③国家戦略特区は投資家の利益のためにのみ存在する

 

 国家戦略特区とは、総理大臣が職権的に許認可の行える特別区を設定し、一般的な法律を超越(無視)して規制の解除を行い、それを全国に押し広げる目的で作られるものです。内閣府のホームページにはっきりそう書いています。

 そして、国家戦略特区の目的は、世界で一番ビジネスをしやすい環境を作ることであるとしていますが、住民が最も幸せになれる環境を作るとは書いていません。

 ビジネスをしやすい環境とは規制緩和や税制面の優遇によって、企業が最も儲けられる環境ということです。

 国家戦略特区では「かつて国民が作った法律」である労働基準法などの、労働者にとってどんなに大切な法律であろうと、企業が儲けにくい法律は全て「岩盤規制」と呼ばれ、解除の対象とされます。

 安倍総理は自ら岩盤規制を打ち抜くドリルの先端になると宣言しています。

 国家戦略特区は企業利益のためのものですから、企業が儲けられれば選択される地域はどこでも良く、特定の地方を再生させという視点は存在しません。

 それゆえ、国家戦略特区の中には関東、関西、中部の大都市が含まれています。

 もし、「国家戦略特区は地方再生の役に立つ」という主張があった場合は、関東、関西、中部が含まれているのでは、大都市とその他の地方の格差を埋める意図は認められないと反論すべきでしょう。

 なぜ、全国ではなく特定地域を指定する国家戦略特区という構想にしたかというと、一度に全国で「企業が最も儲けやすい環境」作りを行うと、それによって国民が不幸になるという事実が発覚してしまうからです。

 しかし、地域や分野を限定することで、タックスヘイブンのように他の地域より企業を誘致し易くなり、むしろ、他の地域も進んで国家戦略特区になりたがり、労せずして規制の解除を拡大することが出来す。

 また、特定地域で実施し、国民の警戒感が薄れて来たところで、全国に押し広げれば、国民に気付かれることなく、全国に「企業が最も儲けやすい環境」を広げることが出来ます。

 自民党内閣の産業競争力会議の竹中平蔵氏は、ドリルで破壊すべき規制の範囲は出来るだけ広くしたいので、今後もつぎつぎと規制緩和の項目を追加していくとしています。つまり、破壊される規制の種類は無限です。

 アメリカ通商代表部のウェンディ・カトラー次席代表代行は、アベノミクスの国家戦略特区は「TPP交渉のうち1つの焦点となっている非関税分野(日本国内の分野)で、アメリカが目指すゴールと方向性が完全に一致している」と言っています。

 このように、国家戦略特区の目的は企業の利益のためであることがあからさまに公言されているのに、なぜ、批判が出て来ないのかは、巧妙に「良い規制緩和」もちりばめられ、「悪い規制緩和」がカモフラージュされているからです。

 例えば、国家戦略特区の「良い規制緩和」というのは、障害者向けトイレ設置義務の緩和とか、高度利用地区の建物の容積率の緩和とか、現行の使い勝手の悪い規則の見直しであって、国家戦略特区でなくても、市町村の首長がちょっと気をきかせれば出来るようなことです。

 つまり、「良い規制緩和」で聞くことは、これまでやって来なかったのは行政の怠慢にすぎないような内容のものばかりなのです。

 それらを、わざわざ国家戦略特区の中に含めて、国家戦略特区構想の印象を良くしているのです。そして、それらが混在しているために、必ずしも国家戦略特区構想は悪くないという国民の評価を得ていす。

 その陰で行われる本命の「悪い規制緩和」の内容は高度であり、全体的にそれぞれの意義について細々と能書きが並べられ、なかなか、一回聞いただけでは良し悪しを判別出来ないようになっています。

 例えば、「女性の活躍推進等を支援するために、家事支援サービスを提供する企業に雇用される外国人の入国・在留を可能にする」といった言い回しが行われています。

 外国人の流入とは逆の方法、すなわち、日本人に所得再分配を強化する方法、例えば、出来るだけ多くの女性が家庭に留まるための世帯主の所得の増加、国民の貧困を解決する方法を議論すべきなのに、そのことは避けて、ここでは、国民が貧困化し続けることを既定路線として、女性を廉価な労働者として家庭から引っ張り出すために、家庭から出やすいようにしようとか、外国人に手助けしてもらうという、因果関係の混乱した答えが出されています。

 そして、議論なきままに、それが世帯あたりの所得を増やすための方法だと言って、国民の空気を変えて行くのです。

 国家戦略特区における規制緩和の全てにこの手法が用いられています。

 とりわけ、「悪い規制緩和」の筆頭に掲げられるものとしては、特別な解雇の規制緩和、特別な外国人雇用制度の2つが挙げられますが、これらの解除と廉価な外国人労働者の流入はそもそも経団連などの大企業が望んで来たことです。

 そして、それに応じた企業にはさらに特別な法人税減税、特別な補助金、特別な低金利融資の3つがプレゼントされます。

 もともと企業は自分の利益しか考えていませんから、例え中小企業でも、こういうアイデアに飛びつき、自民党の磐石な支持者になります。テーマは常に労働者からの搾取なのですが、労働者は余りにも無力です。

 そして、もう一つ問題なのが、指定される地域が政令指定都市や県庁所在地も対象となっており、しかも、政令指定都市や県庁所在地のほうが採用されやすい傾向があることです。

 例えば、福岡市が特区に指定されていますが、もともと、福岡市はインフラが高度に整備されていて、競争力の高い地域です。

 この上に、特区制度によって他の都市と差別化されたのでは、周辺市町村から福岡市への投資と人口の流入はますます増えるばかりです。このことからも、自民党政府が(田舎という意味の)地方の復活を意図していないことが判ります。

 福岡市の特区において行われることは、解雇の規制緩和と法人税減税です。解雇の規制緩和は、正社員の雇用を促進するために、金銭解決制度(一定の金銭を渡せば正社員でも辞めさせることが出来る)などによって解雇できるようにするという大義名分が付けられています。

 これでは、労働基準法における労働者の地位が守られるはずがありません。

 福岡市の経営者にとっては良いことでしょう、労働者にとってはどうでしょうか。

 これらの規制緩和が一部の地域にとどまっている間に、労働者は不満を持つことはありません。なぜなら、そこで就職することが嫌なら他所で就職すれば良いからです。つまり、国家戦略特区では逃げたい者は逃げられるのです。しかし、これが全国に拡大されると話の質は変わって来ます。

 また、特区を使って、家事支援や農業などへの外国人労働者の受け入れもすでに実施されています。

 しかし、特区で外国人労働者が増え、コロニーを作って来ると、なかなか追い出せなくなるだけでなく、スウェーデン、ドイツ、フランスなどに見られるように、先進国民特有な優しさでもっと人道的な扱いをしようということになり、日本でも中国語や韓国語などの外国語による教育が認められるようになるでしよう。

 そして、何よりも悪いことは、日本人の賃金もまた低いままに抑えられることです。なぜなら、それが外国人労働者の受け入れの目的だからです。

 これまで、労働局が頑張って外国人の流入は最小限に留めて来ましたが、自民党の国家戦略特区のドリルで破壊され、怒涛の如く外国人が流入してくるようになりました。

 廉価な労働者として外国人が増えてくると、国内の完全雇用は達成されません。そして、完全雇用からもたらされる賃金の上昇は起こらなくなり、豊かな労働者は生まれて来ません。

 ちなみに、派遣労働者を使う生産体制の導入はイノベーションとは言いません。

 どうしても、人が足りないことの苦しさから新技術や新基軸が生まれて来るのであって、安易に、安価な労働者を流入させ、日本人労働者も低金銀のままに抑えておくというやり方では、低賃金労働の新しい体制が生まれるだけで、むしろ、イノベーションは起こらなくなるのです

 国家戦略特区で日本中が破壊されているのに、ほとんどの政治家はこれに加担しています。

 地方の政治家もまた中央政府の政策に便乗しようとするばかりで、国家戦略特区の政策に楯突こうという根性のある者はいません。

 国家戦略特区の申請は自治体がやりますから、地域の首長と議員が味方に付かなければ実現しません。だから、国家戦略特区は、自民党の国会議員と地域の首長と議員が共同して創り上げているのです。

 地域の首長と議員もまた地域の企業が喜んでくれれば、選挙資金も自然に集まるようになりますから、地域の首長と議員もまた国家戦略特区に加担したほうが得と思うのです。

 一方で、有権者に気遣っているかと言うと、選挙のための支持者が増えるかどうかについては、有権者は簡単に騙せますから、こちらは余り重視されません。

 特に、民間の労働者の待遇の悪化についてはどうでも良く、政治家は民間の労働者に向けて説明する気持すら持っていません。

 例えば、介護職に外国人を入れることについて、それによって、介護職員の報酬が上がらなくなるのですが、介護職員にその是非を説明するなどという話は聞いたこともありません。

 介護職員が不満を持ったところで、組合運動すら出来なくなっていますから、まったく脅威にならないのです。

 逆に、国家戦略特区では公務員改革は触れられません。公務員が反対すると、政治家にとっても便利な協力者を失い痛手になるので、政治家自身が公務員を守っているからです。

 政治家とはそういうもので、大義名分のためにも、民間の労働者のためにも動かないくせに、個人的な損得勘定で、自分にプラスになることにだけ精力的に動きます。

 だから、公務員改革をやるどころか、政治家の盟友である公務員の利益だけは必死で守ります。

 国家戦略特区については、住民の中でも特に労働者の失うものは莫大でありこれに協力している地方の政治家の罪は大変大きいと言うべきで

 

 

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