、通常、為替相場の変動は許容範囲に収まり、ほとんど問題とされることはありません。少々変動したところで、依然としてドルでそれ相当のアメリカの生産物を買うことが出来るからです。

 しかし、極端に変動すれば、例えば、ドルの価値が大幅に下落すれば、ドルで受け取っても大幅に損をしかねないので、ドルで受け取ることを喜ばない者が現れ、基軸通貨の地位を失うことになるでしょう。

 しかし、アメリカ国民の立場で考えれば、デフレであればドルの価値は上昇し、インフレであれば下降しますから、ドルの価値の上昇によって、必ずしも、アメリカ国民が幸福になるとは限らず、むしろ、やみくもに基軸通貨の地位に固執するならば国の政策を誤ることになります。

 かつて、日銀総裁が円の信任を守ると言っていたのは、円のドルとの交換価値を守るために、円の発行量を抑えるということですが、それは、まだ、間接金融が十分に弱体化していませんでしたから、金融緩和をすると、本当にインフレになってしまうからです。自民党政府と日銀は経団連(国際金融資本)の強力な要請によって、デフレを維持することが使命となっていました。デフレは、国際金融資本にとっては、競争相手がいなくなり、また、不完全雇用になって賃金が安くて済むので、好景気なのです。

 当時、バブル崩壊後、バブルの時は日本以外の国際投資家が思うように儲けられなかったために、二度と日本を経済成長させてはならないと言う国際投資家からの要望があ、着々と、日本経済の弱体化が進められていました。

 また、固定資産税の重税化によって地価が下げられ、担保力を破壊して、中小企業金融を不能にし、中小企業大企業と競争できなくなるように、金融面における構造改革が進められました

 そして、その上で、中間層、低所得層、貧困層から金を回収するための増税および社会保険料の増額が進められ、国民の消費する力を奪い、国民貧困化政策によって、経済成長させない体制創りの過渡期にあったのです。

 しかし、まだ当時は、国民の貧困化、地価の下がり方が十分ではなく、金融緩和すると、インフレになり、景気が回復する恐れがあったので、日銀総裁円の信任を守るという言い方をして、デフレを維持し、経済成長することを妨害したのです。

 したがって、日本国民は政府の緊縮財政によるデフレで苦しんでいたのに、その上に、日銀総裁の金融引き締めによっても苦しんでいたのです。

 デフレ不況下での大規模な金融緩和は、どこの国でもやっている当たり前のことです。しかし、日本は金融緩和せずにじっと間接金融(中小企業金融でもあります)が死に絶えるのを待っていたのです。

 普通の国において、金融緩和の結果、インフレになり、通貨安となり、国際的な取引における通貨の信任を失ったとしても、経済成長し、それで国民が幸福になれるのなら、それは、基軸通貨などという少々外国のものが買い易くなるくらいの意味しかないようなものよりもはるかに良いものなのです。

 安倍政権になり、地価が下がり切り、BIS規制も徹底され、間接金融がほとんど死に絶えたときに、つまり、金融緩和が意味をなさなくなったときに初めて、安倍政権の黒田日銀総裁は『異次元の金融緩和』などという茶番劇をやり始めました。

 その結果、自民党政府が計画した通り、金融緩和の効果は現れず、国内はデフレが続き、賃金が下がり、通貨安が起こった結果、日本の輸出企業は大きな国際競争力(すなわち価格競争力)を獲得し、日本の大企業および株主(投資家)は大きな利益を上げました。

 そして、いまや、株主は空前の配当金を得て、大企業は空前の内部留保金を積み上げています。

 純利益から配当金を配った後の累積金を内部留保金と言い、これは企業の純資産から配当金を配った後の残余の累積を意味し、株価になります。

 株主(投資家)は配当金(インカムゲイン)と株価の上昇(キャピタルゲイン)の両方で利益を上げます。

 しかし、マクロ経済の視点からは、企業の内部留保金が多過ぎるのは好ましくありません。なぜなら、それは間違いなく労働者の貧困化を意味し、デフレが続いていることを意味しているからです。

 企業の内部留保金は、企業の純資産を意味していますから良いことのように思えますが、内部留保金が純利益から配当金を配った後の残余の累積を意味しているからには、労働者に賃金として分配されなかったものの累積でもあります。国民が企業の内部留保金の増大を喜ぶのは明らかな勘違いです。

 また、企業の将来の投資が積極的に行われるかどうかについても、金融機関が融資に積極的であれば、内部留保金の大きさは関係なく、むしろ邪魔になります。内部留保金大きければ、金融機関の融資の重要度が減少し、金融機関は金利を下げざるを得なくなるからです。

 金融機関は大企業などの保有する純資産の多さでも融資しますが、むしろそれは特殊であって、通常の融資は、その融資で獲得する資産の評価の高さで融資し、その獲得する資産の評価は景気動向次第で高くなります。したがって、政府が景気を後押しする政策を行えば、金融機関の融資にとって、融資を受ける側の企業の内部留保金は多かろうが少なかろうが関係なくなるのです。

 

 

発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング